その椅子に座れる者。
オレは勇者だ。
いや・・勇者だった。過去形だ。
今はしがない従者をやっている。
主はまだ3歳にもなってないんだよな、コレが。
名前は〔ユウリ〕。
クラスメイトの勇者〔S〕の子供だ。
母親の元魔王の体質を引き継いだようで男の子でも女の子でもないという
不思議体質だ。
表向きは女の子なんだけどね。
まあ、従者と言っても子守だね。
学校もあるので二十四時間付いてる訳じゃあない。
毎日でもない。
でもヒマなときにはお相手をしてる。
今日は元魔王ママがカルチャースクールに行く日だとかで従者の出番となった。
とは言っても勇者パパが見張ってるんだけど。
ココは丘の上の運動公園。
街を見渡せる結構気持ちのいい所だ。
でも油断すると主なユウリが隠密やら隠蔽やら使ってすぐに居なくなってしまう。
本人はカクレンボのつもりみたいなんだけど・・
結構完璧だったりするんだよね。困った事に。
見えなくなったので探したらすべり台の陰にいた。
! なんでトカゲなんか捕まえてるんだよ!
そう思ったら足元が光ってた。
ヤバイ! アレは召喚陣だ!!
慌てて引っ張り出そうとしたけど反対に引きずり込まれた。
気が付けばユウリを抱きしめたまま石の床に転がっていた。
あー・・どこなんだココは?
〔S〕が近くに居たはずなんだけどココには居なかった。
だけど召喚には気付いたハズだよな?
召喚主たちは魔族だった。
魔王さまがある日突然どこかに召喚されたのだと言う。
なので戻って頂こうと魔王さまを召喚しようとした。
なのに来たのはマヌケな従者とどうみても人の子供。
うん・・まあガッカリするのも分かりますけどね。
なんとか帰してもらえませんかね?
どうも呼ぶことはできても帰すことはできないようだ。
困ったね。
あの勇者〔S〕がとんでもない実力者だってことは薄々感じてたんだ。
だから素直に従者を引き受けてるとこもあるんだよ。
アイツを怒らせたくないって気分は分かるだろ?
まだ怒った所は見てないけどコレでアイツ・・
怒らずにいられるかなぁ?
困った・・と思ったらユウリが居ない! 。
ありゃあ・・・またカクレンボしてんのか? 。
と思ったら居たよ! ダメだよ、ソレって魔王さまの玉座だろ!
ちゃっかりよじ登っていた。
周りの魔族どもはビックリ仰天!
なにか呪いが掛かっていたそうで魔王さま以外は
座れないようになっていたそうだ。
つまり何か? コノ玉座に座れたってことは魔王の資格がある
なんてことになるのか?
どうもそうらしい・・
問い詰められて母親は元魔王で父親は勇者だとバラすハメに。
居なくなった魔王さまをもう一度召喚しようと言う人と
ユウリにお飾りでも魔王をしてもらおうと言う人とで別れて
ケンカを始めちゃったよ。
困ったなぁ。
留守魔王派と新魔王派とでも言うか・・
留守魔王派がこんな騒ぎはユウリの所為だと言い出した。
何言ってんだ! お前らが勝手な召喚をしたからだろう!
攻撃してきたので思わずユウリを庇ったらユウリが捕まえてた
トカゲが火を噴いた!
え!?
よく見ればトカゲじゃあなくてドラゴン?! だ。
なんかムチャクチャちっこいけど。
全員呆然としたところで勇者〔S〕がポン! と現れた。
コイツが来ればもう大丈夫だ!
なぜかそう思った。
そしてソレは当りだった。
お留守な魔王さまは別の世界で〔勇者〕になっていた。
ココの人たちは〔魔王〕を召喚しようとしたのでできないのも
当然な話だったんだね。
どうも向こうの世界の召喚陣はココのとはまた違うタイプらしくて
〔実力者〕を呼び出すタイプだったそうだ。
アブナイよねぇ・・
勇者を呼んだつもりが魔王がでてきたんだよ。
実力は充分でも・・・ねぇ。
〔勇者〕のお仕事が済んだら元の世界に帰って来られるように
〔S〕は手配してくれた。
まあ、コレでユウリは魔王をしなくてもイイよね。
チビなドラゴンは〔S〕の相棒なんだそうだ。
トカゲに見えてたのは首輪な魔道具のせいでドラゴンに戻ったのは
ユウリが壊しちゃったかららしい。
でもなんだかユウリのお気に入りみたいだよね。
コイツ子守もしてくれないかな?
〔S〕の送還陣で帰って来た。
と思ったら丘の上ではなくて体育館? な建物の中だった。
「そうだよ。ココは体育館なんだ。
まさかユウリが召喚されるとは思わなかったからね。
油断だったよ。
もっとちっちゃかった弟も召喚されたのにね。
ユウリの安全のためにも君にもココで修行してもらうよ。
まあ、いずれ君にもココに通ってもらおうと思ってたんだよ。
ココは召喚経験のある勇者のための施設だからね」
で・・でもオレ・・ユウリの子守が・・
「大丈夫!
ココの管理人さんたちはアノ子の数少ないお気に入りなんだ。
修行の間位なら充分相手をしててくれるよ」
やっぱりオレには拒否権は無いのだった・・(涙。)