第9話 本当の気持ち
祐羽は過去の後悔を弱々しい声で奏汰に話した。奏汰は祐羽の抱えている辛い過去を知った。祐羽は堪えきれない涙を悔しそうに流しながら泣いていた。
「俺が、俺がいけないんだ。あの時俺が遅れなければ……誘ってなければ…………付き合ってなんかいなければ……あすかは死なずにすんだ」
祐羽は、あすかの亡くなったことに責任を感じていた。去年の冬から祐羽の時間は止まったままだった。奏汰は祐羽の抱える後悔を知り戸惑いながらも答えた。
「……祐羽のせいじゃない。それはお前だって少しは分かってるだろ。それでも付き合わなければよかったなんて考えるな……あすかさんが可哀想だろ。最後に祐羽が笑顔で生きていけるように言葉残してくれたんだろ?幸せに生きろって」
祐羽は真っ赤にした目を奏汰の方に向け、震える声で答えた。
「……でも、俺がまた誰かを傷つけるかもしれない。俺なんかもう幸せになんかならなくていい……」
奏汰は祐羽の悲しげな声を聞いて、少し声を張り上げた。
「お前はあすかさんの最後の願いも聞いてやらないのか!?あすかさんは祐羽に幸せに生きてほしいって言ったんだろ?俺らも、きっとあすかさんも祐羽のそんな辛い顔見たくねぇよ」
祐羽の止まっていた涙が、もう一度こぼれた。机に肘をつき、頭を抱えながら祐羽は答えた。
「……でも、俺はもう」
「……いい加減自分の気持ちに素直になったらどうだ祐羽。……お前美鈴のこと好きなんだろ」
祐羽は驚き目を丸くして奏汰の方を見つめた。そして奏汰が何を言ったのかすぐには理解ができなかった。
「……」
「……いい加減気づけ。自分の気持ちに嘘をつくな……美鈴の気持ちにも気づいてんだろ?だったらもう美鈴のこと泣かせたりするなよ」
祐羽の辛い過去は変えられることではない。あすかも戻っては来れない。それでも祐羽は現実を受け止めようと奏汰の言葉を聞いて思った。祐羽はあすかのことを一生忘れはしないだろう。そして祐羽は心につっかえていた塊のようなものがとれたような気がした。ようやく今まで蓋をしてきた自分の気持ちに気がついた。
「……美鈴のこと好きだ」
奏汰は祐羽のその言葉を聞いて、少しホッとして微笑んで言った。
「それなら早く仲直りしないと」
「……許してれるかな、美鈴」
祐羽の散々泣いて真っ赤になった顔に、少し笑顔が戻った。祐羽の止まっていた時間は動き出した。気がつくと、もう日が暮れ始め夕日が教室を赤く照らしていた。静まり返った教室にチャイムの音が鳴り響いた。
「もうこんな時間か、帰るぞ祐羽」
「……奏汰、ありがとな」
「……おう」
奏汰は祐羽に礼を言われ少し照れた顔を背けた。2人はそのまま夕日に照らされた校舎を後にした。
*****
冬菜は学校から帰ったあと、犬の散歩をするために家の周りを歩いていた。するとそこに美鈴が元気なさそうに歩いている姿を見かけた。
「みずちゃん!」
冬菜は大きな声で呼び止め、美鈴の方に駆け寄る。美鈴はびっくりして冬菜の方を振り返った。振り返った顔は泣いた後の顔をしていたので冬菜は不思議に思って尋ねた。
「……みずちゃん、何があったの?」
「冬菜には隠しきれなかったか」
と言って微笑み、美鈴は放課後にあった出来事を話し始めた。
第9話、読んでいただいてありがとうございます。ブックマーク、感想などよろしくお願いします!!
拙い文章で申し訳ありません。