第3話 ハッピーバースデー
マラソン大会は無事に終わった。祐羽を除いて。
しかし、幸いのことに祐羽は大きな怪我はしなかった。
肌に突き刺さるような寒さの中、冬菜は全身筋肉痛で通常の倍の時間をかけて登校していた。
いつもの通学路なのに、今日はとてつもなく長く感じた。
そんな冬菜を襲った最後の関門。
「なんで、教室4階なんだよーー!」
やっとの思いで、学校まで辿り着いたのに4階まで階段を登らなければならない。
冬菜は日頃から運動しとけばよかったと後悔した。
「……階段が動けばいいのに……」
実現的に不可能な希望を抱きながら、なんとか一年六組の教室まで辿り着いた。
「パーンッ!!冬菜!誕生日おめでとー!!」
教室の扉を開けたとたん、クラッカーがなりクラスのみんながこっちを見て拍手をしている。そういえば十二月六日、今日は自分の誕生日だったことに気がつく。筋肉痛のせいですっかり忘れていた。誕生日が盛大なのは、一年六組が四月から始まって以来の恒例行事だ。クラスに誕生日の人がいる朝はお祭り騒ぎのようになるのが毎度のことである。
「わぁ!!みんなありがとう!!」
冬菜は、嬉しさのあまりぴょんぴょん飛び跳ねながら嬉しそうにしている。
「はい、冬菜おめでとう」
「みずちゃ〜〜ん、ありがとぉ」
「は〜い、俺からも誕プレどうぞ!」
「祐羽くんも、ありがとありがと!」
2人に続き、他のクラスメイトも誕生日プレゼントを渡していく。そんななか、奏汰はなかなか渡しに来ない。大きい袋を持っているように見える。
「ほら、奏汰!早く渡しなよ!」
と美鈴の催促を受け、恥ずかしそうにしながら出てきた。
「……っ、冬菜お誕生日おめでとう」
少し大きめの袋を恥ずかしそうに渡した。
「え、何が入ってるの?!これ!」
「秘密。家帰ってから開けろよ。恥ずいから……」
「そっかぁ、わかった!」
冬菜は何が入ってるのか気になったが、家に帰るまでの楽しみにしとこうと思った。
*****
朝のお祭り騒ぎがあった日の放課後のこと。
「みずちゃん帰ろ〜」
「ごめん、冬菜。今日図書委員の仕事あるんだ……ごめん、先帰ってて!」
美鈴はごめんっと両手を合わして謝った。
「あ、大変だね。がんばってね!」
冬菜はガッツポーズをして美鈴にエールを送る。
「ありがと、じゃあ行ってくるね!また明日〜」
「バイバ〜イ!」
といって、美鈴を見送った。よし帰ろうと思った時に美鈴と入れ違いに奏汰が入ってきた。
「あれ、美鈴どっかいったの?」
「図書委員の仕事だって」
「そっか〜、ってことは、冬菜帰りは一人?」
「うん。そうだよ」
奏汰は 嬉しさのあまり叫びたくなる気持ちを抑え、ニヤつきそうな顔を表情に出さないようにがんばって平然の装いを演じる。
「じゃあ、久々に一緒に帰らない?」
「祐羽くんは?いいの?」
「んー、いいよ! (あとで、メールいれとこ)」
祐羽には何の断りも入れてなかったが、祐羽なら分かってくれるだろうと友達を信じることにした。奏汰と、美鈴が一緒に帰る姿を目撃した祐羽は、奏汰の期待通り全てを察した。
*****
冬菜と、別れた美鈴は図書室へ向かった。
「お、堺さんやっほ〜」
と、美鈴の方を向いて手を振っているのは、同じく図書委員で、三組の坂口 零だ。
後期の図書委員では、二人で図書当番だったのでそれなりに仲良くもなった。
「坂口くん、今日も早いね。やる気満々じゃん」
「いや〜、そうでもないね。じゃんけんに負けて図書委員やってるわけだし」
と言いながら、クルクル回る椅子でクルクル回っていた。図書当番といっても、あまりというかほとんど借りに来る生徒はいないのでほぼ、零と美鈴の雑談タイムになっている。
「腹減ったなー、そうだ堺さん今日帰りどっかよらない?」
「んー、別にいいけど?」
「おお!やった〜!」
何回か図書委員で顔をあわせるうちに零は美鈴のことが気になり始めていた。当番の時間も終わり2人でドーナツ屋に行くことにした。
「やっと、仕事終わったー!」
「今日も、誰も借りに来なかったね。」
「ほーんと、俺たち居る意味ないよね」
「ほんとだよね」
2人で笑いながらたわいもない会話をしながら、学校を出た。
一方、奏汰に置いてかれた祐羽は、何も考えずふら〜っと街中を歩いていた。クリスマスシーズンが近いので街中がキラキラ輝いている。道沿いにある街路樹は電飾で飾り付けられ、大きなクリスマスツリーが飾られていた。そしてその下をたくさんのカップルが歩いていた。
「……クリスマスね……」
そんな、カップルと、キラキラの電飾を見ながらそんな街の雰囲気とは裏腹に祐羽は暗い顔をしていた。
「……あれ、美鈴?」
祐羽は向こうの方に美鈴っぽい女子高生を見つけた。じっと見ていたらやっぱり美鈴だった。
隣には、同じ制服の男がいる。
「美鈴って……彼氏いたっけ……まぁ、いっか……」
心の奥の方がザワッとした。
「……」
なぜか、隣にいる男が誰なのか気になった。しかしそれが何で気になるのかは祐羽にはわからなかった。わかりたくなかった。わかってはいけなかった。
******
奏汰と別れ、家に着いた冬菜はみんなから貰った誕生日プレゼントを開けていた。
「お、奏くんはいったい何をくれたんだ……?」
ウキウキしながら袋の口を縛っているリボンをほどく。
「わーお!クマさんだ!」
中には少し大きめのクマのぬいぐるみが入っていた。女子高生にぬいぐるみを誕生日プレゼントに渡す人もなかなかいないと思うが。
「奏くん、わかってるな〜!」
奏汰は冬菜が喜びそうなものをと選んだら、ぬいぐるみしか思いつかなかった。男子高校生がぬいぐるみを買いに行くのは相当な勇気が必要で、無理やり祐羽を引き連れて買いに行っていた。
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「冬菜喜んでくれたかな〜〜」
奏汰は自分がプレゼントした人形をもってる冬菜を想像して、嬉しくなり顔がにやけてきた。
第2話でした!読んでいただきありがとうございます。ブックマークも、4件ありがとうございます!これからもよろしくお願いします!!変なとこあったら教えてください!
新しい登場人物出てきましたね!坂口 零くんです!