第18話 心の中
祐羽は勢いよく教室を飛び出した。その後を慌てて奏汰が追いかける。昇降口まで行ったところで奏汰が祐羽の手首を掴み、息を切らしながら祐羽を呼び止める。
「祐羽、いきなり飛び出してどうした」
祐羽は奏汰と目を合わせようとせず、ジッと床を見つめて何も話そうとしない。奏汰は、掴んでいた手を離し祐羽に問いかける。
「祐羽、また何も言ってくれないのかよ」
祐羽は、無言で靴を履き替えゆっくりと歩き出した。奏汰も急いだ靴を履き替え追いかける。祐羽は、俯きながらボソボソと小さな声で話し始めた。
「クリスマスの日、アスカのことは話したんだ。けど、その後美鈴が辛そうな顔してるからこれ以上困らせたくなくて、勇気もなくて告れなかった。冬休みの間、返信も返ってこなくて。さっき別のクラスのやつと楽しそうにしてたし、俺は美鈴を笑顔にするどころか困らせてばっかだ。俺にはさっきのあいつみたいに美鈴を笑顔には出来ないんだよ」
奏汰は祐羽の前に立ちはだかり、両肩を掴みジッと祐羽の俯いた顔を見つめる。
「美鈴を笑顔にするのがお前じゃなくて、どっかの誰かでも別にいいのかよ。好きって気持ち伝えてみなきゃ美鈴の本当の気持ちはわからないよ」
祐羽は、顔をあげ奏汰を今にも泣き出しそうな顔で睨みつける。
「そんなの当たり前だろ。俺が笑顔にしてやりたいって、美鈴の笑顔は俺に向けられたいって思ってるよ。でも、そんな簡単にはいかねぇんだよ。奏汰には分かんないだろ、俺の気持ち」
奏汰は、祐羽の肩を握る手を強くする。
「あぁ、わかんねぇよ何も。祐羽が話してくれなきゃ。それと同じだろ、美鈴も祐羽も話さなきゃ相手の気持ちなんか分かるわけないだろ。自分の気持ちも言わなきゃ分かってもらえないんだよ」
「手遅れになる前に、伝えろ祐羽。自分の気持ち」
祐羽は、少しためらったが奏汰に力強く頷き走って昇降口まで戻る。しかし、美鈴の下駄箱にはもうローファーはなかった。あたりを見回すが美鈴の姿は見つからない。急いで制服のポケットから携帯を取り出し、お願いだから出てくれと祈りながら美鈴に電話をかける。
『......はい』
電話越しに、細々とした美鈴の声が聞こえる。
「もしもし、美鈴。今どこ」
電話に出た喜びと緊張で、胸がドキドキする。
『……公園の前、だけど……』
「わかった、今すぐ行く」
祐羽は場所を聞き出すとすぐに電話を切り、走り始める。
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美鈴は冬菜と別れた途端、いきなりかかってきた電話を切られどうして良いかわからず公園の前で立ち尽くしていた。ただわかることは、祐羽の声はいつもとは違った。
数分経つと、祐羽が息を切らしながら走ってきた。
「祐羽、どうしたのいきなり」
祐羽は膝に手をつき呼吸を整えながら答える。
「だって美鈴、メールも返してくれないし、今日一日俺のこと避けるし」
「そ、それは……」
美鈴は一歩後退りし、目線を横にずらす。
「それは?」
祐羽ら声をワントーン下げ、一歩美鈴に近づいきジッと顔を見下ろす。美鈴は顔をそらし困った顔をしていた。
祐羽は小さく深呼吸をし、喉の奥でつっかえている言葉を吐き出した。
「……好きだ」
そらしていた美鈴の顔がパッと祐羽の方へと向く。驚いて目をまん丸くし、祐羽の顔をジッと見つめる。美鈴は戸惑いながら口を開く。
「で、でも、アスカさんは?」
祐羽は迷いのない口調で答える。
「高校入って恋なんか、幸せになんかなるのはダメだって思ってたのに美鈴のこと気になってた。でも好きじゃないって思い込もうとしてたけど、無理だった。どうしようもないくらいに美鈴のことが好きだ」
美鈴はその言葉を聞いて、目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……私、祐羽はアスカさんのことまだ好きだって、アスカさんには敵いっこないって思ってた……それ以上自分が傷つきたくなくて、祐羽のこと諦めようとして避けてたの。自分勝手でごめんね」
「それって……」
「……私も、祐羽のこと……好き。大好き」
祐羽はそっと美鈴に近寄り、頭を抱え優しく抱きしめる。祐羽の目からも涙がこぼれ落ちた。
「俺も、大好き」
祐羽はしばらくの間美鈴を力強く抱きしめた。
お久しぶりです。りとうゆあです。
4ヶ月ぶりぐらいの更新でした。
更新頻度は低いですが、まだ引き続きお付き合いお願いします!