第17話 新学期
祐羽は送信ボタンを押してからずっと携帯を握りしめ返信を待っていた。しかし、美鈴からの返信は一向に来る気配がしない。一時間、二時間と時間だけが過ぎてゆく。祐羽は溢れ出してくる涙をこらえながら立ち上がり、携帯を勢いよくベッドの上に放り投げた。たくさんの後悔が祐羽の胸に突き刺さる。
もっと早く話していれば。
このまま返ってくるか分からないメールを待つより直接伝えてしまえばよかった。
美鈴にあんな顔させて、むしろ初めから過去なんて話さなきゃよかった。
ただ『好き』というたった二文字の言葉を伝えたい。
冬休みの間、返信は返ってこなかった。
*****
年が開け、新学期が始まった。
奏汰と冬菜は新学期初日から二人でラブラブしながら登校する。二人が付き合っているという噂は、一日であっという間に広まった。
二人が教室へ入ると、美鈴が先に席に座っていた。
「みずちゃん、久しぶり〜!おはよ!」
「おはよーっす!」
冬菜と奏汰が息のあった挨拶をする。美鈴はそれを見て微笑ましくなった。
「おはよ!二人ともラブラブだね〜」
美鈴に言われ、奏汰と冬菜は顔を赤くする。
そんな会話をしていると、祐羽が教室に入ってきた。奏汰が声をかける。
「よっ、祐羽!」
美鈴は祐羽に気づき目線を下にそらす。
「よ、奏汰。久しぶり」
祐羽は、挨拶をしながら奏汰の奥に座る美鈴に視線を向けるが、こちらを見ようとはしていない。そのまま奏汰の元へは行かず小さくため息をつきながら自分の席へ向かった。
それから始業式に向かうため教室から体育館へ移動するときも、課題を提出するときも祐羽は美鈴に話しかけようと近づくが避けられる。
そうこうしているうちに一日が終わってしまった。早く話しかけないと美鈴と話すチャンスがなくなってしまう。
祐羽は思い立ったように席を立ち、冬菜と教室を出ようとする美鈴を追いかける。教室の入り口付近に近づくと、美鈴は冬菜とではなく誰かと話していることに気がついた。
「久しぶり美鈴。この間はごめんな」
女の声ではなく、男の声だった。
「ううん、大丈夫」
その男と話す美鈴の表情はとても穏やかに微笑んでいて、祐羽はそんな美鈴を初めて見るような気がした。
祐羽は、目の前の状況にいたたまれなくなり机に戻りカバンを掴み取り、反対側の入り口に向かって走り出した。
「祐羽!!え、待って!」
突然教室を飛び出す祐羽に驚き、奏汰は大きな声で呼び止める。しかし祐羽は振り向かえらずに出て行った。奏汰は慌てて追いかける。
美鈴は話している零の向こうで勢いよく教室から飛び出していく祐羽を見た。
「美鈴?」
急に会話の口が止まり自分の後ろの方を驚いた表情で見つめる美鈴に思わず声をかけ後ろを振り向くが特に変わった様子もなかった。
「美鈴?どうかした?」
零が呼びかけると、魂が戻ってきたかのようにハッと我に返った。
「あ、ううん、ごめん。久々の学校だし疲れちゃたかも」
零に軽く微笑んで答える。
「じゃあ、また。帰ろう、冬菜」
美鈴は零に手を振り歩き出す。
冬菜は慌てて零に軽く頭を下げ早足で昇降口に向かう美鈴を追いかけた。
昇降口を出ると、寒空の下部活動に励む生徒たちの掛け声がグラウンドから聞こえた。
「ねえ、冬菜。あのさ……」
「んー?」
「…………えっと、やっぱなんでもない。そ、そういえば奏汰と付き合ってしばらく経つけどどんな感じなの?」
美鈴は何かを言おうとしたがやめた。
「えーっとねー、奏くんと毎日電話したりしてる」
奏汰のことを考えているときの冬菜の顔のにやけ具合が前より酷くなっている。見るからに幸せオーラが漂っていた。
「みずちゃんと、祐羽くんにはほんと感謝してる。ありがと!」
美鈴の手を両手で握り笑顔で話す冬菜はとても無邪気で可愛いくて、少し元気を分けてもらえるような気がした。
「こちらこそ、冬菜が幸せだと私も同じくらい嬉しいよ」
冬菜が急に駆け出し満面の笑みで振り返る。
「みずちゃん、ダイスキ!」
久々に会う親友は、冬菜は、一緒にいるだけで元気をくれる大切な存在だと改めて感じた。
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