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妹の気になる人。

作者: 鈴本譲

俺の妹は最高に可愛い。それは自他共に認めるシスコンの翔平の口癖だ。


可愛い可愛い妹は翔平が7歳の時に生まれた。ずっと兄弟が欲しかった翔平は毎年のクリスマスにサンタさんにこっそりとお願いをしていたため、6歳のクリスマスに両親から母のお腹には妹がいると告げられた時は飛び回って喜んだのを昨日のことのように覚えている。


あれから10年経った今でも妹が可愛くて可愛くて仕方ない。そんな妹から衝撃の発言をされたのは夏休みも目前に控えた7月の夕方だった。



「お兄ちゃん。私ね、気になる人がいるの。」

妹の聖奈は静かに言った。毎週火曜日にある絵画教室の送り迎えは翔平の役目でいつも楽しみにしてた。帰り道は決まってニコニコとその日あった出来事について話すのに、今日は笑顔もなく何か考えるような妹の様子に翔平は疑問を抱いていた。

しかし、まさかまだ10歳の妹から気になる人の話をされるなんて思いもしなかったため、ショックでならなかった。

「ど、どんな子なの?」

おずおずと問いかけると少し恥ずかしそうに「キレイな人なの」と答えが返ってきた。どんな奴なのか気にはなったが、ショックのあまり根掘り葉掘り聞くことは出来ない。誰かに相談しようかとも考えたが「みんなには内緒だよ。お父さんにもお母さんにだよっ。」と可愛い笑顔で言われてしまって可愛い妹をどこの馬の骨かもわからないやつに取られてしまった悲しみを相談することは叶わなかった。


その日から火曜日の帰り道は聖奈の気になる人の話に変わった。まだまだ悲しいがこんなに可愛い妹の笑顔を見れるのは俺だけだと自分に言い聞かせ、耳を傾ける。

翔平の知っている情報はふたつだけ。「キレイな人」だという事と「毎回列車の絵を描いている」という事だ。聖奈はその日描いていた列車について話してくるが、そんな奴のどこがいいの翔平にはわからなかった。

仲良くされてもムカついてしまうが、可愛い聖奈と話さないのもそれはそれでムカついてしまう。絵画教室に来ておきながら毎回列車の絵しか描かない変なのどこが良いんだと内心毒づく。


その時、突然の聖奈が走り出した。

「美弥子ちゃん!!」

いつもは大声を出さない聖奈にしては珍しい事だ。慌てて追いかけると儚く消えてしまいそうなほど美しい女性がベンチに座っていた。

「あら、聖奈ちゃん。さっきぶりね。その方はお兄さんかしら?」

その問いかけに嬉しそうに「そう!聖奈のお兄ちゃん!翔平って言うんだよ!」と答えた。誰だろうと疑問を感じながらも翔平は頭を下げた。

「いつもお話伺っております。聖奈ちゃんと同じ絵画教室に通っている美弥子と申します。」

美しい女性に話しかけられてドギマギとしながらも翔平は挨拶をした。そして、質問を1つ投げかけた。


「聖奈がいつもお世話になっております。聖奈の兄の翔平です。た、大変失礼なのですがどこかでお会いしたことありませんか。」


女性は驚いたような顔をして「ええ。列車の中で」と答えた。そしてすぐに「そろそろ失礼します。聖奈ちゃん、また来週ね」と笑顔で言い残し、去っていった。


その笑顔に胸打たれ、ぼーっとしてしまい、大好きな妹の存在を忘れてしまっていた。手をくいくいっと引っ張られ「お兄ちゃん?」と不思議そうな声が聞こえた。

「あ!う!え!ああ!聖奈!ごめんな!どうした?」

「変なお兄ちゃん…。さっきの美弥子さんがいつも言ってる絵画教室で列車の絵を描いている気になる人だよ。お兄ちゃんの知り合い?」

気になる人が女性なのに驚きながらも「思い出せないんだ」と答え、「気になるってどうして気になるんだ?」と問いかけた。聖奈は少し考えてから「あんなキレイな人を思い出せないなんてびっくりしちゃうよ。美弥子さんってね、いつも愛おしそうに列車の絵を描いているの。だからかなぁ。なんか気になっちゃうの!」と言った。

気になるの意味に恋愛感情が入っていないことにホッとしながらも、美しい美弥子を思い出せないことに少しもやもやを感じつつ、妹と帰路につく。



翔平はまだ知らない。夢の中の列車で美弥子に会うこと。そして、次の絵画教室から美弥子の絵が変わることを…。

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