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おめでとう、俺は美少女に進化した。  作者: 和久井 透夏
第9章 二次元って素晴らしい
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第69話 本音しか言いません

 俺と中島かすみの二人で稲葉の家を襲撃した日の夜、最近とんと顔を見なかった一真さんがすばるの部屋を訪ねてきた。


 以前のイベントで、今度のイベントはしずくちゃんが参加するらしいと連絡をもらって以降、なんの連絡も無く、しずくちゃんも全く姿を見せないので、俺は心配していたのでいいタイミングだ。


 せっかく稲葉の視線を多少だがしずくちゃんに向ける事ができたというのに、肝心のしずくちゃんが出てこないのでは始まらないしね。


 とりあえず一真さんをリビングに通し、ティーバッグで紅茶を入れる。


 しずくちゃんはしばらく見てないけれど、元気にしているだろうか、まさかとは思うが、前回の事がきっかけになって稲葉に対して諦めがついてしまったりしていないだろうか。


「お久しぶりです」

 そう言っていつものようにニコニコと笑みを浮かべている一真さんが持ってきた洋菓子は、今まで時々持ってきた菓子類とは明らかに違った。


 ケーキなどについてはあまり詳しくないが、ちょっと昭和なテイストのイラストがプリントされた洋菓子店の袋だった。


 開けられた箱には、濃ピンク・緑・黄・茶と4色のマカロンが入っている。


「近所の明治時代から続いている老舗洋菓子店のマカロンです。気に入っていただければ良いのですが」

 可愛らしい洋菓子に思わず目が奪われてしまったが、俺はすぐに一真さんに視線を戻す。


 久しぶりに訪ねてきたと思ったら、《《わざわざ俺のために買ってきた》》と思われるおもたせを持ってきた。


 今まで一真さんはたまにお菓子を持ってくる事はあったが、どれももらい物だとか、自分が食べたかっただとか言っていたのに。


 再び箱に詰められたマカロンに目を戻した俺に、

「心配しなくても毒なんて入ってませんよ」

と茶化すように一真さんは言った。


「毒は心配してませんが、コレを受け取ったら何を要求されるのかな、とは思ってます」

 黙っていても仕方が無いので、一真さんの目を真っ直ぐ見つめ、ストレートに尋ねてみる事にする。


「実はちょっとすばるさんの力を貸していただきたくて」

 対して、一真さんは全く怯むことなく答える。


「それは、前回コスプレイベントに現れて以来、しずくちゃんを全く見かけないことと何か関係がありますか?」


「話が早くて助かります。実はそのイベントの後、しずく嬢は例の如く自分の部屋に引きこもっていたのですが……」

 出した紅茶に口をつけ、ため息混じりに一真さんはしずくちゃんについて説明を始めた。


 元々、しずくちゃんは落ち込みやすい性格らしく、稲葉を追って上京してからも、稲葉へのアタックが失敗する度にしばらく部屋に閉じこもり、しばらくすると復活するという事を繰り返していたらしい。


 今回も、イベントに参加して稲葉に近づくも、稲葉にふられて落ち込んだしずくちゃんは自分の部屋に閉じこもった。

 そこまでは普段と変わらない。


 いつものように数日、長くても一週間もすれば自分で部屋から出て、復活するだろうと誰もが考えていた。


 ところが、今回ばかりはそうはならなかった。


 しずくちゃんは春休みが終って高校が始まっても、部屋から出る気配は一向にない。

 たまに手を付けられずに置いたままになっていることもあるが、一応食事は摂っているようだし、中から生活音やテレビの音は聞こえるので生きてはいるらしい。


 トイレやシャワールームも部屋についているので必ずしも部屋から出る必要は無く、しずくちゃんはもう一ヶ月近く自分の部屋に引きこもっているらしい。


「なんでまたそんな事に……今までは長くても一週間で自分から出てきてたんですよね?」

「それについては既に原因は判明してるんです」

 呆れながら尋ねれば、一真さんは右手で頭を押さえながら静かに首を横に振った。


「前に話した、新しく入った新人が、余計な事をしてくれまして……」

 例の情報分析に優れたヲタクだろうか、と俺は一真さんの話を聞きながら考える。


「それで、何したんです?」


「しずく嬢にゲームや漫画など、暇を潰せそうな物を差し入れしたんですよ。今まで彼女の部屋にそういった物はありませんでしたからね。しかも、どうやらすっかりはまってしまったようで、今も引きこもり生活を楽しんでいるようなんです」


 言い終わると、一真さんは深いため息をついた。

「それは……」


 なんだその人を堕落させる才能に溢れた新人は、とは喉元まで出かかったが、俺はなんとかその言葉を飲み込んだ。


「このまましずく嬢が学校を休み続けて進級できなくなれば、僕らの監督責任が問われますし、何よりこのまま彼女が現在の恋を諦めてしまうと、僕は今の美味しい仕事を失くしてしまいます」


 全くブレない一真さんの残念な言い分に、もはや安心感さえ憶えた。


「最後のが本音ですね」

 俺が言えば、一真さんは小さく笑って、

「最後も何も、僕は本音しか言いませんよ」

 なんてまた適当なことを言っている。


「はいはい、それは素敵ですね」

 俺は棒読みな調子で答えつつ、ふと首を傾げた。


「それで、私にどうしろって言うんですか?」


「正確にはお願いをしたいのはすばるさんの彼氏なんです。なんとかしずく嬢を部屋から出るように説得してくれないか渡りをつけて欲しいんです」


 なんだそんな事か、ビビらせやがって。

 と言うのが正直な感想だった。


「わかりました。私から稲葉に頼んでみます。流石にそれで単位落とされても、寝覚めが悪いだけですしね」

 了承の意を俺が一真さんに伝えると、なぜか今度は一真さんはきょとんとして首を傾げた。


「案外あっさり引き受けてくれるんですね。もっと渋られるかと思いました」

 言われてみれば、恋敵が部屋に引きこもって出てこないので、彼女を出すためにあなたの彼氏を貸してくださいといわれて、あっさり貸してやる人間もそうはいないだろう。


 俺としては、稲葉としずくちゃんをくっつけたいので、むしろここでしずくちゃんが退場してしまう方が困るというだけなのだが。


「あら、心外ですね。私はコレでも博愛精神に溢れた人徳者なんですよ」

 ここは適当にごまかしておくかとすこしふざけた様子で言ってやれば、一真さんに優しく微笑まれた。


「はいはい、そんなすばるさんも素敵だと思いますよ」

 なんだか、あしらったのは俺のはずなのに、逆に上手くあしらわれたような気分になって、イラッとした。

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