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おめでとう、俺は美少女に進化した。  作者: 和久井 透夏
第8章 恋と敵と恋バナと
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第64話 そんなことなくもなかった

「普通に見ると、+プレアデス+が稲葉の友達、鈴村将晴と同棲しつつ、更に稲葉と隣の男の人と三股をかけているように見えるにゃ」

 普通にみると、なんて言いながら、中島かすみは事実よりも更に斜め上なとんでもない超解釈を持ち出す。


かじかの友達の+プレアデス+は魔性の女なのか、それとも何か別の答えがあるのか、気になるにゃん」

 ニコニコと笑顔で中島かすみは俺に尋ねてくる。


 しかし、ついさっき俺の正体を言い当てた辺り、中島かすみは薄々真相には気付いているのだと思う。

 わかった上で、俺に聞いているのだろう。


 できる事ならあまり正体を晒したくなかったが、こうなってしまった以上仕方が無い。

 俺は中島かすみの前でウィッグを外した。


「俺が、将晴だ」

「髪も伸びてるし、その可愛い顔で言われてもあんまり説得力ないにゃ」

 意を決した俺のカミングアウトは、なぜか中島かすみに一蹴されてしまった。


「はいはい、じゃあ一旦メイクとカラコン落としますよ」

「や、態度と声で確信は持てたからいいにゃ」


 半ば自棄になりつつ席を立とうとすれば、今度は止められた。

 俺が鈴村将晴であると認め、中島かすみがそれに確信を持てたらそれでいいらしい。


「それで、俺は何を話せばいい?」

 再び椅子に座り直し、腕を組む。

 もう女らしく振舞う必要もないと思うと、一気にがさつな感じになるのは仕方が無い。


「途端に態度がワイルドになったけど、見た目はさっきからちょっと髪が短くなった位しか変わってないにゃ。とりあえず、将晴は稲葉と本当に付き合っているのかにゃ?」

 気を取り直して中島かすみも席について俺に質問をする。


「本当にそうだと思うか?」

「中身が女の子かとも思ったけど、その様子を見ると……そういうプレイにゃん?」

「プレイとか言うな! 心も男だよ! 稲葉の女避けに女装して彼女のフリしてるだけだよ!」


 そこまで言って俺はハッとした。

 つい元気よく事情を話してしまった。

 まあここまでくると、今更隠してもしょうがない気はするが。


「つまり、お前は稲葉の事がまだ好きだけど、彼女がいるなら諦めようと思ってた。でもいないならちょっかい出してみよう。そんなところか」


 中島かすみの発言を先読みして俺は話す。

 こうなったら、せめて会話の主導権を握って、できるだけ優位に立ってこの場を乗り切るしかない。


「うーん、それも楽しそうだけど、やっぱり雨莉がいないとなると若干物足りなさを感じるにゃ。それに、将晴も稲葉が好きという訳でもなそうだしにゃあ」

「は?」

 ところが、当の中島かすみはといえば、身体ごと傾けて悩むような素振りで訳のわからない事を言う。


「稲葉にちょっかいを出すと必然的に雨莉も遊んでくれるから楽しかったけど、もうお姉さんとくっついちゃったんならそれも見込めないにゃ」


 ふと、電話での一宮雨莉との会話が思い出される。


「……もしかして、鰍は稲葉より一宮の方が好きだったりするのか?」

「どっちも同じ位好きだにゃん。」

「いや、どういうことだよ」


 自分の眉間に皺が寄っているのがわかる。

 何を言っているんだこいつは。


「羨望、心酔、依存、そういうの抜きで鰍と仲良くしてくれたのは稲葉と雨莉だけだったにゃん」

「んん? ごめんよくわからない」

 だめだ、マジでこいつが何を言っているのかわからない。と、俺は中島かすみに説明を求めた。


「中学の頃、鰍は人との接し方がわからなかったにゃん。普通に接してるつもりだったのに、気が付いたら周りから距離をとられてたにゃん。でも、ある時稲葉が素の自分が好かれないなら好かれる自分を演じればいいって教えてくれたにゃん」


 今度は稲葉との会話を思い出す。

 確か、中学の頃の中島かすみはもっと大人しい女の子だったそうだが……。

 まさか本当に稲葉の中二病発言が、中島かすみの人生を変えたとでも言うのだろうか。


「それで周りの人間を今まで以上によく観察して、相手が望む事を偶然を装ってやってあげたり、相手が言ってほしそうなことを言ってあげたら、鰍はすぐに人気者になったにゃん」


 それだけでそんなに上手くいくのなら、この世にボッチなんて存在しないと反論しようと思ったが、ふと、高校時代の中島かすみを思い出した。


 学年主席で特進クラスのエース。

 うちのクラスの奴に勉強法を聞かれた時、教科書を丸暗記すればいい。一度読んだら大抵の事は忘れないだろうと不思議そうに答えていた。


 根本的に頭の出来が違うのかもしれないと思うと、非常に悔しいが妙に納得できてしまう。


「でも、気が付いたら周りから必要以上に理想化されて、依存されて、ちょっと面倒な事になってたにゃん。だから、うちの中学から誰も進学しない高校を選んで、合格発表があるまで先生以外にはどこに行くのかひた隠しにしたにゃん」


 何それ恐い。


 というか、そんな事本当にあるものだろうかと考えて、自分の弟と妹の事を思い出して、俺は否定の言葉を告げようとした口を静かに閉じた。


 そんなことなくもなかった。


「高校に進学してからは今までとは全然違うキャラを演じて中学からの追手をまきつつ、普通の高校生活を送るはずだったのに、気付いたらまた周りが中学の時みたいになってて、困ってたら別のクラスに稲葉を見つけたにゃん」


 うちの高校は基本中学からのエスカレーター組がほとんどで、外部から編入してくる生徒もいるが少数派だった。

 ということは、中島かすみが稲葉のいるうちの高校に進んだのは偶然だったのか。


「そしたら将来を誓った仲の幼馴染と婚約者とフィアンセに取り合われてたみたいだったから、許婚ってことにして混ぜてもらう事にしたにゃん」

「待て、どうしてそうなるんだよ」


 今までの流れでうっかり納得しかけたが、それはおかしい。

「他が埋まってたから役柄的に許婚しか空いてなかったにゃん」

「そうじゃなくて、どうしてそこで混ぜてもらおうって事になるんだよ!?」


 俺のつっこみに、中島かすみは事も無げに答える。

「稲葉の事が好きって事にしとくと、少なくとも告白を断るいい口実とけん制になるにゃん。それに、別のクラスに入り浸ってれば必要以上に話しかけられることも減るにゃん」


 あんまりにもあんまりな理由を述べた後、中島かすみは、ああでも、と思い出したように言った。

「稲葉は私が何をしても寄りかかってこなくて、かつ大抵の事は流してくれるから、もし付き合うにしても、稲葉ならいいかなとは思ってたにゃん」


 その言葉に俺は絶句した。

 それは、好きと言うよりは消去法じゃないか。


「でも、当時彼氏にするなら稲葉以外にはありえなかったから、間違ってはいないにゃん」

 更に付け足すように中島かすみは言う。

 何が間違っていないのかはわからないが、俺から見れば全てが間違いだらけである。


「そもそも、なんでそんな執拗にキャラを演じようとするんだよ」

 呆れながら俺は尋ねた。


「そうした方が人間関係が円滑に進むにゃん。私がこうしてキャラを演じる事で仲良くできなかった人間なんて、せいぜい私の家族位にゃん」

「えっ……」


 突然の重い発言に、俺は咄嗟にかける言葉が見つからなかった。

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