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おめでとう、俺は美少女に進化した。  作者: 和久井 透夏
第8章 恋と敵と恋バナと
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第60話 よろしくにゃん

「やっぱり稲葉だったにゃん」


 中島かすみは稲葉に手を振った後、こちらの席に来るように手招きをする。


「へ」

「実は稲葉とは高校の同級生で、写真を見た時もしやと思ってずっと気になってたにゃん」

 思わず間抜けな声を上げた俺に、中島かすみは稲葉を知っていた理由を俺に説明するが、俺が驚いたのはそこじゃない。


 中島かすみが稲葉を『ダーリン』とは呼ばずに名前で呼んだことだ。

 てっきりこの場で俺に宣戦布告するつもりなのだろうかと身構えたのだが違うのだろうか。


「……もう知っているかもしれないが、実は俺、今こいつと付き合ってるんだ!」

「知ってるにゃん」

 俺達の元へやってきて、俺の横に座ったかと思うといきなり俺の肩を抱いて交際宣言をする稲葉の発言を中島かすみは軽く流す。


「たまたま一緒に仕事をする事になった相手と高校の同級生が付き合ってるみたいだから、ちょっと話を聞いてみたかっただけにゃん」


 好きだった相手でも仲の良かった友達でもなく、稲葉の事をただの同級生と、中島かすみは言い切る。


「もし良かったらまたお話したいので、連絡先を聞いてもいいかにゃ? 稲葉も、実は前に使ってた携帯が水没して連絡先が消えちゃったから、また教えて欲しいにゃ」

 携帯を取り出したながら中島かすみが言う。


 俺と稲葉は顔を見合わせた。


 稲葉とどんな別れ方をしたのかは知らないが、中島かすみは稲葉について特に未練はないのだろうか。

 中島かすみが何をしたいのかわからない。


 しかし、中島かすみの狙いが何であれ、既にSNSの履歴を一通り漁られる程度にはロックオンされているようであるし、ここは下手に距離を置くよりも、何かあった時の連絡手段を用意しておいた方が都合が良いかもしれない。

 俺はすばる用のスマホを取り出し、ラインのIDを表示し、中島かすみに見せた。


「ラインやってます? これ私のIDなんですけど」

「やってるにゃん! ……これで登録完了にゃん!」


 中島かすみはすぐにスマホを取り出して、ラインを起動し、俺のIDを読み込んだ。

 すぐに俺のラインにも友達『かじか』というアカウントから友達通知が来た。

 とりあえず、コレなら一宮雨莉の時のように連絡先を交換した時に変なアプリを一緒に入れられる事もないだろう。


「アカウント名の『すばる』って、もしかして本名だったりするにゃん?」

「はい、本名は朝倉すばるといいます。よろしくお願いしますね」

かじかの本名は中島かすみっていうにゃん。よろしくにゃん」


 流れですばるの方の名前を名のれば、中島かすみは案外あっさりと自分の本名を話した。

 この場に稲葉がいる以上、下手にごまかしても後ですぐに本名がわかってしまうからだろうか。


「本名明かしても尚その一人称としゃべり方なのか……」

「中島かすみに憑依した猫又が鰍っていう設定だから、本名はあんまり関係ないにゃん」

 呆れたように稲葉が言えば、なんでもないように中島かすみが言う。


 今、普通に設定とか言っていたが、それでもそのキャラを押し通すのか……。

 その妙なこだわりぶりに、いっそ矜持のようなものさえ感じる。


 俺はもう逆に感心してしまったが、稲葉はそうか、と苦々しい顔で返事をしただけだった。


「稲葉も、また連絡先教えてくれるかにゃ?」

「ああ……」

 そう言って連絡先を交換する笑顔の中島かすみと妙に暗い顔の稲葉は随分と対照的だった。




「それじゃあ鰍はこの後予定があるので、そろそろ失礼するにゃん」

 結局、俺達は連絡先を交換した後、中島かすみは自分の分の金を置いて帰っていった。


 中島かすみにとっては俺は恋敵のような存在になると思うのだが、特に修羅場になる事もなく普通に趣味の話をして連絡先を交換して終った。

 あいつは本当に何がしたいんだろう……。


 それとも、現在稲葉に関してはそこまで関心はないのだろうか?

 なんて考えながらふと稲葉を見れば、なぜか随分と冷や汗をかいて深刻そうな顔をしていた。


「どうしたんだよ、そんなこの世の終わりみたいな顔して」

「お前は気付かなかったのか?」

 体の前で組んだ両手を握り締め、緊張した面持ちで稲葉が言った。


「何がだよ?」

「あいつ、遠目で俺を見て、すぐに俺だって認識したんだぞ」

「それがどうしたんだよ?」

 俺は首を傾げる。


「俺があいつと最後に会ったのは高校卒業の日だ。その頃に比べたら髪だって伸びたし染めたし、今は肌だって黒い。服の趣味だって変わった。それをあいつは一目見て俺だって認識したんだぞ」

「でも最近の写真なら俺のツイッターの写真を漁れば……」


 そこまで言って俺は気付いた。


 +プレアデス+のアカウントは大学の知り合いも見ているからと、稲葉に頼まれて前回優奈と三人で参加したイベントの写真は稲葉の分だけ抜いて掲載している。


 中島かすみの言っていたメイドの女装コスプレだって、黒髪のウィッグを着けていたので、現在普段の稲葉が髪を伸ばしたり染めたりしている事はわかるはずがない。


 つまり、中島かすみがいくら俺のツイッターの画像を漁ろうと、高校時代の稲葉しか知らない中島かすみが、今の稲葉の姿を想像できるはずがない。


 俺から見ても、今の稲葉は高校時代の稲葉とは別人レベルにビジュアルが変わっている。

 確かによく見れば面影はあるが、事前に最近の稲葉の情報を持っていないと遠目ですぐに稲葉だとまず気付かないだろう。


 そこまで考えて、俺の背中に一筋の汗が伝うのを感じた。

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