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おめでとう、俺は美少女に進化した。  作者: 和久井 透夏
第3章 心磨り減るクリスマス
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第21話 さくさく行こう

「写真はもうご覧になりましたか? 補足情報があるのですが、よろしいでしょうか?」

 補足情報がなんなのか気になる事もあり、俺はしずくちゃんを招き入れた。


 玄関で俺は、今回も話が終わるまで外で待つらしいボディーガードの人達に寒いので中に入ったらどうかと話したが、しずくちゃんは俺と二人で話したいらしく、また一人暮らしの女の人の家に大男二人が入って来るのも抵抗があるのではないかと逆に尋ねられた。


 確かにこの家にはリビング以外は寝室と風呂、トイレ位しかない。

 必然的にリビング以外だと寝室しか空いていないが、寝室には色々置いてあるのであんまり人は入れたくない。

 だが流石に十二月の夜は冷え込むので外にいてもらうのは気が引ける。


 結果、俺は玄関にクッションとひざ掛けを用意し、温かいお茶程度なら用意できるし、トイレは自由に使ってくれていいからと二人に伝えた。

 暖房も無いが、吹き抜けの外よりは多少マシだろう。


 俺は玄関の二人にお茶を出した後、しずくちゃんにもお茶を出しながら話を聞いた。

「昨日の十二月二十四日、表向きお兄ちゃんはすばるさんとディナーを食べに行ったことになっていましたが、本当は違うのでしょう? お兄ちゃんが本当は昨日、何をしていたか知りたくありませんか?」

 もったいぶるようにしずくちゃんが言うので、とりあえずさくさく誤解を解いて帰ってもらおう。


「ホテルに消えたんでしょ。あの日ゲームのイベントがそこの会場であって、稲葉が限定配布のアイテムがどうしても欲しかったらしくて、二十四日はそこに行きたいと言っていたから」

「えっ、でもクリスマスですよ? 一緒に過ごさなくていいんですか!?」

 驚いたようにしずくちゃんが言う。


「そうは言っても今日は彼の家族もだったけれど、一緒に過ごしたし、なにせ大学も同じものだから頻繁に会ってるし、今回のSNSのカムフラージュも、お姉さんが心配するからって事で二人で話し合ってやったことだもの」

 ニコニコと笑顔を浮かべながら答えれば、しずくちゃんは悔しそうな顔をして勢い良く立ち上がった。


「すばるさんはそれでいいんですか!? それに写真! 動かぬ浮気の証拠です!」

「彼女、実は最近ある男性に付きまとわれていたの。それでしばらく同じゼミの稲葉に彼氏のフリをさせて、相手を追い払ったのよ。ちなみにもう相手は大学に来なくなってしまったので、もう必要も無いし、私も事情を知ってるしね」

 ちなみにコレは今、俺が即興で考えたデタラメだ。


「……」

 しずくちゃんはこれ以上言葉が出ないのか、俯きながら黙り込んでしまった。


「しずくちゃんはさ、まだ稲葉の事が好きで諦めきれないのよね」

 俺が薄々感じていた事を口にした。


「違っ……くもない、かも、しれなくもない、かもしれないです……」

 突然勢い良く立ち上がったものの、その後はしどろもどろになり、しずくちゃんは結局どっちなのか解らないような返事をした。

 だが、顔を真っ赤にしながらもじもじする姿を見れば、一目瞭然だった。


 正直アレだけキモイ物を見せられて、まだ諦めきれないのはすごいなと思う。

 俺だったら絶対引く。

 というか、しずくちゃんも引いたからさっきの質問に即答できなかったのかもしれないが。


 稲葉自身もしずくちゃんに対して悪い感情は持っていないようだし、もうこいつらがこのままくっつけば丸く収まるんじゃないかという気もする。


「今回の事で私と稲葉が別れたら、稲葉と付き合うつもりだったのかな?」

「…………」

 そう考えるとしずくちゃんの行動にも合点がいくなと思いながら問いかければ、返事は無く、しずくちゃんの方を見れば、俯いたまま机の上にぽたぽたと涙が落ちていた。


 まずい、泣かせてしまった。

 慌てて俺はテーブルの上にあったティッシュを箱ごとしずくちゃんに渡して、椅子に座らせた。

「別にね、私は責めるつもりは無いのよ」


 椅子に座ったしずくちゃんの前にしゃがみこみ、なるべく優しく声をかける。

「好きなのだから、しょうがないわよね。でもね、だったら、私なんかにかまってるより、稲葉を自分に惚れさせる方が建設的だと思うの」

 というか、俺の方に張り付かれるとすぐにボロが出るので、監視するのは稲葉だけにして欲しい。


「……何を言っているの」

 ティッシュに顔を埋めているしずくちゃんに言い聞かせるように言う。

「私はね、もちろん稲葉の事が好きだけれど、将来稲葉が他の人を好きになったらそれはそれでしょうがないと思うの。当然そうならないように努力はするけど、それでも別の女の子の方が好きってなったらしょうがないと思うの。けじめはちゃんとつけないとね」


 もうこの際、しずくちゃんが稲葉を落としてくっついてくれれば、皆幸せになれるんじゃないかと思う。

「私は、お兄ちゃんのことを諦めなくていいの……?」

「いいけれど、それなら私を倒していきなさいって感じかな」

「倒す?」

 不思議そうな顔をしてしずくちゃんは埋もれていたティッシュから顔を上げた。


「そう、稲葉が私よりもしずくちゃんの事を好きになってしまったのなら、それは私の負けだし、そうならなないで私の事をずっと一番に好きだったら私の勝ち」

「……そんなこと言って、本当に私がお兄ちゃんを奪っちゃったらどうするんです?」


 できるだけ優しく言えば、しずくちゃんは怪訝そうな顔で俺に尋ねた。


「そうしたら稲葉はしずくちゃんのものよ。まあ、負ける気は全く無いのだけれど」

「なるほど、お兄ちゃんの事が好きなら、正々堂々かかって来い、という事ですね。いいでしょう、その勝負、受けて立ちます!」

 しずくちゃんは再び椅子から立ち上がった。


 もう涙は止まっていた。


「負けないわよ」

「望む所です!」

 俺も立ち上がり、ちょっと強気に微笑みながら言えば、しずくちゃんも負けじと強気に笑った。

 が、俺としては正直、無茶苦茶負けたい。

 そして早くこの彼女のフリを辞めたい。


 それからしずくちゃんは清々しい顔で帰って行った。

 時刻は既に十二時を回っていた。


 それから俺は後片付けを済ませ、今日は疲れたし、もう寝ようと思っていると、インターホンが鳴った。

 今度は玄関の方だった。


 ドアを開ければ、疲れた顔をした稲葉がいた。

 俺はそろそろ寝かせて欲しかった。

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