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おめでとう、俺は美少女に進化した。  作者: 和久井 透夏
第3章 心磨り減るクリスマス
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第20話 圧力

「だからね、すばるちゃんにはうちが新しく立ち上げるアパレルブランドの専属モデルになって欲しいの!」

 俺は美咲さんからの突然の申し出にポカンとしていた。


 どうやら美咲さんは稲葉が俺を連れて挨拶に行った日、一宮雨莉に俺がどんな人間なのか調べて欲しいと頼んだそうだ。

 美咲さんから直々にお願いされた一宮雨莉はそれはもう、自らの情報網を駆使して俺の事を探した。

 そして見つけたのが、俺のコスプレブログだった。


 なぜか他の情報は見つけられなかったが、そこで美咲さんは俺の様々なコスプレ写真を見て、見た目だけでなく、表情や表現力もあり、その時から話が出ていたアパレルブランドのイメージにもぴったりだと考えたらしい。


「本当はすばるちゃんがビリにならなくても、後でこの話はしたかったの。コレは命令というよりはお願いだから、もちろんすばるちゃんが嫌なら断ってくれてもかまわないのだけど」

 ブログまでバレているだと!? と、俺が内心動揺していると、

「あの生き生きした写真を見る限り、すばるちゃんは結構モデルに向いていると私は思うな」

と、美咲さんの隣で一宮雨莉がニコニコしながら言った。

 目が笑ってないよ、コイツ。むしろ据わってるよ!


 褒めてはいるが、暗に断ったらどうなるか解っているだろうな、という圧力を感じる。

 正直、これ以上朝倉すばるとしての活動が増えるのは避けたいのだが……そう思いながらちらりと稲葉を見る。

 彼氏である稲葉がそんなの嫌だと言えば、俺としても断る言い訳が出来るし、美咲さんも稲葉の言う事なら大人しく引き下がってくれるだろう。


 本当は俺が趣味でコスプレすることもあんまり良く思ってないのに、更にモデルだなんて、見たいな感じで言ってもらえれば、俺の方も、稲葉がそういうなら……と、興味はあるけど彼がこういっているのでという体で断る事が出来る。

 稲葉もそれを察してくれたらしく、小さく頷いて美咲さんに向き直った。


「いーくんは、コスプレして楽しそうに笑ってるすばるちゃんが好きなんだもんね。今度のモデルの話はすばるちゃんの将来にも繋がる話だし、モデルとして輝いているすばるちゃんも素敵だと思わない?」

 しかし一宮雨莉は俺達の思惑などお見通しだと言わんばかりに、稲葉が俺のコスプレを好意的に受け止めてる設定を盛り込んできた。


「まあ、そうだったの? 稲葉が嫌がったらどうしようかと思ったけど、これで一安心ね」

 と、美咲さんが安堵したように言う。

 俺は全く安心できない。


「すばるちゃん、どうかな?」

 そう言って俺を見つめてくる美咲さんの瞳はどこまでもまっすぐできらきらと澄んでいて、結局俺は美咲さんからの申し出を、受け入れることしか出来なかった。


 その後は特に大きな事件はなくパーティーは終了した……と、思う。

 正直専属モデルの話が衝撃的過ぎて、美咲さんとも連絡先の交換をした以外は上の空で、あんまりよく憶えていない。


 気が付いたら稲葉に借りている方のマンションの前まで、タクシーに乗って帰ってきていた。

 お金を払おうとしたら、運転手さんから

「お代はもうもらっていますから」

 と言われた。


 明日は朝からの講義も無いので、このままこっちの部屋に泊まってしまおうとエントランスのドアを開けながら、そういえばこちらの方の郵便もチェックしていなかったと郵便受けを開けた。

 俺個人に宛てた手紙は無くても、何かしらの広告が頻繁に入ってくるので、まめにチェックしなければならない。


 今回も案の定それなりの量が溜まっていた。

 郵便受けのすぐ横には不要な広告を捨てるゴミ箱も設置されているが、いちいち分けるのもめんどうだったので、俺はそのまま全部持って部屋に向かった。


 部屋に着き、店屋物の広告だけより分けて他は捨てる物に分類していく。

 しかしその中に、宛名も差出人も書かれていない、茶封筒が一つだけあった。


 なんだろうと思いながら封筒を開けてみると、そこには女の子と連れ添い歩く稲葉の姿が映った写真が何枚か入っていた。

 ご丁寧に全て日付まで入っている。


 稲葉と一緒に映っている女の子を見ると、以前稲葉がいい感じだったのに俺との偽装写真撮影現場を目撃されて振られたと言っていた女の子だった。

 同じ大学なので、以前食堂で一緒にいたのをちらっと見たことがある。


 浮気現場を押さえた証拠写真のつもりなのだろうか。

 俺としてはむしろこの二人の恋は本命にまで育って欲しいところだったのだが、非常に残念な事である。

 というか、いつの間にかこんな風に生活を監視されていた事の方が怖い。

 俺の方なんて、叩けば埃しか出てこないので、勘弁して欲しい。


 しかし、こんな事をするのはしずくちゃんだろうか。

 なんて事を考えていると、エントランスのインターフォンが鳴った。


 画面を覗けば、そこには案の定しずくちゃんが立っていた。

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