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おめでとう、俺は美少女に進化した。  作者: 和久井 透夏
第22章 リア充への道
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第170話 軌道修正しなくては

「すばるさん……私、今日はすばるさんに相談したい事があって……」

 深刻な顔でしずくちゃんが言う。


 現在、俺はしずくちゃんに呼び出されて彼女の家に来ていた。

 目の前の席に座るにしずくちゃんは大きなうさぎのぬいぐるみを膝の上に乗せて、そのうさぎの頭に顔を少しだけうずめている。


「実はその……以前、秋葉原にデートに行った時、須田さんに街を案内してもらったんです。そしたら稲葉お兄ちゃんとすっかり意気投合しちゃって……」

 そう言ってしずくちゃんは口ごもる。


 大体の話は聞いているから、俺も察しはつく。

 せっかく最近やっと稲葉とデートらしいデートができるようになったというのに、毎回須田さんがデートについてきては、しずくちゃんが望むような甘い雰囲気にならないのだろう。


「まあ、せっかくのデートなのに、二人っきりになれないなんて、困っちゃうよね」

「あ、いえ、それは別に全然いいんです、というか、その方が助かるというか……」

 俺がうんうんと頷きながら言えば、しずくちゃんはどこか慌てた様子で否定する。


「助かる?」

「えっと、その、今日すばるさんに相談したいのは須田さんのとは別の事で……」

 首を傾げながら尋ねれば、言い辛そうにしずくちゃんは目を逸らす。


「別の事?」

「はい。あの、なんというか、最近、稲葉お兄ちゃんの顔が見られないといいますか、なんか、二人っきりになると上手く話せないといいますか……」


 あさっての方向を見て、しどろもどろになりながらしずくちゃんが言う。

 これは……。


「いつからそんな風になったかとか、何かきっかけはある?」

「きっかけというか、前に稲葉お兄ちゃんに全部お任せで出かけた辺りから……」

 尋ねてみれば、恥ずかしそうにしずくちゃんがおずおずと答える。


「何か、あったの?」

「特に何かあった訳じゃないんですけど、稲葉お兄ちゃんから……手を繋いでくれたり、ゲームセンターでぬいぐるみを取ってくれたり、とか、転びそうになった時に支えてくれたり……とか……」


 言いながら、みるみるしずくちゃんの顔が真っ赤になっていく。

 しずくちゃんのぬいぐるみを抱く腕に力が込められたのがわかった。


「つまり、この前のデートで稲葉に惚れ直したとか、そういうこと?」

 要するにしずくちゃんは俺に惚気を聞かせるために今日呼び出したのだろうか。


「わっ、私はっ……元から稲葉お兄ちゃんの事大好きですし、これ以上好きになる事が無い位大好きだったはずなんです。だけど、最近、稲葉お兄ちゃんといると、ものすごくドキドキして何していいかわからなくなるんです……」


 違うとでも言いたげにしずくちゃんは顔を上げて声を上げた。

 しかし、話しているうちにだんだんと声は自信なさげに小さくなっていく。


 もしかしたら、今まで稲葉に迫ってばっかりだったしずくちゃんは、逆に稲葉にエスコートされたり、何かしてもらう事に対して免疫が無いのかもしれない。


「それが稲葉と二人きりになりたくない理由?」

「なりたくない訳ではっ……無いのかもしれません……」

 しずくちゃんは一瞬否定しようとして、悲しそうな顔をして俯いた。


「どうしようすばるさん、私、お兄ちゃんの事すごく好きなのに、二人きりだと上手く話せる気がしないんです。こんなんじゃ稲葉お兄ちゃんに変な子だと思われちゃう……!」

 瞳から大粒の涙をこぼしながらしずくちゃんが言う。


 大丈夫、既に十分変な子だから。とはさすがに言えない。

 だけど、いままで散々しずくちゃんにエラい目に遭わされてきた稲葉だが、別にしずくちゃんの事を嫌っている訳ではない。


 なので、今更その程度でしずくちゃんの事を嫌いになるとか、到底ありえないと思うのだが、本人にとっては深刻な問題なのだろう。


 だけど、これは別に悪い事じゃない。

「大丈夫。それは私にも覚えがあるわ」

 中島かすみと付き合い始めた時の事を思い出しながら俺は言う。


「そうなんですか!?」

 驚いたように俺を見るしずくちゃんに、できるだけ優しく語り掛ける。


「うん。始めのうちはどうしていいかわからないと思うけれど、それは慣れるものだから。しずくちゃんもゆっくり慣れていけばいいの」


「そう、なんでしょうか……」

「うん、それに多分、稲葉はそんな事じゃしずくちゃんを嫌いになったりしないと思うし、むしろ喜ぶかも……」


 自信なさ気に目を伏せるしずくちゃんに、俺は少し笑ってしまった。

 稲葉はなんだかんだで幸せ者だな、なんて思ったのが十二月初めの木曜日。


 そして、翌週の日曜日。

 俺はまたしずくちゃんに呼び出された。


「昨日、稲葉お兄ちゃんを家に呼んで、須田さんと三人でゲーム大会してたんですけど、稲葉お兄ちゃんと仲良く話してる須田さんを見ててもなんだかドキドキしてしまって……もしかして、コレが萌え……」


「違うから! それ多分つり橋効果みたいな感じで稲葉を見た時に視界に入る須田さんにもドキドキしてると錯覚してるだけだから!!」


 全力で俺は否定した。

 なんとしてもその開きかけた扉だけは閉じさせなければならない。


「今度は私と稲葉と三人で遊びましょう! ね!?」

 こうなったら、なんとかして俺が軌道修正しなくてはならない。

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