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おめでとう、俺は美少女に進化した。  作者: 和久井 透夏
第21章 こんなカミングアウトは嫌だ
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第161話 カミングアウト

 十一月の初めの土曜日。

 俺は元々一人暮らししていたボロアパートに父さんと春子さんを呼んだ。


 父さんと春子さんは約束通りの時間にやって来て、俺は二人を居間に通す。

「それで、大事な話ってなんなんだ、家じゃダメなのか?」

 緊張した面持ちで父さんが尋ねてくる。


「ああ、優司と優奈には間違っても聞かせられない話だから……」

 俺は座布団に腰を下した父さんと春子さんを交互に見た。

 二人共黙って俺の言葉の続きを待ってくれているようだった。


「まず、コレを見て欲しい」

 そう言って俺はちゃぶ台の上にファッション雑誌のあるページを開いて見せた。

 +プレアデス+がメルティードールの服を着て微笑んでいる広告が見開きで載っているページだ。


「あら、この子、優司と優奈が騒いでるモデルさんよね。確か、将晴と同じ大学で、そのせいで優司と優奈がその大学に行きたいって言い出してた……」

 春子さんが広告を見て明るく話す。

 きっと、この重い雰囲気をなんとか和らげようとしてくれているのだろう。


「コレ、俺なんだ」

「え?」

 意を決して告白すれば、春子さんは俺の言葉が理解できないというように首を傾げた。


「俺なんだ」

「将晴、そういうのはいいから本題に入ってくれ」

 もう一度言えば、冗談を言っていると思われたらしく、話の先を促される。


「コレが本題なんだ」

「……まさかお前、このお嬢さんを妊娠させたとか、そういうんじゃないだろうな」

 正直に話せば、なぜか父さんはまたあらぬ憶測をしてくる。

 そんな事は物理的にありえない。


「とりあえず、二人共ちょっと見ててくれ」

 しかし、素直に話しても信じてもらえない事は想定していたので、俺は気を取り直してちゃぶ台の上にあらかじめ用意していた鏡とメイク道具、ウィッグを置き、前髪をヘアピンで留める。


 今日は化粧持ちとか細かい出来栄えに付いては関係なく、できるだけ早く仕上げる必要がある。

 なので、肌はBBクリームとフェイスパウダーのみで、ハイライトやチーク、コンシーラー等は省く。

 眉毛に涙袋、アイラインを描いてまつげをカールさせ、マスカラを塗った後、つけまつげをつけて指で挟んで馴染ませる。


 最後に手を除菌ティッシュで拭いてからカラーコンタクトを入れ、ウィッグをつける。

 これで少なくとも広告に乗った人物と同一人物には見えるはずだ。

「という訳なんだけど……」


「「………………」」

 父さんと春子さんの方を見れば、二人共ポカンとした様子で言葉も出ないようだった。


 俺は勢いに任せて朝倉すばるの声で用件を話してしまう事にした。

「朝倉すばると言います。今は+プレアデス+という名前でモデル活動をしたりしてます。それで、今年からお父さんの扶養からははずれてしまうので、よろしくお願いします」


 何がよろしくなのかはわからないが、とにかく勢いで言い切ってしまう。

「「………………」」

「あの……」

 流石にしばらくしても反応がないので不安になって声をかけてみる。


「えっと、ごめんなさいね、ちょっと驚いてしまって……」

 少し焦ったように春子さんが言う。


「それは……その、いつからなんだ」

「メルティードールのブランド発表は今年の四月だけど、仕事自体は一月から……」

「そうか……」

 父さんは、戸惑ったように俺に聞いてきたが、それ以上は何も言わなかった。


「これは、女の人としてモデルをしてるって事でいいのかしら?」

「世間的には+プレアデス+は女って事になってる」

 春子さんが、優しく俺に問いかけてくる。きっと、場の空気を重くしすぎないようにという配慮だろう。


「優司と優奈には内緒って事は、この事は二人共知らないって事でいいのかしら……?」

「二人共、随分+プレアデス+の事が気に入ってるみたいなんだけど……その、夢を壊したくないから、二人にはこの事は秘密にしておいて欲しいんだ」


 優司と優奈に黙っていて欲しいのは本当だけれど、多分、壊したくないのは優司と優奈の夢じゃなくて、俺の夢なのだと思う。


「そう、そうね……ところで、将晴は、今恋人とか、好きな人って、いるの……?」

「いるよ。だから、俺が二人とどうこうなるって事はまず無いから、それは安心してほしい」


 一応、二人が+プレアデス+に随分入れあげていたり、俺がこんな格好をするのが趣味だったりで、春子さんも色々心配だろうから、弟にも妹にも手を出す気はないと、はっきり伝えておく。


 特に、以前俺が女装した状態で優司と優奈に押し倒されているように見えなくもない状態を目撃した春子さんは気が気では無いだろう。


「二人の事は可愛い弟と妹だと思ってるけど、それだけだから」

 大丈夫だと俺が言えば、春子さんは困ったように笑った。

 その後は、特に大した問題も無く、二人を最寄り駅まで送って俺の両親へのカミングアウトは終った。


 もっと嫌そうな顔されたり、罵倒されたりするかと思っていたけれど、父さんも春子さんも、引いてはいるようだったけれど、最後まで俺の事について何も否定しなかった。

 その事実だけでも、あんなに悩んでいたのが本当に馬鹿みたいだったなと思える。


 そう思わせてくれた事が嬉しい。


 その日の夜、優奈が俺と中島かすみと上沼さんとのライングループである相談をしてきた。


優奈:どうしよう……! お母さんからお兄ちゃんの彼氏の事聞かれて、てっきりお兄ちゃんから稲葉さんの事知ってるものだと思って答えたら、相手が稲葉さんとは知らなかったみたい


 俺はその文面を見て気が遠くなるのを感じた。

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