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おめでとう、俺は美少女に進化した。  作者: 和久井 透夏
第20章 現実逃避とBBQ
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第159話 充実した一日

「あら西浦さん、どうしたんですか?」

 とりあえず、微笑みながら尋ねてみる。


「さっきから、ずっとチラチラ俺の方を見てたよな」

「あら、気づいてらしたんですね」

 どうやら俺がずっと様子を窺っていたのはバレていたようだ。

 なら、下手に隠さず開き直る事にする。


「俺の気を引きたくてずっとあんな事してたんだろう?」

「………………は?」

 思わず首を傾げる。

 自信満々に何を言っているんだコイツは。


「ぼけるなよ、俺が会う度に鰍と話していた事の仕返しのつもりなんだろうけど、そういうのはお互いもうやめよう」

「うーん、何か勘違いしてませんか?」

 というか、どういう勘違いをしたらそうなるんだ。


「確かに俺は今までずっと勘違いしてたよ。会う度つれない態度を取ってくる君が、どうしていつも俺を熱のこもった瞳で見つめてくるのか、本当は薄々気づいていたのに自信が持てなかったんだ」

「はあ……」

 熱のこもった……恨みや嫉妬のこもった視線なら常に送っていたが。


「だけど、彼氏といるのにこっそり俺の様子を窺ってる君を見て確信したよ。俺らは両思いだ」

 いやちげえよ。


「……どうして私が西浦さんを好きな事になってるんです?」

 もはや呆れ返ってどう反応したものかわからないけれど、すばるの余裕を感じさせる笑みは崩さないよう気をつける。


「一目惚れ……だろ? 君は初めて俺と会った時からずっと俺を見つめてきた。今は彼氏もいるし、君は誠実な人だから、俺に惹かれる気持ちを認めたくないのかもしれない。でも、このお互いに惹かれ合う気持ちにこそ誠実であるべきだと思う」


 どこか演技がかったような話し方に、なんとなく俺は中二病を患っていた頃の稲葉を思い出した。

 というか、こいつは一体どこの世界線の話をしているのか。

 寝言は寝て言えとは正にこの事だ。


 まあいい。

 当初はもう少し優しくフってやるつもりだったが、これはあまりオブラートに包んだ言い回しをしても勘違いが加速するだけだろう。

 こうなったら、それなりに精神をえぐる方法でいかせてもらう。


「あのー、勘違いさせてしまったようでごめんなさい。違うんです」

 俺は両手を顔の前で合わせながら、申し訳無さそうに奴の顔を見る。


「今更、照れなくたっていいさ」

「いえ、そうではなく……その、臭くて……」

「え」

 いい辛そうに俺が呟けば、奴は言葉が理解できないという顔で俺を見る。


「ごめんなさい、こんな事言うの、本当に失礼なんですけど、西浦さんの近くにいると、なんと言うか、発酵したような独特な臭いがして、つい警戒してチラチラ見ちゃってました!」

 勢い良く頭を下げ、九十度のお辞儀をしながら俺は申し訳無さそうに話す。


「…………」

「あの、何か私に好意を寄せてくれているようなのですが、本当にその体臭が受け付けなくて……ごめんなさい!」

 頭を上げてからも俺の攻撃は止まらない。


 ポイントは、あくまでも申し訳無さそうにしつつ、お前は悪くないのだと言ってやる事だ。

 そうする事で相手の屈辱感は更に増す事だろう。


「い、いや、俺、生まれてきてから今まで一度も言われた事ないし、他の女の子だって……」

 焦ったように奴は俺の言葉を否定しようとするが、この狼狽っぷりは相当に堪えているようだ。

 あと一押しと思いながら、俺は静かに首を横に振った。


「体臭は生まれ持っての体質の他に生活環境や食生活にも影響されるそうなんですけど、本人はその臭いに慣れてしまっているので、自分で気づかない事があるとも聞きます。同じような臭いをまとってる人同士だったらお互い気にしないでしょうし、そうでなくてもそんな失礼な事……あの、本当にごめんなさい」


 全く身に覚えのない理由でフられて動揺する奴に、今までたまたま環境が揃ってて気づかなかったのだろうというなんともそれっぽい理由を付けてやる。


 コレは全くの嘘っぱちだが「本来は思っていても口に出して言う事ではないのに、勢いに負けてつい口が滑っちゃいましたごめんなさい」という体で話すのが大事だ。

 表面上は真摯な態度で相手を尊重しているように見せる事で、この発言に対する信憑性も上がる。


「じゃあ、さっき席を立つ時俺に笑いかけてきたのは……」

「警戒してチラチラ見てたのに目が合ってしまったのが気まずくて……彼や鰍にもそういう事で人を判断するのは良くないって怒られたんです」

「つまり、あの二人も俺の事を……」


 奴の顔色がみるみる悪くなる。

「で、でも、体臭にもいろいろあって体質的にどうしようもない場合もあるそうですし、私も西浦さんの事は恋愛対象としては見れないですけど、だけどその事で西浦さんをどうこう言うつもりはなくて……」

 俺は焦ったような演技をしながら、更に追い討ちをかける。


「っ……!」

「あっ、西浦さん!」

 無言で今来た道を奴が走って戻って戻っていく。


 一応追いかけようか迷う風の演技をした後、俺は踵を返して歩き出す。

 多分、奴はもうすばるとどうこうなりたいなんて事より、自分の体臭の事や、周囲への疑心暗鬼でそれどころではないだろう。


 まあ、しばらくして真実に気づいたとして、こんなフり方をしてくるような相手にはもう近づきたくは無いだろう。

 そんな事を考えつつ、俺は目的の場所へと向かう。


 女装した状態だと、男女どちらのトイレに入るのも躊躇われるが、ここのように共用トイレがあると堂々と入れるのでありがたい。

 共用トイレが無ければ近所のコンビニまで歩こうかと思っていたので、俺は一安心した。


 俺がトイレから戻ると、案の定奴は用事を思い出したと言って帰ってしまったらしい。

 人をおとしめといてこんな事を思うのはいかがなものかとは思うが、それでもここはあえてこう言いたい。


 ざまあ。


 その後は三人でバーベキューを仕切りなおして楽しんだり、一真さんの報告用の写真を撮ったり、帰りには中島かすみと二人でお買い物デートに行ったりと、なんだかんだで充実した一日を過ごした。


 ……まさかその翌日、事務所で絶望することになるとは思いもしなかった。


 +プレアデス+として結構稼いでしまった俺は親の扶養から外れる事になり、それを親に報告しなければならない。


 雨莉からその話を聞かされた数日後、中島かすみと一真さんとすばるの家で食事をする予定だった俺は、現実逃避したい気持ちも手伝いつい飲みすぎてしまった。


 翌朝全裸で眼を覚まし、中島かすみに意味深に微笑まれた俺は、現実と向き合う事を決意した。

 あと、もう酒は飲まないと誓った。

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