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おめでとう、俺は美少女に進化した。  作者: 和久井 透夏
第17章 恋のゲリラ豪雨
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第132話 良くないです

 とろけるような笑みを浮かべた美咲さんの唇が、ゆっくりと迫ってくる。

 香水とは違う、甘くて温かい匂いがした。


 それは、確かに魅力的な誘惑だった。


 だが、美咲さんの恋人に、あの一宮雨莉の存在がある時点で、おいそれと美咲さんに手を出すなんてできる訳がない。


 俺の見た目ならあるいは、なんて中島かすみは言っていたが、それでも服を脱げば普通に男の身体なので、俺は良くても美咲さんは全く良くないだろう。


 何よりも、押し倒されてからずっと、中島かすみの顔が頭にチラついて離れないので、やっぱり俺はこの流れに身を任せる訳にも行かなかない。


 触れそうだった美咲さんの唇を指先で押さえて押し戻す。

「ごめんなさい、やっぱり私、そういうのは好きな人としかできないです……」

 一旦目を伏せてから、困ったような顔をして美咲さんを見上げる。


 その時の俺の頭は妙に冷めていた。

 こんな時、すばるならこう断るだろう。という言動を俺以外の誰かが演じていて、それを身体の中から観察しているかのような気分だった。


 意外な事に、美咲さんは案外あっさりと引いてくれた。

 俺が断ると、すぐに俺にのしかかる形になっていた身体を起し、ついでに俺が起き上がるのも手伝ってくれた。


「まあ、すばるちゃんがそうならしかたないわよね」

 さっきまでの事がまるで嘘のようにカラカラと美咲さんは笑う。


「えっと……?」

「それで、さっき私に押し倒された時、誰の事思い浮かべたの?」

 美咲さんの雰囲気の変わりように俺が戸惑っていると、美咲さんはニヤニヤと楽しそうにきいてきた。


「ふぇっ!?」

「好きな人って、誰の事なのかしらね?」

「そっ……んなの、誰でもっ! ……良くは、ない、ですけど……」


 まるで自分の考えていた事が見透かされていたような気がして、なんとかそれを否定しようとするが、動揺して上手い言葉が出てこない。


「その様子だと、いーくんじゃないのね」

「あっ……」

 やっぱり、と美咲さんは少し残念そうに笑った。


 そうだ、一応稲葉と付き合っているというのなら、稲葉と答えても良かったのだ。

 いや、そうするとまた別れ辛くなるのでやっぱりやめておいて正解かもしれない。


「いいわよ、隠さなくて。すばるちゃんに愛想着かされた稲葉が悪いんだし……その彼って、どんな人?」

「えぇ……」

「ただの恋バナよ。いーくんには内緒にしておくから」


 美咲さんは、なおも興味ありげにすばるの想いを寄せる彼について聞いてくる。

 実際には彼女だが。


 しかし、もうこうなったら他に好きな人できたので稲葉とは別れます。でもいい気はしてきた。


 彼については、やはり即興だと上手い嘘が浮かばないので、性別だけ変えて、中島かすみの事をぼかして答えればいいだろう。


「……素敵な人です。私の事、色々考えてくれて、優しくて、でもちょっとイタズラっぽい所があって……だけど頼りになるというか、なんというか」

 なんだか言っているうちに恥ずかしくなってきて、顔が熱くなってくる。


「あー……、それはいーくん勝ち目ないわ」

 対して美咲さんは、俺の話を聞くなり、静かに頷きながら妙になった得した様子で言った。


「えっ?」

「要するに、すばるちゃんが好きになった人って、いざという時に守ってくれそうな頼もしさのある人でしょ?」

「それは、あるかもしれません」


 首を傾げる俺に、美咲さんがため息をつく。

 確かに、中島かすみは恐ろしく頼もしい感はある。

 それで好きになった訳ではないが。


「いーくんって、昔から女の子にモテるんだけど、優柔不断な所があって、そのせいでトラブルになる事とか結構あったから……実は、すばるちゃんが愛想を尽かした原因もその辺だったり?」


 身内である美咲さんの目からはそう見えていたのかと思いつつ、あながち間違ってもいないので、否定もできない。

「……まあ、その人も困っている時に助けてくれたから、というのが大きいかもしれません」

「いーくん……」


 とりあえず、ここは話を合わせておいた方が無難だなと判断した俺は、美咲さんの言葉に頷く。

 美咲さんは右手で顔を覆いながらうなだれた。


「あの、私からも聞いていいですか? ……美咲さんと、雨莉の事」

「もちろん。なにかしら?」


「美咲さんは、雨莉の事、どう思ってるんです?」

「どうって、とても尽くしてくれる良い子よ。だから私も、雨莉のお願いならできるだけ叶えてあげたいのだけど、あんまり言ってくれないのよねぇ……甘えん坊ではあるんだけど……」


 ほら、雨莉って何かあっても一人で我慢して溜め込むところがあるから……なんて美咲さんはしみじみと話す。

 ところで、美咲さんは一体誰の話をしているのだろう。


 俺の知ってる一宮雨莉と違う。

 あいつは、自分の欲望に忠実で、ストレスを感じたらその場で発散するような奴だと俺は記憶しているのだが……。


 いや、むしろ一宮雨莉の世界の中心である美咲さんの前で良い子を演じた結果、その分のストレスを他に向けているのかもしれない。


 それよりも、俺は美咲さんの言い方に少し引っかかりを憶えた。


「……雨莉は、やきもちをやいたりとかしないですか? 例えば、他の女の子ばかりかまっていて機嫌が悪くなるとか、もっと自分を見て欲しいって言ってきたりとか」


 一昨日、俺が一宮雨莉と会った時、随分と丸くなったように感じたので、てっきり美咲さんにその辺の不満を伝えて上手く行ったのかとばかり思っていたのだが、どうやら違うらしい。


「無いわねえ、私としてはちょっと寂しいくらい。でも、雨莉がそれで良いなら……」

「良くないです」


 きょとんとした様子で答える美咲さんの言葉を、思わず遮ってしまった。

 あれだけ不安になって、イライラとストレスを溜めていたというのに、どうしてあいつは肝心な所で怖気付いてしまうのか。



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