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おめでとう、俺は美少女に進化した。  作者: 和久井 透夏
第17章 恋のゲリラ豪雨
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第131話 試してみる……?

 暑気払いから二日後の正午、俺は美咲さんに指定された新宿のとある店の個室で一人緊張して座っていた。

 思ったよりも薄暗い席から、対照的に明るく照らされた机の上を意味も無くぼんやりと見つめる。

 店内にはピアノのジャズっぽい曲がかかっている。


 ここに来るまでは日傘を差していてもじりじりと焼けるような暑さを感じていたが、店の中はクーラーが効いていてノースリーブではむしろ肌寒い位だ。


 スマホを取り出して時間を確認すれば、店に着いてからまだ五分しか経っていなかった。


 ……落ち着かない。


 ひざ掛けでも借りてこようかと考えていると、個室のドアが開いて、美咲さんがやってきた。

「お待たせーすばるちゃん。もう何か頼んだ?」

「いえ、私もさっき来たばかりですから……」


 お決まりのような挨拶をしながら美咲さんは俺の隣に腰を下ろし、荷物を奥の席に置く。

 今俺達がいる部屋はテーブルを囲むように座席がコの字型になっている。


 俺は入り口から見てすぐ左の席に座っていたので、美咲さんは反対のテーブルを挟んだ右側の席に座ると思っていたのだが、当たり前のように美咲さんは俺の隣に座ってきた。


 荷物も俺は入り口から向かって正面の席に置いてたのだが、美咲さんもそこに荷物を置いたので、実質的に俺は荷物と美咲さんに挟まれて閉じ込められたような形になっている。


 別にこの席順になる事自体はなんでもない事だし、俺が勝手に意識しすぎなのかもしれないが。

 横に並んでメニューを開きながら、何にするかと聞いてくる美咲さんを見ると、ただ単にメニューが見やすいからか? とも思えてくる。


 ちょっと顔が近い気もするが。


 それから俺と美咲さんは食事をしながら他愛のない話をしばらくしていた。

 美咲さんが聞きたいのは、きっと稲葉とすばるの事なのだろう。

 なのに、デザートが運ばれてきても一向にその話が話題に上る事はない。


 途中、ゴロゴロと雷と雨音が外から音が聞こえてきて、一応晴雨兼用の傘は持ってきてはいるが、何だが本当にこの空間に閉じ込められたような気分になった。


 もしかしたら、美咲さんは俺の方から稲葉との事を話すのを待っているのかもしれない。

 デザートのオレンジジェラートを口に運びながら、ちらりと美咲さんの方を見れば、自分のも一口食べるかとマンゴープリンをスプーンにすくって差し出された。


「あっ、別にそういう訳では……」

「はい、あーん」

「あ、あーん……」


 断ろうとはしたものの、あんまり美咲さんがニコニコしながら差し出してくるものだから、ここで頑なに断るのも不自然な気がして、結局俺はそのまま美咲さんにプリンを食べさせてもらった。


 間接キスとか、距離が近いとか、なんか食べ物とは別のいい匂いがするとか、気にしたら負けだ。

 優奈とパフェを食べさせあいっこした時だって、平常心で乗り切った俺だ。

 この程度なんかじゃ動揺しない! そう自分に言い聞かせる。


 途中、彼女である中島かすみにはまだ一回もやってもらっていない事に気付いたが、悲しくなるのでこれ以上考えちゃいけない。


「じゃあ、私にも一口ちょうだい」

 薄暗い空間に浮かび上がる美咲さんの顔が、妙に色っぽくって、ドキリと心臓が跳ねたような気がしたが、必死に気のせいだと否定する。


「えっと……あ、あーん」

 平静を装いながら、美咲さんにジェラートをすくって差し出す。

 美咲さんは美味しそうにそれを食べながら、デザートメニューには特にこだわっているのだと満足気に語っていた。


 これでは、俺が勝手に意識してドキドキしているだけではないか。

 そう思うと、中島かすみへの後ろめたさも感じる。

 とにかく、さっさと本題を話してしまおう。


「美咲さん、実は私、稲葉と……!」

 勢いで言いかけて俺は言葉に詰まった。


 なんていえば良いんだ? 別れようと思っています。とでも言えばいいのだろうか?

 しかしそれはあんまりにも唐突過ぎないか?


「稲葉と、何があったの?」

 対して美咲さんは、食べかけのプリンを机に置き、俺に向き合って優しく微笑んだ。

 待ってました言わんばかりに話を聞く姿勢である。


「えっと……最近、自分の気持ちがわからなくなってしまって……」

「わからない?」

「はい。自分が本当に彼の事を好きなのか、わからなくなってしまって」


 一瞬動揺してしまったが、しずくちゃんに話したように、稲葉に振り回されすぎて疲れてしまった。

 という事にしておけば大丈夫なはずだ。

 俺はできるだけしおらしく、美咲さんに説明した。


「稲葉に何か嫌な事でもされたの?」

「嫌というか……彼は悪くないんです。たまにちょっとムッとする事はあるけど、一つ一つは大した事ではない、と思うんです。ただ最近、私は今、本当に彼の事が好きなのかなって考えるようになっちゃって」


 眉を潜めて心配そうに話を聞いてくれる美咲さんに罪悪感を覚えつつ、俺は話す。

 一応、この事で美咲さんから非難されても稲葉が可哀想なので、一応フォローは入れておく。


「あ、でも稲葉の事、嫌いになった訳ではないんです」

 あくまで俺の気持ちの問題であり、稲葉に嫌いになるほど酷い事をされた訳ではないのだと念を押す。

 しかし、その言葉を聞いた後、美咲さんは少し考える素振りをした後、予想外の反応を返してきた。


「……もしかして、すばるちゃん、他に好きな人ができたとか?」

 すぐに頭の中に中島かすみの顔が浮かんだ。

 あながち、間違いとも言えない。


 実際さっさと稲葉の彼女のフリをやめたいと強く稲葉に言い出したのも中島かすみと付き合うことになったからだ。

 しかし、こんな事、美咲さんに絶対言える訳がない。


「え!? あっ、いや、違います! そんなんじゃないです!」

 咄嗟に俺は否定したが、突然の不意打ちに目に見えて動揺してしまった。


「へぇ、どんな人? 美人系? 可愛い系?」

 美咲さんは楽しそうにニヤニヤしながら聞いてくる。

 なぜ弟の彼女が他の奴に好意を寄せているらしいのに楽しそうなのか。


 中島かすみは可愛い系だが、メイクを落として大人しくていれば、元々の整った顔立ちもあって美人よりだと思う……じゃない!

 なぜか女の人前提で話が進んでいるような気がするが、ここは絶対に否定しなくてはならない。


「ち、違います! 私が好きなのは男の人です!」

「そっか~、相手は男の人なんだ」

 慌てて俺が否定すれば、美咲さんは俺の好意を寄せている相手が男なのだと取ったらしい。


「いえ! 今のは私の恋愛対象が男の人というだけであって、決して今気になっている相手の事を言ったのではなく……いませんけどね、そんな人!」


 誤解を解こうとすればする程、どんどん言葉に説得力が無くなってきている気もするが、でもそれなら、なんと言えばいいのだろうか。


「じゃあ、一旦稲葉をわきに置いておくと、すばるちゃんは恋愛的な意味で好きな人っていないの?」

「い、いません!」

 こてん、と首を傾げながら美咲さんが聞いてくるので、俺は力強く頷いた。


「そっか。じゃあ……」

 そう言って美咲さんが笑った直後、俺は肩を軽く押されて、美咲さん越しに天井を見ていた。

 押し倒されたのだとはすぐに理解できたが、突然のことに感情がついていかない。


「女の人とか、試してみる……?」

 偽乳の上に、美咲さんの柔らかい胸が密着して、耳元でイタズラっぽい美咲さんの声が聞こえる。

 会話のなくなった部屋に、ザアザアと激しい雨の音が響いた。

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