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おめでとう、俺は美少女に進化した。  作者: 和久井 透夏
第17章 恋のゲリラ豪雨
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第130話 不安要素しかない

 八月も終わりが近づいた頃、メルティードールの冬物の撮影もひと段落して、美咲さんは暑気払いだと言ってブランド関係者の人間を飲み会に誘った。


 会場は美咲さんが経営する居酒屋の大部屋を貸しきって行われた。


 俺はまだ未成年で酒は飲めないので、ウーロン茶を飲みながら周りに付き合っていた。

 他にも、この後運転があったり、体質等で酒を飲んでいない人もちらほらいるので、特にそれで肩身が狭いとかは無い。


 初めは多少かしこまった感じではあったが、宴会が始まってしばらくすれば、皆酒もまわってきたのか、和気藹々《わきあいあい》とした雰囲気になっていた。


 席は美咲さんを挟んで俺と一宮雨莉が座っていたので、自然と美咲さんとの会話が多くなる。

 それは一宮雨莉が一度席を立った時だった。


「すばるちゃん、その、何か無理をしてない?」

 急に心配そうな顔で美咲さんに言われた。


「えっと、なんのことでしょう?」

 俺は何のことかわからず、思わず聞き返してしまった。

 すると、美咲さんは軽く辺りを見回した後、こそっと俺に耳打ちをした。


「稲葉とケンカでもしたの? 何か悩んでる事があるなら相談乗るよ?」

 その言葉で、ようやく俺は美咲さんが何を心配しているのかについて思い至った。

 何か一宮雨莉か稲葉から何か聞いたのかもしれない。


「ありがとうございます。でも、大丈夫です。自分で考えて決めたことだから……」

 満面の笑みで言っても不自然なので、軽く微笑みながら答えれば、なぜか美咲さんはみるみる深刻そうな顔になっていった。


「ねえすばるちゃん、明後日って確か仕事入ってなかったわよね。もし外に予定が無いなら、私と二人で出かけない?」

「えっ、あの、でも雨莉が……」

「雨莉には私から言っておくから。ね?」


 俺の手を取って、顔を覗き込むように美咲さんは言ってくる。

 更に、明後日が都合悪いのなら、別の日でもいいからと付け加える。


 それはまずくないかとは思いつつも、一応、彼氏の姉で上司でもある美咲さんにここまで言われて、その申し出を断る訳にもいかない。


「じゃあ、明後日で大丈夫です」

 俺がそう伝えれば、美咲さんからラインでURLが送られてきた。


「そのお店にお昼の12時集合ね」

 URLをタップすれば、美咲さんの経営する系列の飲食店が出て来た。


 全席個室の高級感漂う店舗だ。

 というか、値段設定見たら、普通に高級店だった。


 室内の写真が間接照明やらなんやらでムーディーな感じになっているが、ここで美咲さんと二人きりというのは、先日の中島かすみからの忠告もあり、少し身構えてしまう。


「私の名前出して待ち合わせしてるって言ってくれれば大丈夫だから」

 笑顔で美咲さんは言うが、今、俺の笑顔は引きつっている事だろう。


 というか、なぜいつもは一宮雨莉も一緒に来るのに、今回は二人きりなのか。

「雨莉は、一緒じゃないんですか?」

「ええ。外に人がいると話し辛い事もあるでしょうから……大丈夫、私はすばるちゃんの味方だからね」


 尋ねてみれば、美咲さんは心底俺を心配した様子で答える。

 これは、純粋に弟の彼女を心配しているという事でいいのだろうか。


 しかし、その弟である稲葉や、美咲さんの恋人である一宮雨莉、旧知の仲である中島かすみからの証言を考えると、不安要素しかない。


 結局俺はその後タイミングを見計らって一宮雨莉を他に人がいない事を確認した女子トイレに呼び出して、先程の美咲さんからの誘いについて全て話した。

 もっと機嫌を悪くするかと思った一宮雨莉は、思いの外冷静に最後まで話を聞いてくれた。


「……多分、この前咲りんと私と稲葉の三人で食事に行った時、すばるとの事を聞かれて答えに詰まった稲葉の事を気にしているのだと思うわ。一応私もフォローはしたのけど、そのせいで私達に隠し事されているような気になったのかも」


 眉間に皺を寄せて一宮雨莉が考えを述べる。

 つまり、一宮雨莉を呼ばないのは仲間はずれにされて少し拗ねているとか、そういう事なのだろうか?


「それで、どうしよう……」

「行ってきたらいいじゃない」

「随分あっさりしてるんだな」


 何かしら理由をつけて一宮雨莉に着いて来てもらうのが無難だろう、とは思っていたのだが、一宮雨莉の反応は予想外の物だった。

 本当にいいのかと俺が首を傾げていると、一宮雨莉は俺に向き直った。


「……鈴村君、前に自分の意志でかすみと付き合ってるって言ってたけど、つまりは恋愛的な意味で好きだから付き合っている。という事で良いのかしら?」

「そ、そうだけど……」


 一体それがどうしたのかと尋ねれば、一宮雨莉はとても爽やかな笑みを浮かべて言った。

「じゃあ、もし何かあった場合は私からかすみに事細かにチクるから」

「おいやめろ! ……やめてください。お願いします」


 突然の宣言に俺があたふたししていると、急に一宮雨莉は楽しそうに笑い出した。

 それは、随分と無邪気な笑顔で、思わず俺はその場で立ち尽くしてしまった。

 こいつ、こんな顔もできるのか……。


「まあ、鈴村君が咲りんとどうこうならないのなら、別に私はあなたの敵じゃないわ」

 一通り笑って落ち着いた一宮雨莉は、そう言うとそのまま女子トイレから出て行こうとした。


「……え? 終わり?」

 思わず何か声をかけて呼び止めようとした俺だったが、口から出た言葉は、ただの感想だった。


「そうだけど? 他に何かあるの?」

 一宮雨莉は振り返って不思議そうに首を傾げる。


「いや、いつもみたいに関節とかキメなくて大丈夫なのかなー、なんて……」

 何かある、というか、何もなくあっさり終ったのが俺には不思議だったのだ。

 今までは美咲さん関連で会って話す場合、大抵何かしらの危害を加えられていたような気がする。


「して欲しいの?」

「欲しくないけど!」


 もちろん、断じて俺にそんな趣味は無い。

 俺が力強く否定した後、一宮雨莉は視線を逸らしながら呟いた。

「……一応、信じてるもの。咲りんと、鈴村君の事」


 恥らうように少し頬を染めて言う一宮雨莉は、絵面だけならとても可愛らしい物なのだろうが、俺としては今までとのギャップが強過ぎて理解が追いつかない。


「え? 何、大丈夫? 熱でもあるんじゃないか? それとも変な物でも食べた……?」

「あら、技をかけて欲しかったならそう言ってくれればいいのに」

「すいませんでした」


 しかし、その後はいつもの一宮雨莉だった。

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