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おめでとう、俺は美少女に進化した。  作者: 和久井 透夏
第17章 恋のゲリラ豪雨
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第128話 言ってやればいいんだ

「とりあえず、表向きすばると稲葉が距離を置く事になったというのなら、先に雨莉に連絡して根回ししておいた方がいいにゃん」


 中島かすみは、帰り支度をしながら俺に言う。

 結局、彼女が部屋に遊びに来てくれたというのに、会話の内容は稲葉関連の説明と、すばるの今後についての議論だけで終ってしまって、甘い雰囲気なんてほとんど無かった。


 俺は中島かすみの話に頷きつつ、駅まで送ると提案したが、まだ明るいから大丈夫だと断られてしまった。

 せっかくだから暗くなるまでゆっくりしていけばいいのに。


「それじゃあ将晴、また来るにゃん」

 中島かすみが靴を履いた後、振り返って小さく手を振る。


「……」

 なんとなく名残惜しくて、その右手に自分の左手を絡める。

 一瞬きょとんとした中島かすみは、直後ニヤリと笑った。


「将晴、ちょっと」

 左手を口元に添えて、内緒話をするように中島かすみが言う。


 不思議に思いながらも、俺がかかっている髪を耳にかけて、左耳を中島かすみに寄せた瞬間、耳に柔らかい感触と、ちゅっ、という可愛らしい音がした。


「ふぇっ!?」

 驚いて中島かすみの方を見れば、イタズラが成功した子供のように笑っていた。


「それじゃあ将晴、また今度にゃん!」

 言うが早いか、中島かすみは満足そうに笑った後、元気良く俺の手を振り解いて玄関から出て行ってしまった。


 走って行く中島かすみの足音が遠ざかって行くのを聞きながら、玄関に一人残された俺は、顔に熱が集まるのを感じながらしゃがみこんだ。


 左耳に、今も中島かすみの唇のしっとりとした感触が残っている。

 たかが耳にキスされたくらいで、なんで俺はこんな嬉しいような、恥ずかしいような気分になっているのだろう。

 そう自分に言い聞かせてみたが、あまりそれは効果が無かった。




 しばらくして落ち着くと、俺は一宮雨莉に電話をかけることにした。

 確かに諸々の事情を考えると、一宮雨莉には今のうちに事情を話しておいた方が、いざという時に安心できる。


 早速、電話をかければ、一宮雨莉はすぐに出た。

 俺は最近、稲葉がしずくちゃんと良い感じである事や、稲葉も満更ではなさそうな事、今後、すばるとしては稲葉と距離を置こうと思っている事などを手短に一宮雨莉に説明する。


 途中で色々お小言を貰うかと思っていたが、特にそんな事も無く、一宮雨莉は最後まで大人しく俺の話を聞いてくれた。


「わかったわ。ところで、一時的に距離を置くのはいいけれど、鈴村君は最終的にどうしたいの? 別れるつもりなの?」

「あわよくば稲葉をしずくちゃんに押し付けて、円満に別れたい」

 俺は正直に答える。


「ふうん? 新しい恋人でもできたの?」

「あー……中島かすみと付き合うことになった」

「……それは、色々と大丈夫なの? 別れたいなら協力するわよ?」


 すばるに何かあると、美咲さんの事務所もタダでは済まない事もあり、本気で心配しているらしい一宮雨莉の反応に既視感を感じる。


「酷い言い草だな、付き合ってるのは俺の意思だよ」

「まあ、私としては鈴村君が誰と付き合おうとかまわないのだけど、まさかすばるとしても付き合うつもりじゃないわよね?」

 俺が答えれば、一宮雨莉は怪訝そうに尋ねてきた。


「いや、あいつもアイドルだし、その辺は公表しない。一緒に出かけるのは女の格好で、とは言われたけど、それも恋人がいないカムフラージュのためだ」

「つまり、稲葉と別れた後、すばるはフリーになったままになるのね……」


 すばると鰍が交際を発表する事はないと一宮雨莉に説明するが、同時に一宮雨莉の声が低くなっていく。

 朝倉すばるがフリーになれば、美咲さんがすばるに恋愛的な意味でちょっかいを出してくるかもしれない、コレが一宮雨莉の一番恐れている事だろう。


 そして、それが一宮雨莉を攻撃的にさせる原因でもある。

「すばるの恋愛対象は男だけって事にするから! それに、今度の結婚式の事といい、美咲さんは一宮の事を真剣に考えてるみたいだし、美咲さんの事はそんなに心配しなくてもいいんじゃないかな……」


 緊張して、少し早口になりながらも、俺は自分の意見を述べる。

 好きな相手に嫌われたくなくて弱気になってしまう気持ちもわかるが、俺が今まで見てきた限りだと、美咲さんは本当に一宮雨莉の事を特別に思っているはずだ。

 

「そう、だといいのだけど」

「そうだって! 実際美咲さんが一宮程の相手を手放す訳ないじゃないか! お前は美咲さんから愛されてるし、もっと自分に自信を持っていいんだよ!」


 ポツリと呟くように言う一宮雨莉の背中を押すように、俺は力説する。

 一宮雨莉が美咲さんに自分の気持ちを伝えるだけでも、現状は変わるかもしれない。


「だから、もし美咲さんがすばるの事を気になるなんて言い出しても、自分以外を見るなって言ってやればいいんだ!」

「…………考えておくわ」

 その返事は、少し笑っているように思えた。

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