青田リョウ
青田レイジの息子の、青田リョウの話。
オヤジが、バーチャルワールド研究会に所属することになって数年がたった。
オヤジは頭の良さと熱意が上に認められたらしく、今では少しお偉いさんになっていた。
「リョウ、ちょっと手伝ってくれないか?」
「はい!わかりました!」
俺はオヤジに呼ばれて、オヤジのもとへ駆け寄る。
「これ持っててくれないか?」
「ああ!」
俺はオヤジに頼まれたものを持った。
今俺は、親父たちの職場にいる。バーチャルワールドという星を作るために、みんな朝からバタバタと忙しそうだ。
「レイジ君、ちょっとあれをこっちに持ってきてくれないかい?」
「あ、はい!」
オヤジは上の人に呼ばれて指示を聞くと、俺の方へ駆けてきた。
「リョウ、すまん。これをあっちに持ってってくれないか?」
「あ、うん!」
俺はオヤジが指差した方へ持たされたものを持っていく。
そこにはさっきオヤジに指示をしていた、金髪のおじさんが立っていた。
「おお!レイジ君の息子さんかね!」
「あ、はい!」
声をかけられて振り向く。
その金髪のおじさんが首からかけているネームプレートには、「VW研究会 会長 神川司郎」と書かれていた。
ああ、この人が司郎さんか…
「その道具、ここに置いておいてくれるかな?」
「はい、わかりました。」
俺は指示に従って道具を置いた。
「あの、他に手伝うことありますか?」
司郎さんは、お?と少し驚いてから、くちゃっと笑顔を作って豪快に笑った。
「ははっ!いやぁ~、偉いねぇ。」
なんだか照れくさい。
「あ、いえ、それほどでも…。
俺、もうすぐお兄ちゃんになるから、しっかりしなきゃいけないんです。」
「お兄ちゃん?
ああ、そうか。レイジ君から聞いてるよ。
またお子さんができるんだっけね。
君なら…そういえば、君って何て名前なんだい?」
「青田リョウです。」
「そうか、リョウ君か。リョウ君なら、きっといいお兄さんになれるよ!」
「あ、ありがとうございます!で、あの、何か手伝うことは?」
「ああ、そうだな…。じゃ、今度はあれを持ってきてくれないか?」
「はい!わかりました!」
俺はまた、道具を持ってくるために駆けだした。
ああ、なんかオヤジが司郎さんのことを好きになる理由がわかるな…。
指示をはっきり出してくれるリーダーシップがあって、褒めてくれて、自分に興味を持ってくれて、かわいがってくれて……
なんだか自分からあの人の役に立ちたい、と思わされるような、魅力あふれる人だった。
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バーチャルワールドがだんだん完成に近づいてきた。
そのころ、病院から一通の電話が来た。
「レイジさん、電話です!」
「はいよ!!」
研究員で電話をとったオヤジの後輩が、オヤジに受話器を渡す。
「はい、もしもし青田です。
はい。
お!そうですか。
わっかりました、今すぐそちらへ伺います。」
オヤジは電話を切ると、すぐに司郎さんの方へ向かった。
顔が赤くなって、興奮気味で、司郎さんに何か伝えている。
一度勢いよくお辞儀をすると、こちらへ向かって走ってきた。
「リョウ、今すぐ病院行くぞ!母さんのとこ!」
「え?あ、うん。でも仕事…」
「今司郎さんに確認とった。仕事はいいって。
それより、早く行こ!産まれそうなんだって!!」
産む?……
唐突過ぎてすぐには理解できなかった。
でも、だんだんとオヤジの言葉がしみこんできた。
ウム、うむ、産む……
「弟!!?」
「そうだ!早く行くぞ!!」
「うん!!!」
俺と親父は猛スピードで車に乗り込み、事故を起こさない程度のぎりぎりの最高速度で病院へ向かった。