VWの創造
Future city adventureの登場人物である「神川黄竜」の父、「神川司郎」の話。
「あともう5年で、化石燃料が尽きてしまいます!」
「私たちの生活から電気が消えてしまうのでしょうか?!」
「昔から注目されていた再生エネルギーの使用を全国に広げるべきだ…」
どのニュース番組を見ても、今はその話題で持ちきりである。
神川司郎は、頬杖をつき、はぁ、と小さなため息をした。
肘の下には、木製のこげ茶色の、丁度私が手を広げたくらいの大きさである大きなデスクがあり、右手にコーヒーが置かれている。前には、スクリーンがなくても映像が空間に浮かびだされる形式のテレビが広がっており、テレビ画面の奥には木製の大きな本棚があり、なかには分厚い本や付箋がたくさん貼られている少しぼろぼろの辞書、科学に関する書籍等が隙間なくきっちりと入れられていた。左を見るとベージュ色の壁で、2、3枚ほど小さな額が飾ってあった。右には、もう酸化してしまった金色のノブのついた、木製のドアがあった。後方には窓があり、茶色の、薄いカーテンが窓の両脇に束ねられていた。
テレビには、いくつもの番組が同時に放送されていて、司郎はそれらを見ながら、あることを考えていた。
「コンピュータ、energyとenvironment(環境)についての論文。」
『かしこまりました。』
ピ、と音が鳴り、司郎の前にウインドウのような白い画面がたくさん現れた。
白い画面にはよく見ると、どれもたくさんの文字が書かれている。
1つ2つは日本語のもの、6つか7つはアジアやヨーロッパ、ロシア等の言語のもの、その他はすべて英語で書かれているものであった。司郎は英語、日本語、フランス語、スペイン語、ロシア語、中国語など、日本でも有名な言語なら日常会話くらいはできるが、論文ともなると専門用語がガンガン飛び出してくるわけで、内容のほとんどを理解しながら読めるのは英語と日本語のものだけだった。
もちろんコンピュータに頼れば、知らない言語で書かれていても翻訳してもらい論文を読むことができる。しかし、コンピュータに翻訳してもらうと原文に書かれていることは正確に読み取ることができない。
まずは英語で書かれている、一番手前に現れた論文を読み始めた。
今考えていること。
それは、本当に「持続可能な社会」を作るためには、一研究者として何をしたらよいか?ということだった。
あと5年で、我々の依存してきたエネルギーが尽きてしまう…。
とうの昔からわかっていたことではあるが、その事態に直面すると、予想以上に色々なことを考え、色々なものを生み出す必要があることを知った。
とにかく、知識を得て現状を知って、今考えられる案を出せるだけ出してみよう。
そう思い、デスクの引き出しから黒い革製の手帳とペンを取り出し、論文を読みながら、論文から得られた有益そうな情報や今まで気づかなかった新たな課題、考えられる解決策などを書き始めた。
外ではだんだんと日が暮れて、星が輝き始めた。
司郎が論文を読み始めた時は部屋の照明がついていなかったが、少し暗くなると、コンピュータが気づいて照明をつけてくれていた。
司郎は論文を読んで案を書きだすのに夢中だった。
今まで考えていたことを一つにまとめていく。
…これは、資金とみんなの熱意さえあれば可能な、最善策かもしれない……
「コンピュータ、計画書作成」
『かしこまりました。』
ピ、という音が鳴る。『電子記録』という画面が開き、それがノートのような形になって司郎の前に置かれた。司郎はそのノートに考えを、流れるように書き出した。
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何日かたったある日。一通の電話が来た。司郎は電話に応じる。
「はい、神川です。
はい。
はい。
…!
わかりました。ありがとうございます。」
では、と言って、冷静に電話の通信を切る。
「おっしゃあぁぁぁぁっ!!!!!」
通話の時に抑えていた喜びが一気にあふれ出す。
やった、やったぞ…!!
電話の内容。
それは、司郎の研究の計画が素晴らしいものだと認められたこと。
そして、その研究を進めるために自ら研究会を立ちあげ、研究を進めるように、ということだった。
しかも、お金の面も設備の面も助成してくださるというBigなおまけつき。
がちゃり、と部屋のドアが開いて、小さな黄色髪の男の子がひょこっと顔を出した。目が輝いている。
「オヤジ、どーしたの?!なにかすごい発見したの?」
「あ、黄竜。フッフッフ…聞いて驚くなよ。実はな―――」
司郎は満足げに息子にあったことを伝えた。
「すげぇっ!!!やっぱすげぇ!!!オヤジは世界一…いや、宇宙一だっっ!!」
「…まあ、まだまだこれからなんだけどな。」
司郎は少し照れくさくなって頭を掻いた。
でも、本当に、ここからがスタートだ。
気を引き締めていくぞ。
「黄竜、研究が始まったら手伝ってくれよ?」
「おうっ!!!」
黄竜は満面の笑みで、力強いガッツポーズをして見せた。
「おおっ、頼もしいなぁ!」
「へへっ!」
司郎はしゃがんで軽く黄竜の背中に左腕を回し、右手でよしよし、と頭を撫でてやった。