たたたた
「それではぁ、皆酔いも更けてきたことですし」
「更けてくるのは夜な」
「そろそろ暴露大会と行きますか!」
高田がテンション高くそう言うと、他の三人はめんどくさそうに顔を逸らした。
「何? 暴露って何を?」
田中の質問に高田は可愛い子ぶって顎に手を当てて『高田、わっかんなーいなー☆』のポーズをした。田中はイラッとした。
「んー。じゃあ、今日は『今だから言える! 自分の恥ずかしい話! ナンバーワン!』で行こう!」
「もう高田の優勝でいいや」
「武田は冷たいよなー。だからモテないんだよ」
「おめぇに言われたくねぇんだよ」
パッパラパーな高田の言い様に、立ち上がってガンを飛ばしてケンカ腰になる武田。その横に座る孝志が武田腕を掴んで座らせた。
「じゃあ最初は高田からでいいよね。俺たちは全然ルールとかわかんないからさ」
「よっしょい! まかせんしゃい!」
孝志の提案に、高田は空のグラスを持って立ち上がった。それをマイク代わりにして話す。
「私は、高校生の時、彼女とエッチしました」
田中から『下ネタかよ』と呟く。
「しかしながら……初めての時、彼女のグラマラスなボデーを見ても……その、立ちませんでした」
「「「…………」」」
微妙な空気が流れる。氷がカランと鳴り、その音で武田が息を吐いた。
「はぁ……あの時の彼女、全然可愛くなかったじゃねぇか」
「だよな。グラマラスっていうよりも、グラビドンだったよな」
「えっ、そんなんだった?」
「おいおい。お前もB専かよ」
「そんなことなかったでしょ。ちょっとぽっちゃりしてるくらいで……」
「いいか孝志。きっと女目線でのぽっちゃり定義にやられてんだよ。男のぽっちゃりっていうのは、全盛期の深田恭子だっていうのは常識だろ」
「マジでか」
「マジだ」
「よって、あれはグラマラスじゃなくて、グラビモスだ」
「ちょっと待て」
田中と武田が孝志にぽっちゃりの説明をしていると、高田が立ったまま上から三人を見下ろした。
「よってたかってクミちゃんの悪口を言いおってからに。グラビモスだろうがグラビドンだろうがグラディウスだろうが」
「最後のは言ってないからな」
「あの頃の俺にとっては、クミちゃんのボデーはグランドスラム級だったんだよ!」
高田の言葉に、三人は『おー』と声をもらした。
「そんなにクミちゃん推しなのに別れたのにこれだけの熱弁をするたぁ恐れ入った!」
「グランドスラム級の重さの表現に恐れ入った!」
「よくそんなにグラグラ言えるよね。恐れ入った」
高田は高田で、三人の打ち合わせ無しの反応に恐れ入っていた。
「そうじゃない! そうじゃないんだ。オーケーオーケー。クミちゃんのことは一回忘れよう。店員さーん! オペレーター一つ!」
「あ、じゃあ俺ラムコーク」
「俺はねぇ……ウーロンハイ」
「みんな頼むの!? じゃあ……黒霧ロックで」
「オペレーターとラムコークとウーロンハイと黒霧島のロックですね。お待ちくださーい」
店員さんが去って行ったのを見ると、高田は席に腰かけ、テーブルにあったキュウリ漬けをポリポリと食べた。
「いいか? 俺が言いたかったのは、みんなで恥ずかしかった話を暴露しちゃおうって話さ。なのになんでクミちゃんのグランドホテルの話になってんだよ」
「ホテルと初体験を賭けてるのか。じゃあラブホでヤったのか」
「俺んちだよ! もうお前は黙ってろ! 相槌はいらねぇ!」
高田が隣の田中にビシィっと指を向けて言った。
「よし。じゃあ次は武田の恥ずかしい話な」
「ちょっと待て」
「なにかね?」
「高田の恥ずかしい話って、別に恥ずかしくなくね?」
「えっ?」
今世紀最大の汚点を晒した高田は、狐に……いや、クミちゃんにつままれたような顔をしていた。
「たしかによく聞く話だしな」
「俺も聞いたことある、かも」
「えっ? じゃ、じゃあさ、お前らも最初はそうだったわけ?」
「「「いや、全然」」」
「なんなんっだよっ!! そんなに俺のことおちょくって楽しいか!? そんなに俺のことバカにして楽しいか!? 俺の恥ずかしい話を聞いてバカにして楽しいか!?」
三人は顔を見合わせ、高田へと向いて、首を縦に振った。
「「「うん」」」
「ガァアアッテムッ!!」
「お飲み物お持ちしましたー」
「あ、どうもー」
田中と孝志が飲み物を受け取ると、高田のことを不審者を見るような目で見ていった店員さんは、きっと後ろで他の店員とこそこそ話していることだろう。うるさいやつがいる、と。
「でもそんなこと言ったって、誰でも恥ずかしい話はあるでしょ。高田だけが恥ずかしい想いをしてるってわけじゃないし」
「おぉ孝志。お前は俺のフォローをしてくれるのかぁ」
「だから高田が隠してた恥ずかしい話を俺たちが聞いてあげるよ。笑ったりしないからさ」
「バカにもしない?」
「しないしない」
「あとで恥ずかしい話聞かせてくれる?」
「するする」
「よしわかった。じゃあ俺から話すから、お前らも絶対話せよ!」
意気揚々と右肩上がりに初期のテンションを見せつけてくる高田。孝志は田中と武田へ、口パクで『ちょろい』と一言。
「よーし! では新しいお酒も来てテンション上がってきたところで、俺から言っちゃいまーす!」
「よっ! 高田さんっ! 待ってました!」
「クミちゃんサイコー!」
「オトコマエー!」
「言い盛り上げ方だねぇ! それでは一番! 高田のちょっと恥ずかしい話!」
おしまい