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戴き物 1(不知火 螢様より)

不知火 螢様からプチストーリーをいただきました!

ありがとうございます!


ほのぼのにゃんこの日常をお楽しみください。

 夢見の悪かった日は朝から憂鬱だ。こういうときは、いかにして気分を変えるかが重要である。

 ピクピクと耳を動かしながら、これからどうするかを考える。私の基本的なお仕事は趣味と実益を兼ねた情報収集と、陛下の身の回りのお手伝い、まぁ、言うなれば女使用人(メイド)である。

 しかし、情報収集はそれなりに気力と根気が必要となるので今日の気分では効率が悪いだろう。陛下の身の回りの世話の方は、ぶっちゃけ副業というか、私よりも適任者が居るので私が居なくてもあまり問題はあるまい。

 ……ちょっぴり仕事を放棄している感はあるものの、うん、ほら、私猫だから! ヒト型になるし喋るし、ちょっとアレだけど、でも猫だから! 猫に仕事させる方がおかしいもんね。猫ってのは気ままな生き物なのさ! 


「よし、今日は癒されデーにゃ!」


 そんなわけで、今日は仕事をサボろうと思います。



 市街地と裏町をつなぐ路地を、ゆらゆらとしっぽを揺らしながら歩く。治安のよろしくない場所ではあるが、私にとってはすでに庭みたいなものだ。その証拠に、どうみても浚ってくださいと言わんばかりな子供の姿でも、無事である。

 というか、そもそも皆にこやかに声をかけてくる。この町で私の天敵と言えば反魔法勢力くらいなものだが、彼らからだって、逃げるのは簡単だ。 


「おや、こんな時間にふらついているとは珍しいね! どうかしたのかい?」

「なんか今日は気分が乗らないのー。だから気分を変えるために、甘いものを求めているのですにゃ!」

「あぁ、なるほど! あそこのケーキは仔猫ちゃんのお気に入りだものね」

「にゃ~」

「あそこは本当に隠れた名店だものね。どうみても近寄っちゃいけないお店にしか見えないってのに。むしろあそこを見つけた仔猫ちゃんが凄いわ、お姉さん、尊敬しちゃう」

「存分に尊敬してくれてよくってよ! にゃ~♪」


 名前のない私は、いつの間にかこのあたりでは「仔猫」と呼ばれるようになっている。「仔猫」が私の名前だと思っている人も居るくらいだが、私は自分からは「仔猫」などと名乗ったことはないので、一応まだ私は名無しである。

 そんな私にこの近辺の人たちは声をかけてくるのだ。

 はじめは猫耳としっぽをはやした幼女を訝しげにじろじろと見ているだけだったが、私が害のない存在だと分かると気安く声をかけてくれるようになった。

 情報収集をする身としては、内輪に入れてもらえるのは大変ありがたい。特に、旦那さんを尻にしいている肝っ玉母さんなおばちゃま方や、夜の蝶なお姉さま方は大変貴重な情報源ともなる。普通に可愛がってもくれるので、私は気づけばこのあたりに出没している。

 今も、ぐりぐりと頭を撫でてくれる。ちょっぴり乱暴な手つきなヒトもいるが、それも愛情表現の一つなので素直に受け止める。

 てけてけと町の人たちの間を歩き続けて、ぴたり、と足を止めたのは、見るからにおんぼろで入っちゃいけなさそうな酒場である。


「おっちゃーん、レアチーズケーキ一つ!」

「……まだ開店前だぞ」

「気にしちゃいけませんにゃ~」


 すでに顔なじみとなって長い強面のおっちゃん、もとい店主が呆れたようにつぶやく。

 この、見た目はおんぼろ酒場、いかつい強面の容貌という絶対に堅気ではなさそうなこの店の店主は、その外見からは到底想像できないほど繊細な料理をつくる。

 中でもレアチーズケーキは絶品で、私がこれまでに食べたことのあるレアチーズはすべてまがい物だったのではないか、と錯覚するほどの逸品だ。

 絶対、お店の場所と外観、そして店主の容姿で損をしているお店なのだが、繁盛してしまってはこのケーキを頻繁に食べることが出来なくなるだろうと思うと、中々この店を宣伝できないので複雑な心境だ。まぁ、元々店主自身が別に繁盛したいと思っているわけではないらしいので、ここはいつまでたっても隠れた名店なのだろう。

 ちなみに、レアチーズケーキ以外も美味しい。ティラミスを美味しいと思ったのはこのお店が初めてだ。


「ふんにゃふ~ん♪」


 美味しいレアチーズに舌鼓を打っていると、起きた時のブルーな気分も少し上昇する。美味しいものは正義である。美味しいものを作る人は世界の宝なのだ。


「そうにゃ、おっちゃん、お土産にケーキを買いたいけど、今いくつ出せるにゃ?」

「……四つ、だな」

「うにゃにゃ、四つか~」


 となると、私と陛下、黒猫ちゃんにグラハム様でおしまいか。

 ……ごめんねルゼ様、だって、ルゼ様に買っていくとオリビアさんにも買わないといけないし、ほかの神殿の女の子たちにも買わないといけないし! 四つしかないというなら残念ながら神殿組には諦めていただこう、というか、陛下組にはこのことを黙っていてもらおう、うん。



「陛下~、陛下~、ケーキ買ってきたからケーキ食べるにゃ~」

「仔猫、朝から姿を見ないと思ったらどこに行っていたんだ?」

「今日は自主休暇にゃ! ってなわけで、休憩にゃ、ケーキ食べるにゃ!」

「自主休暇……」

「細かいことは気にしちゃダメにゃ!」


 この国の竜王陛下の執務室をばん! と勢いよくあけて休憩を促す。中には陛下と侍従長のグラハム様、そして同僚であり友人である黒猫ちゃんしかいないのは確認済みだ。

 買ってきたケーキを黒猫ちゃんに渡すを、中身を確認した黒猫ちゃんは「ではお茶を用意しますね」と休憩の準備を始める。

 そんなメイド二人の様子に陛下とグラハム様は仕方ないとでもいうように笑い、陛下は手にしていたペンを机に置いた。


「……これは、美味いな」

「にゃふふーん、私一押しの逸品にゃ!」


 一口ケーキを食べた陛下は驚いたように瞠目した。

 本来、使用人が主と共にケーキを食べるなんてありえないのだが無礼講だ、うん、無礼講と言うことにしておくれ。

 私が決めることじゃないけどさ!

 ちなみにグラハム様と黒猫ちゃんはちゃんと立って傍に控えている。うん、使用人の鑑だね! 私はほら、猫だから、うん。ケーキは後で食べてね、美味しから!


「仔猫は食べる必要がないと、以前言っていなかったか?」

「生きるために食べる必要はないけど味は好きなのにゃ~。疲れた時には甘いものにゃ!」

「疲れているのか?」


 もっきゅもっきゅとケーキを食べ終えると、陛下が素朴な質問をしてくる。確かに以前、私は食べる必要はないと陛下に教えたことはあったがまさか覚えていたとは思わなかった。

 陛下は以外と私たちのことも気にかけてくれる。本当に、いい統治者だと思う。


「……ちょっと癒されたかったにゃ」


 夢見が悪かったから、癒されたかったのだ。

 そうだ、癒しと言えば陛下ではないか!


「……仔猫、何をしている?」

「癒されたいのにゃ~」


 ぽすん、と人型から猫形態に変化し、よじよじと陛下の頭へとよじ登る。最近はここが私の癒しスポットと化しているのだが、うーむ。

 そんな私を気にせずそのまま執務を再開しようとしていた陛下にストップを掛ける。

 今日の私はひたすら我儘にゃんこである、いや、私はいつでもフリーダム!


「陛下ー、ここは嫌にゃ、あったかいとこに行くにゃ、執務室はストレスが溜まるににゃ、暖かいとこまで私を連れて逃げてなのにゃ」

「最後が可笑しいぞ、仔猫」

「気にしたら負けにゃ、さぁ行くにゃ、今すぐ行くにゃ、昼寝に最適な場所までれっつごー、にゃ!」


 ぺしぺし、と爪のでていない前脚で陛下の額を叩く。

 まぁ、叩くといっても当たっているのはプニプニなピンクの肉球だ。痛いわけがない。

 さぁさぁ、魅惑のにくきうまで持ち出した、心が動くじゃろう? なんならプニプニと触ってもいいのよ?


「ふむ……今日中にやらねばならぬ仕事は粗方終わっているし、昼寝もいいな」

「さすが陛下にゃ! さぁ行くにゃ~」


 ごーごー!


 なんてことを自由気ままに振る舞っていたら陛下は私を頭に乗っけたまま執務室を放棄して、人は来ないが日当たりのいい花畑までやってきた。

 人型から本性である竜に戻った陛下は私を頭に乗せたまま、昼寝をするのだった。

 うん、ここは暖かくて、おまけに竜に戻った陛下も火を吐いたりする竜だからなのか暖かくて、ぽかぽかで、気持ちよくって、直ぐに眠気がやってきた。


「ここならば昼寝にも最適だろう。……仔猫」

「すぴー、すぴー」

「もう寝たのか、早いな……ゆっくり安め」


 暖かな場所でゆっくりと眠りについたその日、私は久しぶりに大好きな人に夢で逢い、幸せな気分で昼寝から起きたのだった。

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