私の恐怖体験
ありがちな展開ですが
実体験を元に創作しました
短いので軽い気持ちでお読みください
そろそろ冬が近づいてきていた頃。
冬になると行けなくなるからと毎晩のように同じ峠に行っていた。
その日は金曜日だったと思う。
家を出て駐車場へと向かっているとなぜかとてもイヤな予感がした。
言い知れぬ不安感とでも言うのだろうか、とにかく何かが出かける事を
止めようとしているような感じだ。
それでも、気のせいだと思い込みいつもの様に峠へ向かった。
何事もなく無事に峠に着き、1時間ほど走り回った。
峠の途中の空き地は有名な心霊スポットらしいがいつも気にせずそこで
Uターンしている。
夏ともなれば夜中のこの時間でも何台かの車が止まっていて肝試しなどで
そこそこ人がいるのだが、その晩は1台の車も見当たらなかった。
もと来た道へ戻ろうとしたら、雨が降り始めた。
帰り道は下りなので気をつけなければならないと思いながらいつもより
慎重に車を進めていた。
峠の出口近く、この辺りは大分フラットになっている。
最後のS字コーナー。最初の左コーナーから切り返して右コーナーに入った瞬間
目の前に突然、女性の姿が飛び込んできた。
「まずい」とフルブレーキをかけたが間に合わず”ドン”と鈍い音がして
ハンドルに振動が伝わってきた。
車が完全に止まった後もしばらくは動けずにいた。
しばらくはぼーっとしていたが、正気に戻ると車の前に出た。
しかし、近くに被害者の姿が見当たらない。
道路わきの谷底を見たが暗くてよく見えない。
とりあえず事故を起こしてしまった以上警察へ連絡せねばと
携帯電話で110番通報をした。
警官が来るまでの間も周りを見て回ったがやはりどこにも被害者は
見当たらなかった。
サイレンの音が近づいて来た。
手を振り回しパトカーを誘導した。
降りてきた警官のうち一人がこちらにゆっくりと近づいて来た。
もう一人は懐中電灯を照らして周りを見回している。
「通報されたのはあなた?」
懐中電灯を顔に当てられて聞かれた。
「はい」
声が震えていた。
「とりあえず免許証」
財布から免許証を出して警官に渡した。
免許証の写真と何度も見比べて返してくれた。
「事故を起こした?」
「はい」
「どんな事故?」
「え、人身事故です 女性を轢いてしまいました」
途端に警官がなんともいえないいやな顔をした。
「お酒とか飲んでないよね?」
「はい」
「何か、悪い薬とかもやっていない?」
「はい」
「寝不足って事もないよね?」
「はい」
なぜそんな事を聞かれるのだろうか。
「とりあえず状況を説明して」
何か、まったくあわてた様子もなく警官が聞いてきた。
救急車を呼ばなくて良いのだろうか。
「上から峠を降りてきてこのS字に入って来たんです
で、右にハンドルを切ったら目の前に突然女性の姿が
見えて急ブレーキをかけたんですが間に合わなくて…」
「で、轢いてしまったと?」
「はい」
「間違いない?」
「はい、確かにぶつかった衝撃がありました」
「かなり大きな衝撃だった?」
「はい、ハンドルに伝わってくるような衝撃でした」
「またか」
「はい?」
「こっちへ来て」
警官は車の前方へと回り込んだ。
懐中電灯で車の正面を照らすとこちらを見ながら
「それだけの衝撃があったら普通、車が壊れるよね」
何が言いたいのかわかってきた。
「見てごらん、傷ひとつないでしょう」
確かに、どこをどう見ても壊れた後どころかへこみひとつ
見当たらない。
何がなんだかわからなくなってきた。
確かに、人を轢いた感触はあった。
鈍い衝撃がハンドルに伝わってきたのは本当だ。
しかし、車にはまったくダメージがない。
頭の中が混乱してきた。
「一応、住所等は控えておくよ 万が一本当の事故だったら
困るからね」
「どういう事ですか?」
警官が少し困ったような表情をした。
「ここだけの話だよ」
「はい」
「今年の夏前から同じ様な通報が何件かあるんだよ」
「?」
「女の人を轢いてしまったと通報があって来てみると事故が起きた
形跡がまったくない」
警官はどこか遠くを見つめながらそう言った。
「実は、あなたで7人目なんですよ ここで事故を起こしたって言う
通報者は それも決まってこんな雨の夜に」
警官は何かを吹っ切ったようにこちらに笑顔を向けた。
「とりあえず、通報は受けたから明日1日このあたりを捜索します
何か事故の形跡が見つかったら連絡します」
そう言い残すとパトカーへと戻って行った。
「あの、僕はどうすれば…」
「とりあえず連絡があったら警察署へ出頭してください
まぁ今までも何もなかったから大丈夫だとは思いますが」
「すみませんでした」
「いえいえ、では安全運転で帰ってください」
パトカーが去った後もしばらくは動けなかった。
あの女性は一体なんだったのだろうか。
何も考えがまとまらない。
すっかり冷え切った体をシートに落とし込んでタバコに火をつける。
考えても考えても何もまとまらない。
「帰ろう」
灰皿にタバコをねじ込んでエンジンをかけた瞬間後部座席から
とてつもなくイヤな圧力を感じた。
「後ろを見てはいけない」
ルームミラーに目を向けようとした瞬間に何故かそう思った。
後ろを見ずに車を出して無理にでも気にしないように運転に集中した。
しばらくすると突然後部座席からの圧力が消えた。
後日テレビを見ていて全てが理解できた。
それは警察の活躍を特集した番組だった。
なんとなく見ていると見慣れた風景が映し出された。
そのナレーションを聞いた瞬間納得した。
『今年の5月、ゴールデンウィークの真っ只中でその悲劇は起きました
悪質なひき逃げ事件です
その日は夜から小雨となり行楽地のこの場所もすっかり人出が途絶えました
そのため目撃情報は一切得られませんでした…』
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