プロローグ
〈世に魑魅魍魎が跋扈し、世界が闇に覆われていた頃。
人々は明るい未来を夢見ては、諦め、影に泣き、暗がりに眠った。
だがそんな時、天から四筋の光が射した。
まばゆい輝きを受けて現れたは、四人の若者たち。
太陽のごとく輝く金の髪をなびかせ、海のように深くきらめく青い瞳を持った彼らは、各々の力をもってして世を平定した。
振るう剣に焔を纏い、その勇敢さで人々を導いた、紅の賢者。
荒れる大地を治め、その聡明さで人々に知恵をもたらした、翠の賢者。
操る風で重たき闇を一掃し、その誠実さで人々の信頼を得た、白の賢者。
清き水を手に万人を癒し、その慈悲深さで人々の心に安寧を与えた、碧の賢者。
彼らによって闇は祓われ、世界は光に満ちた。
幸せの地には自然と人が集まり、やがて国の形が作られてゆく。
そして四人の若者たちは世の平安を見届けて、天に帰っていった。
今も民草の幸せを願いながら、天から静かに見守っているという……〉
ゆっくりと語りが結ばれると同時に、聞き手であった三人の幼子は、ほぅっとため息をついた。‘建国物語’は何度聞いても胸が躍る。
「ねぇ、はは上さま?」
「はいなぁに、私の可愛い姫」
寝室で眠りにつく直前ということで、その幼女はヒソヒソと小さな声で母に問うた。
「あに上たちは、その…けんじゃさまの生まれかわり、なんでしょう?」
掛布団を口元まで引き上げながら、幼女は両隣に並ぶ幼子をチラリと見た。
「わたしだけ…ちがうみたい。なかまはずれなの」
そして伺うように母を見上げた。
「そんなこと…!いったい誰が……」
娘の思わぬ言葉に母はひゅっと息を呑んだ。
おそらく侍女たちの噂話を偶然聞いてしまったのだろう。なにしろこの娘はじっとしていることが苦手で、走り回ってはいろんな所に潜り込んで、乳母を困らせている。
そして密やかに話される内容を聞いて、幼いながらに自分にとってよくないものだと感じ取ったのだ。
母は痛む胸を押さえながら、動揺を押し隠した。自分が不安な顔を見せてどうするのだ。
いつかこうなることは分かっていたし、闘いはこれからなのだ、と母は自分を見つめる娘に無理やり微笑みかけた。
大丈夫よ、そんなことはないわ、安心しなさい。そう言わなくては。声に震えが出ないように注意して、そっと口を開く。
「……ねぇ、姫ーーーー」
「ばかだなあ!お前はおれたちのいもうとに決まってるんだから、なかまはずれなんてことがあるかよ!」
「そうだよ。だいじょうぶだよ」
ひとりの兄は力強い言葉とともに、その小さな手で妹の頭を撫でる。もうひとりの兄は柔らかく微笑みながら、妹の頬にそっと唇を寄せた。
「あに上、にいさま、ほんと??」
兄たちの態度に不安げだった幼女の顔がほころんでゆく。
母はゆっくり息を吐いた。
「本当よ、姫。三人とも私の大切な可愛い宝物」
溢れそうになった涙をこらえながら、今度こそ母は綺麗に微笑んだ。
この娘の側にはふたりの小さな騎士がいたのだ。こんなにも心優しく頼もしく育ってくれた。きっとこれからも妹を守ってくれるのだろう。何があっても。
母は愛しい子供たちの頭を優しく撫で、ひとりひとり頬におやすみの接吻を落とした。