だからねえ、僕の心臓にその言葉を突き立てて、嬉しがらせてよ。
「遅刻よ」
駅前の時計広場は目を灼くようなまばゆさとジリジリする暑さだった。黒い日傘で光を跳ね除ける彼女はばっさり言葉で僕を斬る。
ごめん、とまともに言えないくらい息を弾ませた僕に日傘を差し掛けながら、彼女は腕を木陰のベンチに引っ張ってくれた。大きな木の根元を六角形に木のベンチが囲んでいる。
僕も彼女も電車で来るから、駅の改札口から見える時計台の前で待ち合わせたんだけど、よく考えると影の出来ない陽向だ。なのに、彼女は日傘を差しては居たけど、じっとそこに立って改札口を睨んでた。暑かっただろうに、待たせてごめん。
自販機で買ってきて、スポーツドリンクを頭に載せてくれる。
「電車が止まって」
「メールで連絡出来なかったの?」
「電車の中だったから」
「走らなくても良かったでしょ」
厳しい目が溜め息を吐いて、心配そうにハンカチで汗を拭ってくれた。
「電車から降りて連絡くれたら、喫茶店で涼んで待っててあげたのに」
「陽向で待たせてごめん」
「おかげさまで暑かったわ。あぶられても脂肪って落ちないのよね。水分しぼられるだけで。スポーツドリンク浴びるほど飲んだわよ」
あなたも飲みなさいな、と湯気が出そうだったけど少し冷えた頭からペットボトルをつかんで、フタを取って差し出してくれる。
「……ありがとう」
扇風機でぬるい空気がかき混ぜられる満員電車とか本当にキツかった。動かないし、時間ばかり過ぎて気ばかり焦るし。乾いた身体に染み渡る冷たい飲み物に涙腺が緩んだ。
「何泣きそうになっているのよ」
「僕、君の事好きだなあって」
思わずポツリとこぼれた言葉に、僕は何言ってるんだろうと真っ赤になってしまった。いや、好きだけど。好きだけど!
愛想が無いと言われる彼女はいわゆるクーデレなんだと思う。無表情だし言葉は容赦ないけど、その分裏表ないし、優しい。
待ち合わせ場所だからとこの暑い中陽向で待っててくれたし、さっきから何から何まで至れり尽くせりで、嬉しくてどうしよう。
「バカね」
困ったようなかおで、知ってるわよと彼女は笑う。
「私もあなたが好きよ」
汗で張り付く僕の前髪を指先で払いながら、彼女は真っ直ぐな言葉をくれる。時にオブラートに包んだ方がいい言葉だってそのまま真っ直ぐにポンと投げる彼女だから、こんな時だってストレートだ。
珍しく崩れた無表情とほのかに染まった君の頬につられて、僕はもっと赤くなる。僕、今湯気立ってるんじゃないかな。
「……ありがとう」
子供みたいに純粋に、彼女の言葉はいつだって真っ直ぐだ。
嘘や偽りなんてなくて飾らなくて真っ直ぐで。だから、その威力は物凄い。
だからねえ、僕の心臓にその言葉を突き立てて。