*とりあえず
「マシンガンにするかね」
「もっと無理よ! 黙ってて……」
なるほどね……ベリルは彼女の様子に納得した。
傭兵のストーキングはしていても、その仕事に慣れている訳じゃない。彼らがする仕事を見慣れているというだけなのだ。自分とは関わりのない事を間近で見学していたに過ぎない。
いざ自分に降りかかったとき結果はこうだ……呆れて溜息を吐き出した。
「もう良い」
「え?」
内心ほっとしてマーガレットは銃を下げた。
「掴まっていろ」
アクセルを踏み込み速度を上げる。
大型トラックの前に立ちはだかる数人の男たちは手に持っているライフルやショットガンでピックアップトラックに発砲を繰り返した。
「……」
唇をペロリと舐めてハンドルを勢いよく右に切る。
「!?」
目の前で左に曲がるオレンジレッドの車が道から外れて大きくバウンドした。そして道を塞いでいるトラックの後ろをかすめて通り過ぎ、再び道に入ってそのまま走り去る。
「……」
あまりにもの鮮やかな運転に、男たちはしばらく呆然と立ちつくした。
「……た、助かった、の?」
シートベルトから微かに震える手を離し
「抜けた」
無表情に発するとヘッドセットからライカの声が響く。
<さすがベリル。しばらくしたらカーティスの車が見えるハズだ>
それからおよそ2時間──
「!」
路肩に大きなジープが駐まっていてその側にいる人物に見覚えがある。
「ベリル」
ジープの後ろに停車すると、彼の名を呼び男が近づいてきた。窓を開け手を軽く挙げて応える。
「!」
カーティス……ああ! ずっと前に密着した人だわ。ブラウンの髪の、がっしりとした男を見つめた。
「動いているのはニケの部下だ。アーヴィングはこの近くの住処にいるらしい」
外に出たベリルに男が応える。
「ルカの方は」
「なかなか掴めないようだ」
「そうか」
小さく溜息を漏らした。
「どう思う?」
「どうも妙だな」
おもむろに訪ねたカーティスに言葉を返す。
「やっぱりそう思うか」
バレたならそのまま向こう側の人間として生きればいい。なのに何故ここまで殺しにかかるのだろうか……問題は画像だけじゃないのか?
「しかし画像以外に思い浮かぶ事は無い」
「じゃあ……問題はお前じゃない?」
「! ……?」
カーティスの言葉に怪訝な表情を浮かべた。
「お前を狙ってるってこと」
さらに眉をひそめる。
「あの女だけだったら殺してそれで終わったけどよ、お前だと解って狙いを変えた」
「何故今更……」
「あいつ、前にぼそっと言った事があるんだ」
『ベリルを自由に出来ればこれほど強いものはない』
「なんだそれは」
「つまり私は利用された訳ね」
頭上からの声に見上げると、開かれたドアの窓からマーガレットが2人をじっと見下ろしていた。
「じゃあ私が彼から離れたらこの騒動も終わるってこと?」
「そう簡単にはいかないだろうな」
カーティスが2人を交互に一瞥して応えた。
「重火器を使用される可能性は考慮にいれるべきか」
「あ~それあり得る」
「! 物騒なこと言わないでよ」
「心配しなさんな。ベリルがあんたを死なせないから」
「奴を向こう側の者として置く事は許容しかねる」
「それは同感だ。みすみす敵を増やしたくない。どうせならニケも一気に倒してしまいたい」
「やっぱりあれか?」
「うむ」
「?」
口の端を吊り上げている2人に首を傾げた。
携帯を取り出しボタンを押しているベリルを確認してカーティスは静かにするように人差し指を唇にあてて彼女に示す。
彼の携帯とヘッドセットは連動しているため、彼女のヘッドセットにも電話の呼び出し音が響いていた。
<……お前からかけて来るとはな>
「アーヴィング。随分と執拗だな」
口の端をつり上げる。
「!?」
アーヴィング!? マーガレットは声を出しそうになった。
<女は諦めてやる。代わりに俺と一緒に来い。断ればその女は殺す>
それに喉の奥から笑みをこぼす。
「私にそちら側につけというのか」
<俺の部下になれ>
「ククク。永遠に人間の敵になれと」
<破壊者の顔こそが本来のお前の正体だ>
「急用を思い出した」
しれっと言い放ち通話を切る。
「……」
なに今の切り方……マーガレットは唖然とした。
「かけてくると思うか?」
「かけてくるだろうね」
「あんなんでかけてくるハズ無いじゃな……」
呆れたマーガレットの耳に呼び出し音が響く。
<いつまでふざけているつもりだ?>
ホントにかけてきた……