*いやがらせ
「そろそろ私だと気づかれている頃だろう」
「何かまずいことでも?」
「やり方が派手になる」
「?」
どういう意味なんだろう……解らずに彼を見つめた。
「少々の事ではめげないのでね。重火器を使用する恐れがある」
「大砲や地対地ミサイルを使ってくるって!? 相手は女1人なのよっ」
女は目を見開いた。
「しかし私がいる。ハンドガン程度では相手にならない」
「……」
自意識過剰だわ……さらりと言い放った事に呆れた。
「奴とは何度か組んだ事があってね、実際に奴がそう言ったのだよ」
『お前の動きを止めるには、ヘビーウェポンが必要だな』
「笑顔だったが目は笑っていなかった。本気で言ったとしか思えん」
「……」
ウソでしょ……たった1人の傭兵にヘビーウェポンですって? 何を考えているのよ、そのアーヴィングって人。
「ねえ……」
「ん?」
恐怖でしばらく固まっていたが、ふとそれで思い出し怖々と訊ねてみる。
「首を切り落としても生きてるの?」
「わからん。やってみるか?」
「! 出来る訳ないじゃない」
口の端を吊り上げて応えた彼に語気を荒げた。
「麻酔は頼みたい。痛いのは勘弁だ」
「だから! やる訳ないで……っ痛いの?」
「人と同じにはね」
驚いたように見つめる彼女を一瞥しクスッと笑う。
「痛みは無いと思っていたか」
「てっきり……」
「とんでもない。痛みで気を失う事もしばしばだ」
「だったらどうしてこんな仕事……」
「私の生きる道は無いのだよ」
「!」
愁いを帯びた微笑みが彼女の心を突き刺した。
「でも、山や森にこもることだって出来るじゃない」
「私は仙人ではない。人の世に絶望もしていなければ人を嫌っている訳でもない。自身の持つ力をより良く使いたいだけだ」
「……」
嫌な人……じゃ、ないのかな……?
「処で」
「?」
「誘惑するつもりならもっと大胆にしてはどうかね?」
「?」
意味の解らないマーガレットに、ベリルは自分の胸元を指し示した。それに従い視線を降ろしていく。
「!?」
服のボタンが2つほど開いていて、ブラが少しチラついていた。
「い、いつから……」
「逃げるのに車に乗り込んだ時からかな」
「もっと早く言ってよ! バカ」
「クククク」
「このっ……」
前言撤回! やっぱり嫌な奴! 声を殺して笑っているベリルをギロリと睨み付けた。
「アーヴィングはあんなに紳士だったのに」
嫌味を込めて聞こえるようにつぶやくと彼はクスッと笑みをこぼす。
「当然だ。早々に引き離すにはそれが最も効果的なのだから」
「! そうなの?」
「奴は気むずかしい事で有名でね。その奴が紳士だとは笑い話にもならん」
「そんな……」
私は彼に軽くあしらわれていたの? 愕然としたあと怒りがふつふつと湧いてきた。
「傭兵と接していきたければもっと考える事だ」
「そうね……そうするわ」
さすがの彼女も返す言葉が見つからない。
しばらく車を走らせているが、目的地を探している気配もなく怪訝に問いかけた。
「どこに向かってるの?」
「適当に」
「そ、そう……」
本当に適当な気がして二の句が継げない。
「!」
バックミラーにヘリの機影が映りベリルは険しい表情を浮かべた。
「マーガレット」
「なに?」
「ハンドルを頼む」
片手でバッグの中からショットガンを取り出し発する。
「え?」
言ってガラスを下げハンドルから手を離した。
「わぁっ!? ちょっ、ちょっと!?」
慌ててハンドルを助手席から握りしめ驚く彼女の耳にヘリの音が徐々に大きくなる。
「……」
ヘリ? という事は……
薄笑いで固まった刹那──激しい音と衝撃が周り中から響き渡った。
「ぎょええー!? マシンガン!? ウソでしょ!?」
携帯式のマシンガンと違い、ヘリのマシンガンは威力が桁外れだ。
いくら特別仕様のトラックとはいえ、これはキツいんじゃ……!? ハラハラしてハンドルを握る。
「?」
一体どこを狙っているんだろう? ショットガンを構えているベリルをチラチラと見やる。
「……」
彼は狙いを定めてペロリと唇をひと舐めしたあと、引鉄を一度引いてすぐハンドルに手をかけた。
「えっ? それで終わり!?」
「不時着は可能な範囲だろう」
そのまま追跡して来るじゃない……そう思ったとき、わずかな視界から煙を噴いて遠ざかっていくヘリが見えた。
「へ?」
「燃料タンクを狙った」
たった1発で命中? 凄すぎるわよ。
唖然としているとカーナビに差し込んでいた携帯が鳴った。
<ベリル>
ルカの声だ。
<なんとか証拠を掴めそうだが、そっちはどうだい?>
「先ほどヘリを撃墜した」
<車の追跡にヘリ。次は道路を封鎖してくるぞ>
口笛を鳴らして発した。
「だろうな」
「ちょっと! 楽しんでるんじゃないでしょうね!? 冗談じゃないわよ! 巻き込まれる身にもなってよっ」
まるで緊張感のない2人の会話にヒステリックに張り上げる。
<良く言うぜ。自分からまいた種だろ>
「うっ……」
しかし、そんな言葉にめげる彼女ではない。
「わ、私のおかげで解ったんでしょ! 感謝くらいしてよね!」
<おほ、言うねぇ~。あんたが見つけなくてもいずれバレてたさ。俺たちはそれほどバカじゃない>