*ピンポイント
「これは……アーヴィングか」
映し出された人物に目を細めた。灰色の短髪に深い海の色をした瞳、40歳ほどの体格の良い迷彩服の男だ。
「そうよ。あなたの前に会ってきた傭兵」
マーガレットは自慢げに鼻を鳴らす。
「彼はあなたと違って紳士だったわ。快く私を側にいさせてくれたの」
「……」
聞いているのかいないのか、さしたる表情の変化も彼女に目を向ける事もなく画像を流していく。
「!」
1枚の画像に目がとまった。
「これは?」
「え?」
言われた画像に目をこらす。
「ああ、これね。別れたあとにあと1枚欲しいなって思って戻って撮ったの。誰かと話してたから邪魔するのも悪いと思って遠くから黙って撮ったわ。これがどうしたの?」
「……」
画像をじっと見つめる。
「もらうぞ」
「え?」
右手に携帯を持ちカーナビの下のボタンを左手で操作する。
「ワオ! 赤外線通信まで出来るの? 凄いじゃないこの機械。どこに売ってるの?」
「売っとらんよ」
さらりと言いながら電話をかける。傭兵の中にはこういった特殊な機械を使っている者も少なくはない。
ベリルにいたっては道楽で開発している会社なりが試作品をよく送ってくる。現代では市販品の発展系が軍に流れるというシステムなのだが、傭兵の間では未だに市販になる前の商品が流通する場合もある。
「ライカか、今から送る画像を見てくれないか。おそらくニキ・オルソンだと思うのだが」
すぐに切って画像を送る。
「……ニキ・オルソン?」
数分後、電話が振動してすぐに出る。
「! やはりそうか。うむ、すまんな」
「何?」
「画像を照合している暇が無いのでね。目の確かな仲間に訊ねた」
発して再び携帯を操作した。
ひと段落し喉を潤したあと車を再び走らせる。
「で? 誰なの、その……」
「ニキ・オルソン」
「そう、そのニキって人」
説明しようとしたとき携帯が震えて携帯を差し込む。
<よう、届いた画像見て驚いたぜ>
ルカだ。
<お嬢さん、とんでもない事したね>
「どういう意味?」
「ニキ・オルソンは武器商人だ。かなりきな臭いね」と、ベリル。
<俺たちが取引するような輩じゃないんだよ、こいつは。それがアーヴィングと接触してるってのは見過ごせるもんじゃない>
「じゃあ、これって……」
「おそらく写真を撮られた事に気付いて消しにかかったのだろう」
「じょっ冗談じゃないわ! こんな理不尽な事で殺されてたまるもんですかっ」
マーガレットは声を張り上げた。
「幸運ではないか」
「え?」
「スクープだろう。希望通り私の戦い方も見られるかもしれん」
口の端をつり上げて言い放った。
「嫌な人ね! 私の不幸を笑ってるんでしょう!?」
それには応えずクックッと喉の奥で笑う。
「ぐ……この~」
ぐうの音も出ない。
<まあまあ>
なだめるように割って入り安心させる言葉を投げる。
<アーヴィングの次をベリルにした事はあんたの幸運だったよ>
「え?」
<でなきゃ今頃、死んでたかもしれない>
ベリルの勘の良さには定評がある……彼がそう言うと運転しているベリルを見つめた。
「……」
『素晴らしき傭兵』
私がいま生きてるのはその片鱗……?





