*暗雲
買った商品はバッグに詰め、たすき掛けにして車に向かう。
「両手を塞がない対策ね」
「!……?」
前方のビルの屋上に反射するものが目に入り彼女の腕を掴むとグイと引き寄せた。
「え?」
驚いた彼女がベリルに顔を向けた瞬間──
「!」
壁に何か小さな塊が勢いよくぶつかったような音がすぐそばで聞こえて振り返る。
「走れ」
冷静に発して彼女の背中を叩く。
「な、なんなの?」
車まで走るその間にも銃弾は2人めがけて放たれていた。その銃弾がベリルのピックアップトラックの窓に当たって甲高い音が響く。
「防弾ガラス……」
「早く乗れ」
エンジンを始動させアクセルを踏み込んだ。
しばらく走らせて落ち着いた処でベリルが小さく溜息を吐き出しマーガレットを一瞥する。
「何をした」
「私!?」
てっきり狙われているのはベリルだと思っていた女性は問いかけられて当惑した。
「お前を狙っていた」
「……」
思ってもいない言葉に頭が真っ白になる。
「思い出せ。何をした」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
自分の置かれた立場に困惑し、落ち着かせようと頭を無造作にかきだす。
「酒でも飲むと良い」
「そう、そうね。そうさせてもらうわ」
渡されたバッグから震えた手でブランデーの瓶を取りだし蓋を開けグイとラッパ飲み。
「私がどうして狙われるのよ」
なんとか落ち着いて口を開いた。
「それは私も知りたい処だ」
おもむろに携帯を取り出し車の前方に差し込む。
「?」
こんなアイテム売ってるの? マーガレットは不思議そうにそれを眺めた。
ボタンをいくつか押すと、どこからともなく呼び鈴の音が響きマーガレットは驚いて車の中を見回した。
<ベリルか。どうした>
20前後と思われる男の声が車内に響き渡る。
「ルカ、ちょっと調べてもらいたい事がある」
「え? え? スピーカー?」
<女連れか。ああ、もしかしてマーガレット?>
「そっちにも広まっているのか……」
<一体どうした>
「どうやら狙われてるようでね」
<お前ならいつもの事だろ>
「私ではない」
<なんだ? その女がか? お嬢さん、どこかの傭兵に恨まれでもしたかい?>
「冗談じゃないわ」
「だが現に狙われている」
<で、何を調べるんだ?>
「まだ明確ではないが相手は複数いるようだ」
<! 1人じゃない? 解った。怪しい動きの奴を探してみよう>
「頼む」
携帯を抜きバックポケットに仕舞った。そして未だ当惑している彼女にチラリと視線を向けたあと発する。
「さて何故、狙われるのか。じっくりと考えていこうではないか」
「そんなのわかんないわよ~」
酒瓶片手に頭を抱える。
「私はただ傭兵たちの戦いを見て話を聞いて、写真を撮ってただけよ」
「写真?」
眉をひそめた。
「今あるか」
「ええ、ここにあるわよ」
持っていたバックパックからケースを取り出す。
「最近のものを出せ」
「それならこれね」
SDカードを取り出すと小さなレストランのパーキングに車を駐め、そのカードを受け取った。ダッシュボードとハンドルの間にあるボタンを押すとカーナビの画面がスライドし、画面の下にあるくぼみにカードを差し入れる。すると画面に画像が現れた。
「ワオ! これ凄いわね」