*観察
とにかくこのままでは仕事にありつけない……ベリルは思案していた。目の前で唸っているこの女を、どうにかしなくては。
2人はそれぞれお互いが牽制し合っていた。どちらも相容れない思惑である以上、歩み寄りなど到底無理である。
「2杯目よ、コーヒー好きなの?」
再びコーヒーを注文した彼に口を開いた。
「お前のおかげでする事がなくてね」
「……」
無表情に嫌味を込めた物言いの彼を数秒見つめる。
「じゃあ私はオレンジジュース」
「……」
嫌味もスルーしおったか……喉の奥で舌打ちした。
「ね、あなたの愛用してるハンドガンってどんなの?」
「!」
本当にめげない女性だと半ば感心した。
「P226だ」
「スイス製ね」
眉をひそめている彼に気付いて発する。
「大丈夫よ、メモったりしないから」
「なら良いが。!」
バックポケットの携帯が振動して通話ボタンを押した。
「なんだ」
<お前、傭兵マニアにタゲられたって?>
傭兵仲間のマイクだ。
「うむ……」
もう広まっている……
<適当に軽い仕事すりゃ離れてくれるからよ。そういう仕事探してやろうか?>
それを聞いて、表情が明るくなる。
「軽い仕事なら満足しませんから」
表情で気づかれたのかマーカセレットがオレンジジュースを傾けながらしれっと応えた。
「……」
<おーい。どうした?>
「軽い仕事は満足しないそうだ」
<なんだって? そりゃ頑張れよ>
携帯を切って片肘を突きカップに口を付けた。
「いつまでくっついてるつもりかね」
「あなたの戦いが見られるまで」
「それは望めない状況下だ」
「中には物好きがいるわよ」
それまで仕事をせずにいろというのか……なんという勝手な奴なのだ。ここまで傍若無人な人間に出会ったのは初めてだ。
仕方なく溜息混じりにコーヒーを飲み干して立ち上がった。こんな処にいても仕方がないと、とりあえず車を走らせる事にした。
もちろん彼女がそれをただ見ているハズもなく、ベリルの後ろをちゃっかりとついてきている。
「本当についてくる気か」
「当然でしょ」
言い切った彼女に目を据わらせて、その端正な顔を近づけた。
「!」
エメラルドの瞳に一瞬、体を強ばらせる。
「ならば襲われたとしても苦情は受付けない」
「それでもいいわよ」
「……」
「どうしたの? ドライブするんでしょ」
返ってきた言葉に唖然とするベリルを通り越して振り返って発した。
目的もなく走り続けるかもしれないと考え、店に寄って食料を多めに仕入れる事にした。
「!」
ついでに自分も買おうと商品を手に店内をうろうろしていると、前にカゴが現れ眉をひそめる。
「必要なものなのだろう」
「! 買ってくれるの?」
やっぱり優しい人なのね! と、嬉しそうにカゴに商品を入れた。
「飲酒運転?」
ブランデーを手にしたベリルに口の端をつり上げる。
「運転中は飲まんよ」
「だったらいいけど」