*命がけ
長い沈黙が続き互いに睨み合う。
「……」
ガキじゃあるまいしバカバカしい……ベリルはカフェ・ラテを傾けて小さく溜息を吐き出した。
「覚悟は出来てるのだろうな」
「当り前よ。覚悟が無くて密着なんて出来ますか」
なるほど命がけのマニアか……当然のように肩をすくめて言い放つ彼女に感心した。
「戦う男が好きなのよ」
さらに目を輝かせて続ける。
「ならば正規兵か警察関係者でも構わんだろう」
「初めはそうしてたのよ。でも刺激が足りなくてさ~」
「……」
呆れる彼をよそに照れ笑いを浮かべて続けた。
「なんていうのかな~フリーの傭兵たちって自分の命より依頼の遂行を優先するでしょう? それだけ重要なものを受けたんだっていう認識してるのよね。自らが受けた依頼を信じてさ」
「それはそうだが」
「だからって自分の命を粗末に扱う事はしないでしょ。上手く言えないんだけど雰囲気に呑まれちゃうのよ」
「失敗すれば名を落とす事になる。正規兵とは違い大きなリスクも背負っている。それを……」
「そうなのよ! リスクを背負った姿……ああっ、ステキ」
「……」
これはだめだな……溜息を吐いて頭を振る。
「ね、あなたっていま何歳なの?」
「60ほどだろう」
「!? 本当?」
「嘘ではないよ」
「不死になったのっていつ?」
少し身を乗り出した。
「25で35年前か」
「どうして不死になったの?」
「長くなるから話してやらん」
「ケチ」
言い放たれて頬を膨らませる。
「ホントに教えてくれないの?」
「知った処で何になる」
そう言われてしまえばそうだけど……知りたいじゃない。
しばらく見つめていたが本当に言うつもりが無いらしく諦めて別の話題を振った。
「裏の世界では『公然の秘密』になってるけど、表の世界に知れたら大変な事になるわね」
「それは私だけはないよ」
肩をすくめる。
「他にも不死がいるってこと?」
「そうではない。人類の歴史にあるべき存在でない部分だ」
「ああ。そういうのって『ミッシング・ジェム』って言うんでしょ?」
直訳すれば『失われた宝石』だが、要約すれば『人類の歴史の中に埋もれた稀少な存在』という意味である。
「あなたには色んな名前が付いてるのね。『悪魔のベリル』『すばらしき傭兵』『死なない死人』『クラウ・ソラス』……」
「どれも気に入らんがね」
呆れたようにカフェ・ラテを口に含む。
ようやくまともに話をしてくれた彼に嬉しくなってさらに体を乗り出した。
「あなたの事を聞くと、みんな素晴らしい傭兵だと答えるわ」
「おだててもお前の希望には従わん」
カップごしに目を据わらせて言い放つ。
「チッ……」
思ったより強情ね。もっとすんなり諦めると思ったのに……小さく舌打ちした。
「……」
見た目がクールなだけに対応もクールだわ……などと考えながら、優雅にカップを傾ける様子をじっくりと眺める。
今まで出会ったどの傭兵とも違う雰囲気。あり得ない存在だからなのか元々、彼が持っている存在感からなのか……初めての相手にどう動くべきなのか考えあぐねていた。
でも今まで出会った誰よりも魅力的だわ。どんな戦い方をするんだろう……彼の戦いが見たくて仕方がなかった。大集団の戦闘指揮もこなせる技量を持っていると聞けば、どうあっても見たいと思う。
いっそ私が何か依頼しようかしら……でもそんな依頼見つからないわ。
「……」
唸り続けている彼女を見やり怪訝な表情を浮かべた。