*その上をいく者
ゆらりと立ち上がり男を静かに見つめるその瞳に憂いを湛える。
「もう……以前のお前には戻らないのだな」
「無理だな」
「処で」
鼻で笑った男から視線を外し、話を切り替えるように口を開いた。
「私に女性の対処をさせると聞いたが本当なのかね」
「そんな事が気になるのか?」
「苦手なのだ」
当惑しているベリルに口の端を吊り上げて応える。
「心配するなよ。いつも通りにしていれば勝手に向こうから惚れてくれる」
「! ほう?」
マーガレットに訪ねるような顔を向けると彼女は肩をすくめた。
「限界だ。返事は?」
アーヴィングは女の首に刃を軽く当てる。
「……っ」
マーガレットは恐怖に顔を少し上げた。その様子を一瞥しベリルは左手の人差し指をつい……と立てる。
「あと一つ」
「なんだ」
「持ち物を全て処分したと言ったが……」
一度、目を閉じて次に開いたその瞳は男を見据えてゆっくりと自分の腹部を指し示した。
「この中の物もかね?」
「! なんだと!?」
刹那──地面が大きく揺れる。
「何だ!?」
「!?」
マーガレットはすかさず驚くアーヴィングの足を蹴り飛ばし、ベリルの檻に駆け寄った。
「……」
ベリルの顔を見つめ微かに聞こえてくる多くの足音に、この施設が安全でなくなったことを悟り薄笑いを浮かべるベリルを凝視した。
「まさか……飲み込んでいたというのか」
普通なら死んでいる。ベリルだから出来た事なのだ。
「さて訪ねよう。死か罪を償うか」
「……」
しばらくの沈黙のあと、男は喉の奥から絞り出したような笑みをこぼし銃口をマーガレットに向けた。
「!?」
「その女も道連れだ」
「まだ罪を負うつもりか」
「う……っ」
冷たいエメラルドの瞳に恐怖で硬直し、引鉄を引く事が出来ない。
「お、ベリル」
そうこうしている間にカーティスが他の仲間と共に部屋に入ってきて、微かに震えているアーヴィングの手から銃を奪い他の仲間に引き渡す。
「お前、睨んだだろ。震えてたぞ」
「風邪でも引いたのだろう」
檻の扉が開かれて出てきたベリルは薄笑いを浮かべた。
「お嬢さんも一緒に連れて行かれるのは予定外だったなぁ。なんで思いつかなかったんだろう?」
「彼女については数々の私怨があったためだろう」
手錠を外してもらっている彼女を見つめて首をかしげるカーティスにベリルはしれって応える。
「! ああ。なるほど」
聞いたカーティスは納得したように手を打った。
「ちょっと! それどういう意味よ!」
しっかりと聞こえていたマーガレットは高笑いで逃げるカーティスを追いかけた。
「ありがとう」
「!」
一通り落ち着いた処でベリルにぼそりとつぶやく。
「あなたのおかげで自分の間違いに気付いたわ」
「そうか」
柔らかな笑顔でそう返した彼の横顔を見つめる。
『特別な事をしなくても女は惚れる』
アーヴィングの言葉は確かにそうだと思った。
「?」
彼が何故か困惑した表情を浮かべていることに気がつく。
「誘惑するつもりならもっと派手にすると良い」
「え?」
ドキっとして胸元を見るが、はだけていない……そんな彼女にベリルは無言で自分の右脇腹を示した。
「……?」
示された場所に目を移すと、服が大きく裂けてブラジャーが丸見えだった。
「!? きゃああぁぁぁー!」
「あっはっはっはっ」
叫ぶマーガレットに大笑いした。