*怒り
そうして施設に入り、マーガレットは後ろ手に手錠をかけられて合金製の檻の前に立たされる。檻の中にはまだ目を覚まさないベリルが寝転がっていた。
「眠ってるフリはやめろ」
アーヴィングが言い放つと、目をぱちりと開いてゆっくり立ち上がった。
「!」
マーガレットの首にナイフを近づける男に動きを止める。
「いいの、何も言わないで。あなたはこの男の言いなりになっちゃダメ」
彼女は震えた声で吐き捨てるように発した。
「ククク……勇敢なお嬢さんだ」
「あうっ!?」
笑いながら彼女の腕に刃を走らせる。
「! よせ!」
「返事は?」
「……」
苦い表情を浮かべる彼に口の端を吊りあげ男は問いかけた。灰色に統べられた広い部屋に違和感なく設けられた鉄格子の内側で黄金に飾られたエメラルドが憎らしげに男を見つめる。
「だ……ダメよ」
「しばらく……時間をもらいたい」
「心の準備が必要か。いいだろう」
目を伏せるベリルを見て彼女を突き放すと崩れるように倒れ込んだ。
「大丈夫か」
しゃがみ込み眉をひそめる彼女に声をかける。
「こ、これくらい平気よ」
マーガレットはにこりと笑い、瞳を曇らせた彼に少し目を吊り上げた。
「言っときますけどね、私はあなただけのために頑張ってるワケじゃないですからね。あなたがあいつの言いなりになったら悲しむ人が増えるから頑張ってるのよ」
そんな彼女にベリルは小さく笑った。そこに包帯が投げられる。
「手当てくらいはさせてやる」
「……」
ベリルはゆっくり包帯を手にしマーガレットの腕の傷に巻いてやる。手当てさせる事で彼の情を強めるつもりだ。
「あいつ、人を平気で殺せるって言ったのよ。信じられないでしょ」
「うむ」
「あなたに女をたらし込ませる気よ」
「! ほう」
感心するような声を上げた彼を一瞥して溜息を吐きながら檻にもたれかかる。
「正直、それには納得したけど」
「そうなのか」
表情の解らない返答を聞いたあと、こちらを見ているアーヴィングをギロリと睨み付けた。
「嫌な奴ね……人の話ニヤけた顔で聞いてるわ」
「あまり悪口を言うと撃たれるぞ」
「時間を稼いで仲間が助けに来るのを待つつもりなら無駄だ。お前たちの持っていたものは全て処分した」
「私の大切な画像もよ。信じられないわ」
「適切な判断だ」
「ひど!」
「さて、決まったか?」
コーヒーを飲み終えたアーヴィングが立ち上がりマーガレットをグイと引き寄せて立たせた。
「……」
「まだ待てと言うなら女の腕を切り落とす」
「! それって酷くない!?」
「嫌なら奴を説得しろ」
男は女の首に刃を向けてベリルを見据えた。彼はそんな男に深い溜息を吐き出す。
「仲間が敵になるのは悲しい事だ。私に語ってくれたお前の信念はどこに行ったのだ」
「ハッ! そんなもので何が手に入る。傷ついてボロボロになって手にするのは、はした金だ」
肩をすくめて薄笑いを浮かべ発した男に、ベリルは鋭い眼差しを向けた。