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マニア・タイフーン  作者: 河野 る宇
◆第6章~本気
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*捕まりました

 ようやく気付いたか……ハンドガンを握りしめる彼女の表情にベリルは目を細め小さく溜息を吐く。

 そしてカーティスと別れて車を走らせていると携帯が鳴った。相手はもちろん……

<決まったか>

「うむ」

 数秒の沈黙のあと口を開く。

「もうしばらく考えさせてはくれないだろうか」

<そうか。いつまでもそんな態度でいられると思うな>

 しれっと応えた彼の言葉に強い反応を示さず、男は低く発して通話を切った。

「あんた……四六時中そんな態度なワケ?」

 彼女は眉間にしわを寄せて薄笑いを浮かべている彼を見つめる。

「相手にこちらの不利を伝える意味もなかろう」

 捕まるまでは余裕を見せておきたい……と付け加えた。

「……」

 こうなる前からそうなんだけど、と彼女はその言葉を飲み込む。

「!」

 そうこうしているとマーガレットの耳にヘリの音が近づいてくるのが聞こえた。

 攻撃に当るって言ってたけど、この車そう簡単に壊れないわよね……どうするんだろう。

「そろそろかな」

 ベリルがそう言った刹那──

「きゃあっ!?」

 タイヤを撃たれた!? これはわざとなのっ? 偶然なのっ? 焦りながら彼の方を向くとウインクをした。どうやらわざとのようだ。

 車は派手に横転して止まるその上空をヘリが旋回していた。

「大丈夫か」

「な、なんとか……」

 ひっくり返った車からはいずりながら抜けだし、痛む体を押さえてベリルに目を向ける彼女の目に飛込んできたのは、ヘリのマシンガンに胸を貫かれたベリルの姿──

「ベリルー!」

 叫んだ彼女にマシンガンを威嚇射撃が浴びせられた。

「ぐ……っ」

 片膝をついて胸を押さえた彼の口元から少しの血が流れる。黒い車が横転したベリルの車の近くで止まり男が出てきた。

「どうした。もう終わりか?」

「……アーヴィング」

 男を見上げて苦い顔をしたベリルを冷たく見下ろし、一緒に来た他の男たちに手を挙げて指示すると、男2人はマーガレットに歩み寄った。

「! よせ」

「まだお前の了解を取っていないのでな」

 彼女まで連れて行かれるのは予定外だ──いや、あって当然のことだった。その事を見落としていたのだ。

「……」

 ベリルは唇を噛みしめ、麻酔銃を突きつけているアーヴィングを睨み付けた。

「っ!」

 麻酔銃から鈍い音が響き彼の胸に麻酔針が突き刺さる。

 痛みを示す表情からしばらくすると眠気に襲われはじめ、ゆっくりと地面に体を横たえた。完全に眠ったことを確認し男はベリルを抱えて乗ってきた車に向かう。

「どうしてそこまで彼に執着するの?」

 対面式のシートの向かいに手錠をかけられて座っているマーガレットがアーヴィングを睨みながら訪ねた。

 男は、自分の隣で意識のないベリルを一瞥する。

「誰でも倒れない部下は欲しがるものさ」

「だからってこんなやり方……」

「お前には解らん。こいつの能力はな」

 言いながらベリルに再び麻酔を注射し肩をすくめた。

「女をたらし込むのにもこの容姿なら十分だ」

「!」

 そこはまあ納得するけど……って、違う違う! と彼女は頭を数回振った。

「彼があなたの言うコトなんて聞くのかしら」

「こいつの唯一の弱点は優しさだ。目の前で人が傷つけば自分が傷つく以上に苦しむ」

「苦しまない人間がいる方がおかしいのよ」

「俺は平気だがね」

「……なんて人なの」

「人のために犠牲になるなどバカらしくなったのさ。俺は自分のために生きる」

「あなたはかつては素晴らしい傭兵だったとベリルは言ってたわ。なのに……」

 少しふるえた声で発し怒りを真正面からぶつけた。

「自分の力を自分のために使って何が悪い」

 40歳を越えたアーヴィングは金に心を奪われた……

『もっと金を!』

 そのためにベリルを利用するつもりなのだ。

「……」

 そんな事のために彼を利用していいワケが無い。彼を助けたい。でも……一番それを邪魔してるのは私なんだ。

 しばらく走っていた車は、ゆっくりと何かの施設に入っていった。

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