*仕方ない
<言っておくが捕捉しているのはお前の仲間だけじゃないんだぞ>
「だろうね」
男の声に目を据わらせる。
仲間だけではない──マーガレットの行動までも捉えているという脅しだ。そうする事で彼女とベリルが離れられないように仕組み、彼の動きを制限した。
<この通話から俺の居場所を追跡しようとしても無駄だ>
「そんなつもりは無い」
<しばらく時間をやろう。いい返事を待っている>
ベリルの反応を待たず通話は切られた。
「てことは、あの住処にはいないってことか」
「そうらしい」
「ご指名を受けた気分は?」
発したカーティスに肩をすくめる。
「さてと、これでこちらから攻撃を仕掛ける口実が出来た訳だ」
「どういう意味?」
彼女はカーティスの言葉に首をかしげた。
「条件付きではあるが殺人を予告してきた」
「敵が特定出来ていない時点で予想を立てて攻撃するのはさすがにキツいんでね。堂々と言って来た相手ならこちらもそれに対応出来る」
笑みをこぼしたあと、鋭い眼差しに代わる。
「騙し続けてきた報いは受けてもらう。傭兵対武器商人の戦いだ」
「!」
戦い……凄い戦いが見られるんだわ……マーガレットは身震いした。
「とりあえず捕まってくれな」
「彼女を頼む」
「え?」
今のはどういう意味?
「大丈夫。俺たちがちゃんとサポートするから」
安心させるようにマーガレットに笑顔を振りまくが、一体これから何が行われるというのだろう。
「奴を捕えるにはまず私が捕らわれなければならん」
「ええっ!?」
「奴を油断させるためにね」
アーヴィングを捕える最良の作戦はベリルが奴に捕まること……
「つ、捕まるって……どうするの?」
「決まってるだろ。奴らの攻撃に当たればいい」
カーティスの言葉に開いた口がふさがらない。
「私はどうなるのよ!?」
「極力、怪我のないように考慮しよう」
「……極力? それって少しは怪我するってことよね」
「無傷だったら怪しまれるだろ」と、カーティス。
「信じられない……」
この人たち無関係の人間にまで犠牲を強いるワケ?
この期に及んでまだ自分を「無関係」と言える彼女の根性に乾杯したい気分である。
「諦めろ」
しれっと応えたベリルを睨み付けていると、バッグから何かを取り出しこちらに差し出した。
「防弾ベスト?」
「爆発にも多少使える。ただし、痛がるフリはしてもらいたい」
多分そんなことしなくても普通に痛がって動けないと思うわ……ベストを受け取って彼を見つめる。
「! あなたも着るの?」
ベストを着用したベリルに怪訝な表情を浮かべた。
「怪しまれないようにね」
「へえ……」
細かい部分にまでこだわるのね。それくらい相手が手強いってことか……私が会っていたアーヴィングは演技をしていたのね。
そう思うとなんだか悲しくなってきた。みんな私とは正面きって会話をしてくれていなかったのかもしれない……記憶にあるのは面倒そうな顔をする傭兵たちの表情。
適当にあしらわれて、それで満足して他の傭兵へ──
「……」
でも、彼は違った……ずっと私に真正面から会話してくれていた。私はバカだったんだ。
マーガレットはベリルを見つめて少し切なげに瞳を潤ませた。





