停止の過去
自由の利かない自分に突然やってきた自由。
生きる術も何もかも、少年の下で学んできた。
正体不明の身でありながら、次々に開花していく彼女の才能は私利私欲の塊の人間にとっては狙いどころだった。
そんな彼女は、生涯少年を追い続けると心に決め、生きてきたのであった。
―――わたしも行きたい
「一緒には無理だ。俺みたいな人間は繋がりを持ってはいけない」
―――どうして
「いつどこで死ぬか分からないからな」
―――そんなの、みんな同じ
「追うのは自由だ」
そんなキザなことを言う存在に惚れてしまったのはいつだろう。
答えを探して、想い出を掘り返していく。
彼に出会う前、とても暗く先が見えない場所に私はいた。
過去の記憶がない私はどうしてそこにいたのか分からない。
動くことも出来ない当時の私に、ただ一つだけ出来たのは音を感知することだった。
"アレ" "N-380" "成功作"
それが私の呼び方だった。
名前をつけたのも誰か知らないし、何人の人がそこにいたかも分からない。
長い眠りから覚まされた私が初めて見た世界は、赤黒く染まった何かの破片やコードが床へと飛散していた。
彼と私だけが生きている空間だった。
『自由に生きな』
初めて自分に向けられた言葉。
『あなたは、自由なの』
初めて誰かに返した言葉。
『決められた範囲では自由だ』
今ようやく理解できるそのときの彼の言葉。
『自由に生きてもいいなら、
わたしも行きたい』
どうしてああ言ったのかは分からない。
けれどそれを後悔をすることもなく彼を追いかける旅は続いてきた。
彼の名は蒼といった。
時には大蛇を、時には幾千人もの兵たちを相手にしたりした。
そうするうちに戦う術を覚え、自身の才能をたくさん開花させていった。
止まった時間は蒼によって動かされ始めた。
そこまで考えて、やはり答えが出そうにないのであきらめる。
鳥の鳴き声が聞こえ始め、早朝を告げる。
扉を開ける以前からすでに明るい日差しが中へと差し込んでいた。
私は蒼のため自らのためにと、この間狩った熊の毛皮や猪の肉を袋に詰め、街へと情報収集へ向かい始めた。
最近では街から離れた廃家に身を固めている。
どうやらこの周辺は怪しいらしい。
以前より刺客が増え、気の抜けない毎日を過ごす中、それでも蒼は居場所を変えようとしない。
たとえ廃家が消えても森で暮らし始めることになりそうなほど、あの場所に執着している。
近くの街へも、こうして長期に渡って通いつめている。
街に着くと荷を減らすため、まず店へ足を運んだ。
食料品売り場に着くと世間話をする。食品売り場の店主は口が軽い。
しかし期待は出来ない。
というのも、いい情報も何もかも全てを話されるのでどれがいい情報なのかが判断できない。
今日もまた猪の肉を換金し、熊の毛皮を持ちそのまま防具武具の専門店へ向かう。
そこの店主は仕入れに関しては饒舌だが、客の個人情報のこととなるとなかなか口を割らない。
しかし信用を得さえ出来れば、とても心強い。
短編ものです。
別作の「旅の末路」のリンク小説となっております。
なるべく感情的なものに仕上げたかったのでこちらは心情などをメインに執筆致しました。
あまり台詞を入れないものばかり書いていたので会話にとても違和感を感じてしまいます。
少々ベタ過ぎますが、一途に想い続ける女性をテーマにしています。
よろしければ物語の終わりまで、お付き合い頂ければ幸いです。