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あなたが私を婚約破棄することは絶対に不可能です

掲載日:2026/05/02

「リオナ・プルフ、お前との婚約を破棄する! なにしろお前は絶対に俺の思い通りにならんからな!」


 夜会の最中、侯爵令息グラド・ジールドが、伯爵令嬢リオナに宣言した。

 周囲の参加者はシーンと静まり返り、状況をただ見守るのみ。

 しかし、リオナは煌びやかな長い金髪をかき上げ、こう言い返した。


「あなたが私を婚約破棄することは絶対に不可能です」


「……ッ!? どういう意味だ!」


 グラドは顔をしかめる。

 リオナはあざけるような笑みを浮かべる。


「あなたは今、私が“絶対思い通りにならないから”婚約破棄する、そうおっしゃいましたね」


「……ああ」


「では、私がここで『はい』と婚約破棄を了承したとしましょう。その場合、私はあなたの思い通りになったことになるので、婚約破棄することができなくなります」


「な……!?」


 グラドが目を見開く。


「それでは、私が婚約破棄を受け入れなかったらどうなるか? その場合、私は“あなたが思う通りの思い通りにならない女”ということになる。つまり、あなたの思い通りになっている。とするなら、やっぱり婚約破棄はできないのです」


「ぐ、ぐぐ……!」


 グラドは歯を食いしばる。

 近くにいたアディンという金髪の若者がうなずく。


「見事だ……。婚約破棄を見事な理屈で切り返した!」


 リオナはグラドに詰め寄る。


「さあ、どうしましょうか? グラド様……」


 グラドは頭を抱える。


「グ、グガガ……こんな、ハズでは……! 俺……ワタシは、どうスレバ……!」


 アディンが首を傾げる。


「なんだか様子がおかしいぞ……」


 一方、リオナは鋭い眼差しになる。


「所詮は兵器。こういった計算違い(エラー)には弱いようね」


「グ、グググ……!」


「いいことを教えてあげるわ。私を婚約破棄する唯一の方法は、私を殺すことよ!」


 すると、グラドの碧眼が黄色く光った。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


 ハンサムな貴族令息だったグラドの肉体が変形していく。

 体全体が巨大化し、金属化し、人工的で機械的な容姿になっていく。

 まもなく変形が完了する。

 その姿はまさに鉄巨人ゴーレムそのものだった。

 アディンは驚愕する。


「これはいったい……!? グラド・ジールドが……変身した!?」


「これが彼の正体よ。彼は侯爵令息グラド・ジールドなどではなく、本当の名は悲しき古代兵器『グラジール』!」


「な、なんだって!?」


「人に擬態し、絶望を喰い、成長する兵器。これまでに幾人もの女性を婚約破棄して、その絶望を吸収して成長してきた。もう少し成長していれば、この王国を滅ぼせるレベルになっていたでしょうね」


「なんてことだ……。しかし、“悲しき”というのは……?」


「彼自体はインプットされた命令に従っているだけ。おそらく悪しき古代人に開発され、『人類を滅亡させよ』のような命令をされたまま、封印されたのね。だけど、なにかの拍子に目覚めてしまい、侯爵令息グラド・ジールドとして生き、婚約破棄を繰り返して絶望を吸ってきたの」


「そうだったのか……」


「それよりあなた、ここは戦場になる。手が空いているなら、みんなを避難させてちょうだい」


「……分かった!」


 アディンは夜会出席者の避難誘導に移る。

 リオナはグラジールを見据える。


「現存するどのゴーレムよりも強力ね」


「当然ダ……。ワタシはグラジール。人類を滅亡させるために生まれた兵器! 正体は見破られたが、キサマを殺し、婚約破棄をして、その絶望を吸収してくれよウ!」


 グラジールのショルダータックル。

 鋼鉄製の巨象が競走馬の速度で体当たりをするような一撃だった。

 リオナはまともに喰らってしまい、夜会会場の壁に叩きつけられる。


「まだまだこれからだゾ!」


 グラジールの両のアームが唸る。

 秒間およそ百連発のパンチの嵐が襲う。

 普通の人間ならば、とっくにミンチになっているだろう。

 ところが――


「ふんっ!!!」


 リオナが気合いを発すると、パンチを繰り出していたグラジールが吹き飛んだ。


「……!?」


「こんなものではないでしょう。見せなさい、あなたの真の力を」


 グラジールが構え直す。


「いいだろウ……見せてやル!」


 グラジールの目が黄色から赤に変わる。ここからが全力だ。

 右拳を射出し、ロケットパンチを放つ。

 リオナを直撃する。


「……ぐっ!」


 さらに両肩が盛り上がり、砲口となる。


「発射ァ!!!」


 ミサイルが飛び出し、リオナに着弾――爆発が起こる。

 観戦していたアディンが青ざめる。


「なんて威力だ……!」


「トドメダ……」


 グラジールが腹部から光線を放つ。

 瞬く間にリオナを呑み込み、会場の一角を大破させるほどの大爆発が巻き起こった。


「リオナーッ!!!」


 アディンが叫ぶ。

 同時にグラジールが高笑いする。


「フハハハハッ! 木っ端微塵ダ! ワタシの勝ちダ!」


 爆炎を背に、グラジールは夜会会場を立ち去ろうとする。

 が、煙の中から声が響いた。


「いい攻撃だったわ……」


「ナ!?」


「あなたがもう少し絶望を吸収していたら、あなたの勝ちだったかもしれないわね」


 リオナが現れた。

 ドレスはボロボロ、自慢の金髪もボサボサだが、十分動けるようだ。

 対するグラジールは震えている。


「兵器であるはずのワタシガ……? 恐怖……ワタシは恐怖しているのカ!」


 一歩一歩リオナが近づく。


「今の攻撃に敬意を表して、最後は婚約者として全力であなたを葬るわ」


 グラジールも自身の恐怖を振り切る。


「ふン……婚約破棄してやるゾ、リオナ!」


 最後の激突――両者の動きが止まった時、リオナの拳はグラジールの胸部を貫いていた。


「ガ、ハ……!」


 グラジールの全身が煙を噴き、バチバチと音を立てる。


「最後に言い残すことはあって?」


「マ、マスター……ワタシは……役目を果たせませんでし、タ……」


「よくできました。じゃあさようなら、我が婚約者グラド・ジールド」


 最期はあえて侯爵令息として扱う。

 リオナが拳を引き抜くと同時に、グラジールは爆発を起こし、粉々になった。

 ところどころにネジや破片、オイルなどが飛び散る。


「ざまぁ。と言っておくわ」


 リオナはカーテシーを披露する。

 その表情はどこか哀しみを帯びており、これは彼女なりの敬礼だったのかもしれない。


 リオナが振り返ると、そこにはアディンがいた。


「夜会に出ていた者は避難させたから、全員無事だ」


「お見事ね。正直、何人かは巻き添えにしてしまうかもと思っていたわ」


 リオナはアディンの速やかな対応に感心する。


「僕も少しは名の知れた存在だからね」


「というと?」


「名乗らせていただこう。僕は王国第一王子アディン・アインスだ」


「まあ……!」


 王子ならば、緊急時のリーダーシップにも優れているだろうとリオナは納得する。


「ただし、ただ自己紹介するためだけに名乗ったわけじゃない」


 リオナがきょとんとしていると、アディンはその前で跪いた。


「君に惚れた。我が国の平和を脅かす兵器を倒し、あまつさえその兵器に礼を尽くすその姿に、すっかり心を奪われてしまった。リオナ・プルフ、どうかこの僕と結婚して欲しい!」


 まっすぐな言葉に、リオナの強靭な心も大きく動かされた。


(なんて熱いプロポーズなの……。胸が高鳴っている。どうやら、私がこの求婚を断ることは不可能なようね)






おわり

お読み下さいましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
なるほどパラドックス…… ↓ ……古代兵器……!? ↓ 何……だと…… ↓ ハッピーエンドォォォッッッ! 予想だにしない展開に翻弄されっぱなしでしたw
最初と終わりはいつもの展開なのに、途中が巨神兵対人間兵器( Д ) ゜゜ポーン 夜会会場の持ち主のその後の片付け修理が大変では、とか王子正気か?とか、グラドの親である侯爵のその後が気になりすぎます。怪…
「なんだなんだ!?」と驚き急いでジャンルを確認したらコメディだった件(≧▽≦) イセコイじゃないんかいっ!? 侯爵さんにどうやって取り入ったんだろうなあ、グラド。 逆に侯爵さんが国家転覆でも企んでい…
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