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初めまして

「なんでこんな処に居るんだ?」

榊翔也(さかきしょうや)がそう声を掛けたのは、大雨が降る中、神那岐橋(かんなぎばし)の袂に座り込んでいた転校生を見掛けたからだった。





『同じ学年に美少女が転校して来る』

それだけ聞けば、同じクラスになりたいと誰もが思うだろう。

翔也のクラスメイトもそうだった。

翔也の学年は5クラスあるため、確率は五分の一。

しかし、翔也のクラスに転校生は来なかったが、隣のクラスになることは出来た。

翔也のクラスは階段の1つ隣。

つまり、階段の隣か階段の2つ隣のクラスに転校生が来れば、隣のクラスになることが出来るのである。

そして、転校生のクラスは、階段の隣にある教室になった。

同じクラス、隣の席では無いにしても、一部の男子、女子からみれば羨ましい状況だろう。

けれど、翔也は、彼女と話すつもりも仲良くするつもりも無かった。

関われば、彼女を好きになった男子達からの反感が凄いだろうし、話し掛けるだけで仲良くなれるのであれば、世の中誰も苦労しない。

翔也にとって彼女は、魅力的だが、眺めているのが一番良い美少女と言う認識だ。

なので、傘を差さず、雨の中途方に暮れている名前を知らない同級生の女子が曰く付きの橋の袂に座り込んでいることに対して不審な目を向けてしまうのは仕方無いと言えるだろう。

制服姿で雨に濡れるのは下手をすれば、あっという間に風邪を引いて仕舞いかねない状態で、家に帰ろうとしていないのだから、他人が口を出すものでは無い。

そう考えて橋を通り過ぎようとした時、転校生の顔が泣きそうに歪んで見えた感じかして、翔也はどうすれば良いのか迷ってしまった。

転校生と関わりたいと言う動機を持ち合わせてはいないが、ああいう表情をしている人を放っておくのは、良心が痛む。

「なんで、こんな処に居るんだ?」

別に、大した意味は無い、そう言う意味を込めて素っ気なく声をかけるとその声に警戒心を滲ませた転校生がこちらを向く。

今まで話しかけられたことの無い人間からの声かけに警戒しているのだろう。

「榊さん、何かご用ですか?」

と転校生が言う。

名前を覚えられていることを少し不思議に思いながらも警戒を緩める気は無いな、と翔也は察した。

「別に用はない。ただ、こんな処に座り込んでたから気になって」

「そうですか。ですが、お気になさらず」

警戒心剥き出しの尖った声では無く、内側に入れる気は毛頭無いと言う様な淡泊な声だった。

ただ、ここでずぶ濡れになった少女が1人で居る、と言うのはかなり居心地が悪いため

「風邪引くし、早く帰りなよ」

とお節介を1つだけした。

「くしゅん」

転校生の前から足早に離れようと背を向けると、小さなくしゃみご聞こえた。

このまま離れて、転校生が風邪を引いてしまうと罪悪感が大きくなりそうな気がした。

「俺の家、来る?」

「え?」

翔也の言葉に警戒心を剥き出しにした声が返ってきた。

「そのままだと風邪引くから、俺の家に来るかって、聞いただけだよ」

その言葉に納得したのか、少しだけ警戒心を緩めた転校生にもう一度

「俺の家、来る?」

と聞くと転校生は小さく頷いて、翔也の隣に並んだ。




「ただいま」

翔也と転校生は、翔也の家に着いたが転校生は家に入ろうとしない。

「入りなよ」

翔也がそう促すと転校生は

「お邪魔します」

と言って家に入る。

だが、警戒心を解いてくれると言う訳では無いと察した翔也は

「体、冷えるから風呂入ってきなよ」

と言ってタオルを渡しながら言うと転校生は頷いて風呂場へと向かう。

転校生が出ていった部屋で翔也は1人、後悔していた。

何故なら、母、姉の友達以外の女性が家に上がることが無かったからだ。

(名前を知らない同級生が家に居て、母さん達が居ないとか、どうすれば良いんだよ)

と悩んでいると部屋のドアが開いて、転校生が入ってきた。

「お風呂、ありがとうございました」

「いや、あのままだと風邪引くところだったし、気にしなくて良いよ」

転校生の言葉にそう返した翔也は

「あっ!」

と何かを思い出した声を出すと

「自己紹介してなかったね」

と言う。

翔也の言葉に転校生も思い出したのかハッとした表情をした。

「俺は、榊翔也。よろしくね」

と翔也が自己紹介をすると

「私は藍川彩芽(あいかわあやめ)です。よろしくお願いします」

と転校生、藍川彩芽が自己紹介をすると

「あの、榊さん」

と彩芽が遠慮がちに翔也に声をかける。

「どうかした?」

と翔也が言うと

「姉が、こちらに来るみたいなんですが、大丈夫ですか?」

と彩芽が言い終えたのとほぼ同じタイミングで呼び鈴が鳴った。

「俺、出るから少し待っててくれる」

と彩芽に言った翔也は、玄関へと足早に向かい、ドアを開ける。

扉の先に立っていたのは、スラリと背の高い男性だった。

「妹、彩芽がここに来てるよね?」

と言った男性に翔也が驚きを隠せないで居るとドアの開く音がしたため、振り返ると彩芽が立っていて、

「姉さん、何してるの?」

と言った。

彩芽の言葉に再び(ふたたび)驚いた翔也は

「あのさ、お兄さんじゃなくて、お姉さんなの?」

と彩芽に聞くと

「はい、兄では無く姉です」

と彩芽が言う。

翔也が男だと思っていた人物は彩芽のことを迎えに来た姉だった。

「あの、入りますか?」

と言った翔也に

「そうだね。上がらせてもらうよ」

と少し考えてから彩芽の姉は言った。

リビングに入り、向かい合って椅子に座ると翔也が口を開く。

「さっきは間違えてしまってすみません」

「大丈夫。いつもの事だから」

翔也の言葉にいつもの事だと言って笑う彩芽の姉だが、目が少しも笑っていなかった。

「僕は、彩芽の姉の鈴音(りんね)です」

と彩芽の姉、鈴音が自己紹介をしたため

「榊翔也です」

と翔也も自己紹介をした。

鈴音は黒紫色の瞳に耳の下で切り揃えられた烏羽色の髪を耳にかけ、しっかりと手入れされた藍色のセットアップスーツを着こなしていて、浅葱色の瞳に紫黒色の腰まである髪、制服をきっちりと着ていて幼い雰囲気のある彩芽とは違い、鈴音は言われない限り男性と見間違う雰囲気がある。

「彩芽、帰るよ」

と鈴音が言うと彩芽は、嫌そうな表情をして

「姉さんの家に帰る。姉さんの家じゃないと帰らない」

と言った。

彩芽の言葉に鈴音が

「父さんに電話して、良いって言われなかったら父さん達の家に帰る。それで良い?」

と言うと彩芽は頷く。

それを見た鈴音は電話をかけるため、部屋を出た。

翔也は彩芽に

「なんで鈴音さんの家に帰りたいんだ?」

と聞くと

「えっとね。父さん達の家から学校の前のバス停までバスで一時間なんだけど、姉さんの家から学校までは歩いて二十分だから、姉さんの家に帰りたかったの」

と彩芽が教えてくれた。

すると

「分かりました」

と言って鈴音が戻ってくる。

「姉さん、どうだった?」

と聞いた彩芽に鈴音は

「帰らなくて良いって」

と言う。

どうやら彩芽の願いが叶った様だった。

嬉しそうにしている彩芽に

「帰るよ」

と彩芽の荷物を持った鈴音が言う。

玄関で靴を履き、外に出るとまだ雨が降っていた。

「藍川さん、また学校で」

「はい、また学校で」

「お邪魔しました」

と言って玄関の前でもう関わることの無い彩芽と鈴音と別れる。

玄関を閉め、二階の自室のベッドに翔也は座る。

美少女転校生と一緒に居たなど、誰に言っても信じてもらえないだろうし、言う程のことでもない。

今日のことは、翔也、彩芽、鈴音の三人だけしか知らなくて良い。

翌日からは、顔見知りの同級生。

そう自分に言い聞かせながらベッドにうずくまった。

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