第四幕 十二人のスタート
波島綾音、浅間風花、桐沢美春が入部し、12人となった舞風学園演劇部。
多目的室ではこの日は歓迎会が行われており、机を寄せて作った大きな円の中心に、お菓子の袋と紙コップのジュースが並んでいる。
この日は新入部員の歓迎会だった。
「1年生のみんな、改めて舞風学園演劇部へようこそ!」
部長であるひのりが続けて話す。
「これだけ人数いるんだし自己紹介からいこうか」
ひのりは軽く手を挙げる。
「まずは私から」
紙コップを持ったまま、少し照れくさそうに笑った。
「本宮ひのり。3年B組で、演劇部の部長です」
一拍。
「私がこの部に入った理由は……」
少し考える。
「小さい頃から、ごっこ遊びが大好きだったから」
肩をすくめる。
「お姫様とか、魔法使いとか、探偵とか」
「何でもやってた」
円の中から笑いが漏れる。
「それを本気でできる場所がここだった」
ひのりは一年生を見る。
「だから、演劇部に入ったんだ」
紙コップを少し上げる。
「今年も全力でいこう」
七海が続く。
「伊勢七海。3年A組。」
落ち着いた声。
「脚本を書いたり、小説を読むのが好き」
少し視線を横にずらす。
「文学にも興味がある」
「演劇は物語を形にできるから」
一年生の方を見て言う。
「そういうところが好き」
紗里が手をひらひらさせる。
「はい次」
少し前に身を乗り出す。
「小塚紗里。3年A組」
明るく笑う。
「楽しいことが大好き」
そのまま続ける。
「あと子どもも大好き」
「将来は保育士になりたいと思ってるの」
肩をすくめる。
「だから人を笑わせるのも好き」
風花が小さく頷く。
「わかる」
次にみこが口を開く。
「城名みこ。3年C組。」
言葉は短い。
「演出とか、舞台を見るのが好き」
落ち着いたトーンで話す。
「みんなが変わる瞬間を見るのが、面白い」
それだけ言って紙コップを口に運ぶ。
唯香がゆっくり立つ。
「宝唯香。三年です」
穏やかな声。
「昔、子役をやっていました」
一年生が少し驚く。
「でも、一度舞台から離れて」
「それでもやっぱり、演じることが好きだと気づいた」
微笑む。
「だからここにいます」
最後にアリスが手を挙げる。
「アリス・ジョンソン。3年A組。」
少し日本語にアクセントがある。
「夏までの留学なんだけど日本の演劇、まだ勉強中」
軽く笑う。
「でも舞台は世界共通」
紙コップを持ち上げる。
「演じるの、大好き」
三年生六人の自己紹介が終わる。
多目的室の空気が少しだけ温かくなる。
ひのりが円の中を見回した。
「じゃあ次」
一拍。
3年生の自己紹介が終わると、ひのりが手を軽く叩いた。
「じゃあ次、2年生!」
りんかが勢いよく手を挙げる。
「はい!」
椅子から少し身を乗り出す。
「早乙女りんか、2年A組!」
元気な声が多目的室に響く。
「アクロバットとか体を動かすのが得意です!」
胸を張る。
「そして自称、熱血運動バカ!」
紗里が笑う。
「自称じゃなくて事実」
「ひどっ!」
りんかは抗議しながらも笑っている。
「でも舞台で体を使う演技とか大好き!」
一年生の方を見る。
「一緒に面白いことやろう!」
次に音羽が静かに手を挙げる。
「白石音羽。2年B組です」
落ち着いた声。
「声の表現が好きで」
一拍置く。
「動物の鳴き声とか、効果音とか」
風花が首を傾げる。
「例えば?」
音羽は少し考えてから、小さく口を開く。
「……にゃあ」
猫の鳴き声。
かなりリアル。
「おお」
何人かが感心する。
音羽は続ける。
「あと、風の音とか」
軽く息を使って音を出す。
多目的室にさっと風が抜けるような音が流れる。
「すご」
風花が目を丸くする。
最後にまひるが手を挙げる。
「成川まひる、2年B組です」
少し嬉しそうに笑う。
「私は衣装を作るのが好きです」
一年生の方を見る。
「舞台の衣装とか、小物とか」
少し早口になる。
「布とか装飾とか、そういうの見るとテンション上がるタイプで」
紗里が言う。
「衣装オタク」
「はい!」
まひるは即答する。
「衣装は舞台の大事な要素です!アイデアあれば私に相談してください!」
胸の前で拳を握る。
二年生三人の自己紹介が終わる。
多目的室の空気は、さっきよりも少し賑やかになっていた。
ひのりが一年生の方を見る。
「じゃあ最後」
「一年のみんな、自己紹介いこうか」
一年生三人が少し顔を見合わせる。
最初に手を挙げたのは綾音だった。
「波島綾音です」
少し背筋を伸ばす。
「ゲームとか、漫画とか、アニメとか……そういうのが好きで」
少し照れたように笑う。
「そういう作品って、キャラクターがすごく生き生きしてるじゃないですか」
一度言葉を探す。
「だから」
「演じることで、自分の可能性を見つけてみたいと思って」
小さく頭を下げる。
「よろしくお願いします」
風花が「真面目」と小声で言う。
その風花が次に手を挙げる。
「浅間風花でーす」
軽い調子。
「正直に言うと」
腕を組む。
「私、何やっても長続きしないタイプです」
紗里が笑う。
「堂々と言う」
「でも!」
風花は指を立てる。
「演劇ってめちゃくちゃ奥深くないですか?」
「演技とか、表情とか、動きとか」
「やることいっぱいあるし」
肩をすくめる。
「なんか頑張れそうだなって思って」
にっと笑う。
「なので、よろしくお願いします!」
最後に美春が静かに手を挙げる。
「桐沢美春です」
落ち着いた声。
「私は人形が好きで」
カバンの上にそっと手を置く。
「祖父が人形職人でした」
何人かが少し驚く。
「小さい頃から、いろんな人形を見て育ちました」
美春の目が少し柔らかくなる。
「今はコレクションもしていて」
「人形は、ただの飾りではなくて」
「それぞれ物語を持っていると思っています」
ゆっくり言う。
「人形の魅力についてなら、いくらでも話せます」
風花が小声で言う。
「始まった」
美春は気づかないまま続ける。
「衣装の造形、表情の作り、関節の動き――」
紗里が笑う。
「人形愛が深い」
美春は少しだけ微笑む。
「はい。とても」
一年生三人の自己紹介が終わる。
多目的室には、さっきよりも賑やかな空気が広がっていた。
ひのりが円の中央を見回す。
「これで全員だね」
一年生三人の自己紹介が終わると、ひのりが円の外側を見る。
「あ、そうだ」
少し笑う。
「まだ二人残ってるよね」
視線が部屋の後ろに向く。
「先生たちも自己紹介お願いします!」
音屋先生が苦笑する。
「え、私たちも?」
紙コップを持ちながら立ち上がる。
「音屋亜希です」
落ち着いた声。
「この演劇部の顧問をやってます」
一拍。
「大学の頃はミュージカルをやっていました」
少し懐かしそうに笑う。
「そのまま舞台の世界に進んで、女優になるのもいいかなって思ってたんだけど」
肩をすくめる。
「気がついたら教師になってました」
部員たちから軽い笑いが起こる。
「でも舞台は今でも好き」
円を見渡す。
「みんなの演劇、楽しみにしてる」
音屋先生が座ると、隣にいた晴山先生が軽く手を挙げた。
「じゃあ私も」
立ち上がる。
「晴山夏美です」
少し困ったように笑う。
「一応この部の副顧問なんだけど」
一拍。
「実は、演劇経験はまったくありません」
風花が小さく「え」と言う。
晴山先生は笑う。
「本当」
「気づいたら顧問になってました」
紗里が言う。
「顧問あるある」
「でも」
晴山先生は続ける。
「みんなが楽しそうにやってるのを見るのは好き」
円の中を見渡す。
「だから、できる範囲でサポートします」
先生二人の自己紹介が終わる。
ひのりが手を軽く叩いた。
「これで全員だね」
多目的室には、和やかな空気が広がっていた。
ひのりが紙コップを机に置いて見渡す。
「さて、歓迎会もいいけど」
「そろそろ今年の最初の劇の話、しよっか」
りんかが身を乗り出す。
「お、来た!」
七海が補足する。
「毎年恒例の」
「部活動PRウィークの公演」
舞風学園では毎年5月に、各部活動が活動を紹介する“部活動PRウィーク”が行われる。
体育館や校庭、校舎のあちこちで実演や展示が行われ、新入生や在校生に向けて部の魅力をアピールする期間だ。
演劇部にとっては、その中でも大事な舞台がある。
劇を上演して、全校生徒に演劇部を知ってもらうための公演だ。
綾音が小さく頷く。
「全校生徒に見てもらうやつですよね」
「そう」
紗里が笑う。
「つまり」
「みんなの前で“演劇部って面白そう!”って思わせる舞台」
風花が腕を組む。
「プレッシャーじゃん」
みこが静かに言う。
「でも自由度は高い」
ひのりが少し考える。
「今回さ」
一年生を見る。
「主演は一年のみんなにやってもらうの、どう?」
三人が少し驚く。
「え?」
綾音が言うと、ひのりは頷く。
「物語は」
「観客が“ある列車”に迷い込むところから始まるでどうかな」
七海が少し首を傾げる。
「列車?」
「そう」
ひのりは笑う。
「普通の劇ってさ」
「観客は舞台を“見る側”でしょ」
「でも今回は」
「観客が不思議な列車に乗り込んじゃう」
紗里がすぐ言う。
「メタい」
りんかも笑う。
「めっちゃメタ」
風花が手を挙げる。
「ちょっと待って」
「それって」
首を傾げる。
「観客役ってこと?」
小さな笑い。
ひのりは肩をすくめる。
「まあそんな感じ」
「気づいたら列車に乗ってて、降りられない」
「そこから物語が始まる」
七海が腕を組む。
「閉じた空間の中で進む物語、か」
「……ちょっと“銀河鉄道の夜”っぽいね」
紗里が反応する。
「お、文学出た」
「ベースとしては近いと思う」
「でもそのままじゃなくて、舞風なりの解釈で」
りんかが身を乗り出す。
「じゃあ車掌とかいる!?」
ひのりが頷く。
「いいね」
「案内する人がいた方が分かりやすい」
音羽が静かに言う。
「車内アナウンスもできる」
まひるが続く。
「衣装も分かりやすいね」
「車掌服とか、乗客ごとに雰囲気変えたり」
美春が頷く。
「列車という統一された空間があれば」
「世界観の一貫性は作りやすいです」
風花が笑う。
「なんかさ」
「ちょっと不思議で変な列車って感じ?」
みこが短く言う。
「だから成立する」
ひのりが一年生を見る。
「その列車に迷い込むのが、みんな」
綾音が小さく頷く。
「現実のまま乗るから、違和感が出る」
七海がまとめる。
「不思議な列車に迷い込んだ一年生たち」
「そこで出会って、変わっていく物語」
ひのりが笑う。
「いいね最高!」
「それでいこう」
紗里が言う。
「タイトルどうする?」
七海が少し考えてから言う。
「“不思議な列車へようこそ”」
りんかが頷く。
「いいじゃん!」
みこも小さく言う。
「分かりやすい」
ひのりが手を叩いた。
「じゃあ決まり」
「この内容で、PR公演やろう」
円の中に、少しだけ引き締まった空気が流れる。
⸻
それから数日後。
放課後の多目的室。
七海がノートを開く。
「台本、できたよ」
部員たちの視線が集まる。
「今回の役だけど――」
名前を呼びながら、配役が決まっていく。
綾音、風花、美春。
一年生三人を中心に、物語が組まれている。
「それぞれの役は、こんな感じ」
七海が最後にノートを閉じる。
「全員、ちゃんと見せ場あるから」
りんかが笑う。
「よし、やるしかないね」
まひるが言う。
「衣装も考えないと」
音羽が静かに頷く。
「音も準備する」
ひのりが円の中央を見る。
「じゃあ」
「ここからは、いつも通り」
少し笑う。
「練習、始めよっか」
十二人の視線が、自然と前を向く。
新しい舞台に向けて、
演劇部の時間が、動き出した。
続く。




