ヘイベイビー
「神が不在って、じゃあ神は何処に?」
「『並行世界』いわば『異世界』」
「へぇ並行世界ですか。でもそれまたなぜ?」
「不明。ただ行ってしまわれた」
とヴェトーは髪を人差し指でクルクルと巻いている。彼にはほぼ感情の起伏がない彼女の顔に一瞬陰りが生じたように感じれた。
「所で貴様、物分かり良し。何故?」
「え?あ、あぁ並行世界のことですか。昔から理論上存在するって言われてることは知っていました。多少びっくりしましたが……理解の範疇です」
そう実のところ今日ではその話は良く知られている。20⬛︎⬛︎現在、現実的に使用されている様々な理論がそれを補助している。そして、そこを真面目に研究する分野さえある。昔はファンタジー、SFの類であったがもはや分類はノンフィクション。
「で、裁判所の閉鎖による弊害は一体?」
「地球上の魂、循環してる。
あの世、この世、行ったり来たり。
裁判所、その循環担う一機関。
故閉鎖、詰まり、起こる。
循環機能停止。
現世への魂の供給途絶」
それを聞いた彼の頭に浮かぶのは昨今の話題、世界的に異常に多発する赤子の流産。去年全世界で一昨年の4分の1という過去最低の出生率を記録した。各政府は総力を上げて原因究明に臨んでいるという。
魂の循環、常識からするとどうしても疑ってしまう文言だがもしこれが本当ならば、人類にとって致命的な問題となる。しかし、殆どの人類はそれを知覚できていない。
「(おいまじか...人類愛はそれほどだがこれはあんまりにも...)えっとススさん達は人間に知らせましたかそれ」
「否」
「なぜ?」
「スス達、現世への干渉は禁じられてる。ラ様に」
「……そうですか」
彼は呆れる。
人類の危機なのにラ様とか言う奴が一体どうしたんだよ、と。
「怒るな、ヴェトー、ラ様を愛してる。命令絶対」
「ソイツは奴隷っていうんでっせ?」
「人間の価値観、くだらない。そんなに人類救いたいなら、自分でラ様見つけ……………あ」
ヴェトーはハッとしたように身体を持ち上げて目の前の男をまじまじと見る。口を開けたまま、そして呆然としたまま一言。
「貴様、探しに行け」
「え?」
「ラ様を、探しに、行け」
黒色の瞳孔を大きく開きながらハッキリとキッパリと発言した。
「な、なんだと?!俺が!?」
「思い付いたっあの世ならホール作成エネルギー的に可能!貴様ならば!そうだ、連れ戻せた場合っ生き返らせ、一つ願い叶えてやる!」スタッ!
彼女の様子はやけに興奮している。さっきの気怠そうな雰囲気から一変、岩の上から軽快に降りて彼に詰め寄りながら早口で捲し立てる。
「なに言ってんだベトーさん!」
「ふぅ……結論。ヴェトー、貴様を異世界に転送可能。貴様、ラ様を連れ戻す、ヴェトー、貴様を蘇生、願いを一つ叶える。
人類、ヴェトー、貴様、win-win-win。どうだ」
「あぁ〜なるほど。そういう?……しかしその、ラ様を取り戻したいようだがそれはなぜ...」
「先刻同様、愛」
「あぁそう。全くどうしようもねぇ...」
さて思考の時間だ。と言ってもその思考は全部筒抜けだろうが。この契約乗るかならないか、どうであろう。
怪しさは凄いものだ、この空間も彼女の存在も話しも非常に怪しい。これは病院で自分が見ている夢かもしくは幻覚か。
それに本当に魂の話があの問題に繋がってるかどうかも。AIの助言が無いのがもどかしい。
しかし———
「(とはいえ他の選択肢ないよな?このまま森の中をまた歩くか?ないな。まったく、並行世界への旅か。少なくとも戦場よりは面白そうだ)」
「良い。契約完了」
「あ、おいまだ俺なんとも」
「ヴェトーは武器、ユニット?色々用意する。少し待て」
「……分かったよ...え、武器?」
その瞬間。ヴェトーは音も風も痕跡も残さず消え去った。瞬間移動と言うやつかもしれない。
さて、暇つぶしに人々が埋め込んだユニットを見物していると背後からの変な視線に気づく。
「それ、やめた方がいい、非倫理的」
「人間の価値観はくだらんので」
「不愉快」ドサッ
その彼女の足元には機械がドッサリと入った段ボール箱が三つある。
「言い忘れてたが俺のベースユニットはネ型。分かりますかな」
「分かる。舐めるな。けど、さっきまで、現世の認識、90年前だった。だから学んだ、全部理解した」
「情報で脳みそパンクしそうだな」
「スス達、128Yのデータベースある、大丈夫。それよりも、武器見ろ」
「武器が必要って、そんなに危険な仕事なのかこれ。だったらまさか剣なんかは辞めてくれよ〜っと...?」
真ん中の段ボール箱を見てみると、銃、αやOのような形をした機械。
戦場のお馴染み【VF】。
それと一際大きく彼の腕ほどの長さと太さのある機器があった。
「武器の使い方、ユニットの構造、現地の言語、全部貴様の脳に入れる」
「脳みそ壊れないようにな」
「善処。貴様、次目が覚めたら、異世界。良いな」
「…あぁいいぜ」
そう言った矢先、彼の目の前が暗くなった。
感謝




