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女神降臨

「さて、一体何処まで続いてるわけだ?」

 

 彼はずらりと無限に並ぶ人の列を見てうんざりするように言った。そして先頭の方へ列に沿って歩き始めた。


「この感じ、懐かしいなぁ〜。ガキの頃一回行ったなぁーテーマパーク。15年前くらいか?はっ、アホほど多い客がアホずらさらしてる並んでるせいで、乗りたい奴に乗れなかったなぁ。あの時はなんでそこに居るのか疑問で仕方なかったわ」


 と少し大きめの声で呟く。誰かしら反応するのを期待していたが帰ってくるのは静寂だけだった。本当に何の反応もしめさないようだ。意識があるかどうかもわからない。

 

マネキンのようだ。

 

「はぁ」


 彼はもう一回大きなため息をついた後、黙々と歩いた。


 あぁ、しかし森の様子も、人の列も変わらない。けれど丁度良い気温と澄んだ空気の中での散歩と言うのでその心地は非常に良いものであった。


 身体の各ユニットに不調はないが何も機能しない。瞳は自然からの情報そのままを写して、走る速度は本来よりずっと遅い。全身に駆け巡る感覚はあの懐かしき生身であった。


 そうして途中興味深いもの、いや人を見つけた。それは彼が吹き飛ばされるおよそ1時間前に死んだはずの見覚えのある顔をした男。


 生前と何ら変わらない姿で立っている。目元は相変わらずヘルメットの陰で暗い。お気に入りだとよく見せびらかしていた腕部ユニットに描かれた有名人のサインは、まだ健在なようだ。


「お前息子と嫁がいるんだろ?こんなとこで突っ立ってる場合か?え?」


 桑野は触れようとしてみたが、桑野の手は空気を触るかのように男の体を通り抜けた。

感触もなく温度もない。


 彼は少しばかり心が重く落ちるように感じた。やるせない状況だ。もはや戦場でないのだからナイーブになっても良い。


「あぁ、クソ.......じゃあな」


 そう別れを告げてまた進む。それから何時間経ったのかは分からないが、少なくとも1日は歩いた実感が彼に湧く頃——————


『彼女』がいた。


 列の脇にある石上で肘をつきながら座っていた。その目は何処を見ているのか分からない。銀色の長髪を携えジーンズと皮のジャケットを着たその姿は少々不良チックな様子だ。


「(いつから居たんだ?遠くから見た時は居なかったはずなのに…)な、なぁアンタ」

 

 恐れ、そして期待を抱きながら呼びかけると彼女は目だけ動かして桑野を見た。果てしなく黒い目に見られ、腰が引ける。


 しかし見るだけで何も言わない。待っているような様子だ。


「…意識あるんだよな、いや、ありますか?」


 これに対し彼女は「ある」とだけ抑揚控えめに返した。


「名前教えてもらえませんか?」

「ヴェトー」

「ベトーさんですか」

「……ヴェトー」

 とヴェトーはもう一度名乗る。


「え、ベトーですよね?」


「……ヴ」

「ヴ?」


「エ」

「エ?」


「トー」

「トー!」


「ヴェトー」

「ベトー!」


「滅びろ」

「えぇ???」


 彼女の吐き捨てた言葉に沢山の疑問符を浮かべる。慣れない発音は常人には難しいのだ。しょうがない。さてそれはそれとして。


「ベトーさんはここについて何か知ってるんですか?」


「……ヴェトーここで生まれた。僕の故郷。誰もが通る場所。有り体に言って…【あの世】」


「まぁそうですよねぇ...え?ベトーさんってここで生まれたわけですか?!となれば……何者なんですか?」


「ヴェトー達は唯一神ラ・ヤイ様によって創造された被造物。色々な名称がある。天使、女神、妖精即ち人類の上位存在。ラ様はススとお呼びになる」


「おぉ」


 どうやら目の前にいる随分ロックな服装をした彼女は女神だとか天使だとかなんとか。


 これには疑念が募る、それはいわゆる見た目が【高貴な存在】として一般に伝わるイメージとかけ離れているのに加え、ラヤイ?だのの神の名は一才聞いたの事の無いからである。


 ヴェトーは本当はただ女神のふりをする気狂いなのかもしれない、そんな気持ちが彼の中にあった。


「(どっちだ?)」

「どっちだではなく、本物だ」

「なっ!」


 なんと心を読まれた!


「ベトーさん心読めるんすか?!」

「当たり前。『格上』だから」

「じゃあもう一回お願いします!」

「良い」

 そうして頭の中で想像する。


「(ベトーさんを⬛︎⬛︎で⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎———)」

「滅びろ」


 彼が念じ終わる前にヴェトーは思念を遮った。それは心が読めるなら非常に真っ当な行動である。彼の生成した文字列は見るに耐えないものだったのだから。そして桑野は本当に驚いたように言った。


「マジじゃないすか!」

「……はぁ」(大きなため息)


「いやすいませんすいません!そんでその女神?ことベトーさんに聞きたいことがあるんですよ」

「用件」


 とヴェトーは非常に気だるそうにあくびをする。


「なんで皆反応がないんですか?俺は動いているのに」

「この空間、魂だけ入れる。肉、知は入れない。貴様のような人間、稀に居る。魂、肉、知、繋がり強い」


「へぇ俺って特別と言うわけですか。それと、この列はどこに向かっているんですか?あ、ちょっと待ってください。俺の予想だと人の罪を推し量る場所に行くと思うんですよ、どうですか?」


 今語り継がれる古今東西のあの世にはよくそのような罪を図る場所がある。悪人の勝ち逃げを許さない気持ち、そして犯罪の抑止、その為の人類の意識の集合。それがきっとある。


「半分不正解。確かに人間、裁判所に行く。逆接、『ラ・ヤイ神の不在』により主要裁判所、閉廷、解散。他のスス、奮闘中」


「神が不在?裁判所が閉まってるだって?」

感謝

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