手紙よ飛べ
お久しぶりですね、母さん、父さん、兄さん、姉さん、その他諸々の人間さん。生きてるか知りませんがお元気ですか?残念ながらこっちは元気ではありません。昨日俺の同̶僚̶⬛︎⬛︎⬛︎ 失礼、戦友が横で溶け死にました。気分最低です。
さて戦場に赴任してからもう1年が経ちますがIV-2Dに未だ苦戦中です。有名なはずなので1回は聞いたことあるんじゃないでしょうか?こっちでは向日葵ってよんでるんですよ。可愛い名でしょう?けどこれが恐ろしくてIV-2Dはなにぶん紫外線?赤外線?を発射してるので見えないし音も聞こえません。で気づいたら体から煙が出てます。そしてまたこれが痛くてたまったもんじゃないです。敵さんも自軍もそれをめっためたに使うので、今は塹壕の中で暇つぶしスルくらいしかやる事がありません。別に何かが起こって欲しい訳じゃないんですけどね。もっとやばいと噂のベッジル東部戦線にいないだけマシです。
なんだか悲しくなります。今は20⬛︎年だのにこんな古臭い手紙を書いて、衛生も何もない環境にいるんですから。通信妨害なんて最悪です。全̶部̶あ̶の̶小̶型̶機̶の̶せ̶い̶だ̶!̶ク̶ソ̶–今は右足骨、左肩とか左眼のユニットが不調を起こしてます。何回か修理しましたが多分限界が近いと思います。お墓とクラッカーの準備をしといてください。どちらにせよ役に立ちますから
桑野再徒より
———カタッ
男がペンを置く。今書いた手紙を見つめる目は少し疲れているようだ。そして彼の横にもう一つ覗く顔がある。それは彼の親しい同僚の一人のものであった。その目元はヘルメットに隠れて薄暗く、よく見えない。
「あ手紙、、、?お前そう言うの書くタイプだったか。もしかして……マジ病み〜〜って奴か?」
と同僚は嘲る。桑野ははぁ、と一息付いて口を開いた。
「アホ、この俺が病むかよ。手紙は定例報告みたいなもんだ。出兵前に一年に一回は連絡しろって親父がよ。今までまともに出来なかったから次に鳩が来たら送るつもり。んで、お前は家族に連絡とかしないわけ?」
「んーあーいや。親父に半ば勘当される形で来たからそういうのはな」
「未練とかはない感じ?」
「あたりまえよっちゃん。だって家族ガチで”アレ”なんだぜ?自然自然言いやがってそんなに自然が好きなら死んで自然の一部にでもなって欲しいもんよ。まぁ実際死ぬのは俺らなんだがな」
「「ハハハハ!」」
そうやって彼等はブラックすぎる戦場ジョークに笑った。ただその同僚の笑顔もこの日で見納めであった。
次の日の昼間。
「クソクソクソ!」ダダッ
桑野を含めた兵士は銃弾飛び交う中で敵の塹壕へと一直線に走っていた。そう、襲撃作戦だ。
昨日の同僚は今日死んだ。なんてことない死だった。
さて、そんなことより今のことだ。兵隊より前には人型のロボットが走っている。これは鉄条網を壊し、さらに弾除けにもなる優れものだ。ただ、戦闘能力は高くない。
「っ!」ジュ
一瞬、前のロボット狙いと思われる向日葵が桑野の顔を掠めた。しかし彼は気にせず進み続ける。
向日葵は極短時間ならば致命傷ではない。皮膚は爛れてしまうかもしれないが。
援護はある。味方の砲撃は敵塹壕にふり注いでいる。今出来るのは突撃、そして5基の向日葵を沈黙させること。銃器は依然脅威だがソレの方が遥かに面倒臭い。
一歩二歩、壊れた脚で進む。時速は大体30km/hくらい。万全の時と比べて半分程だ。
「ロボ犬っころめ!ほーらよ!」
走りながら、敵の防衛用4足歩行自律型ロボットに向けて乱射を開始する。弾数、距離を気にせず銃撃する。
すると1匹、2匹と銃弾を受けてその身体から金色の液体を吹き出す。それらは地面に倒れると発作を起こしたような動作をしてやがて動かなくなった。
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報告
特殊損傷率16% 身体損傷率8%
総合損傷率10%
注 ユニット 肺 手首 破損 約5分後停止
内蔵電池 状態 漏電
異常電流感知 患部周辺システム停止
充電16% システムP起動水準まで11%
残存血液量76% 注 出血量増加中 30ml/s
体温38.4℃ 身体冷却稼働中
脳への酸素供給13%減
血中アドレナリン濃度上昇確認
注 総合状態 生存危険域
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(………クソ!状態表示オフ!表示オフだ!標的センサーだけ起動!)
と彼の目の前から様々な情報を載せたワイプが消えた。
それから一目散に走っていると、目的物まで60メートルを切っていた。軽トラックほどの大きさをした下部装置の上に電波望遠鏡のような物がくっ付いている、そんな機器がハッキリと見える。
泥に塗れ、腹に砲撃の破片を喰らいながらももう直ぐだ。桑野も味方も足を引き摺りながら必死で走る。
走る、走る、走る。
その時、ツーンとした金切り音の中に確かに聞こえた、カチ、という音。そして何か地面ではない別のものを踏んだという足の感覚。
「あ——」
次の瞬間桑野の目の前は灰色に包まれた。
***
それから何時間が経ったのだろうか。気づけば桑野は森林の中に居た。正確に言えば森の中で人の列に並んでいる。
森は何処までも穏やかであり木々のざわめきのみが聞こえ、列は何処までも続いて終わりのない様だった。
「…こんなもんさ」
そうつい口にする。
「アイツら悲しむかなぁ、悲しんでくれるかなぁ?」
そうして自分が死んだ時の周りの反応集を想像して彼は列を待っていた。これが一体何処へ繋がるかは分からないが悪いところには行かない、という気がした。
しかし、待っても待っても列が進む様子がない。彼は不思議に思って前に立つ青色のドレスを着た女の肩を叩いた。
「あの、すいません」
「……」
「え、あの?」
「……」
「もしもーーーーし」
「……」
反応がない。手を目の前で振ってみても瞬きすらしない。
「はっ」
と思わず笑ってしまう。
それからまた、待ってみるが相変わらず列は進まない。彼はいろいろ考えてみる。そしてその末、列からするりと抜けた。
感謝




