05 パラレルワールドで友達
「ここまでの振り返り終了」
教室で一人、机に突っ伏して呟く。
幼馴染襲来イベントに至るまでの経緯を振り返っては見たものの解決策なんて思いつくはずない。
原因はいつどこでと聞かれたら恐らく自転車で転倒した時になるのだろうけど、頭を強く打つどころか大したケガもしていない。
物語の序章としては不十分ではなかろうか。
まぁ、それはそうとして今の僕に課せられた最重要課題は幼馴染の情報入手することだ。
次に遭遇した際、何らかの拍子に彼女の名前が本気でわからないと発覚しようものなら今回みたいに許してもらえないだろう。
先程の完璧?な対応が出来たのも前日の姉との一件があったからだ。
実姉のインパクトに比べれば幼馴染はある程度想定の範囲内だった。
必要最低限の情報さえあればある程度話をうまく合わせることが出来るだろう。
どうしても合わせられないときは忘れたと嘘をついたりふざけるなど上手く流すしかない。
なんにせよなるべく早く幼馴染の情報を入手せねば。
なんだかストーカーみたいなことやろうとしてるな僕・・・。
「渡世、あの夏野さんと幼馴染なんだ。凄い仲良さそうだったな」
情報収集のため席を立とうとすると真後ろから声を掛けられた。
「勘弁してよ和山くん。今さっきのやり取り聞いてたでしょ。事の発端は僕にあるけれど」
顔を上げ振り返りながら返答する。
「いや~それを見てて思ったんだけどな。あと湊でいいよ」
「よろしく湊。僕のことも燈でいいよ」
「おう。よろしくな燈」
和山 湊との初めて会話だ。
なんとなく話しかけずらかったけれど話してみると案外話しやすい奴だ。
「”あの”夏野って言ってたけど二人も知り合いだったりするの?」
「いや全く。でもこの学年じゃすでに有名だぜ。なんせあのビジュアルだしな」
今さっき彼女の容姿を間近で見ていた身からすれば納得のできる話だ。
入学二日目にして有名とはとんでもない幼馴染が出来たみたい・・・居たようだ。
幼馴染の苗字が夏野ということを湊人との会話から得ることが出来た。
苗字さえ分かってしまえば学年全員のクラスと名前が記載されていたプリントを見て夏野を探すだけだ。
「なあ燈、今日も学校午前中に終わるし昼飯でも食いに行かね?」
「そうだね。せっかくだしそうしようか」
パラレルワールドに来て初めての友人が出来た。
前の世界より好調な滑り出しかもしれない。
◇ ◇ ◇
「ところでなぜ日花がここに?」
入学から四日目になり学校が本格的に始動している。
半日で終わっていた学校が午後まで続くとなると当然、昼休憩の時間が訪れる。
僕は椅子を回転させ湊と向き合い姉お手製のお弁当を広げていた。
「なぜって、私がここで昼食をとるからだけど」
疑問を抱いている僕の方が間違えているように錯覚するほどの堂々とした姿勢。
「俺はいいけど湊とは面識ないよね?」
「ないわね。夏野 日花ですよろしく和山くん」
あっさりと回答、自己紹介する日花。
友達の友達に対する気まずさを感じないのか。
「よろしく夏野さん。二人は幼馴染なんでしょ。なら燈の昔話とか聞きたいな」
「恥ずかしいから勘弁してくれ」
僕の知らない僕の話、正直聞いてみたい気持ちはあったけどそれ以上に未知に対する恐怖心みたいなものが上回っていた。
過去を知るにはまだ早い、そんな気がした。
「ところでわざわざ燈の元まで昼食を食べに来るなんて仲いいんだね二人は」
「ちが!・・・幼馴染だから逃げ込むには最適な場所ってだけ」
湊の指摘を受け反論する日花の顔は少し赤くなっているように見えた。
見当違いな発言に対する怒りかあるいは・・・。
「逃げ込むってなにから?」
「・・・クラスからよ。私、クラスに喋れる人いないから」
「「・・・・・・」」
これまた返答に困る返事だな・・・。
僕と湊は口元に手を当て悩むことしかできない。
「ふふっ。ごめんなさいそこまで悩ませてしまうとは思わなかったわ」
本心からの笑みなのか判断することはできないけれど当人はそこまで悩んでいないようにも見える。
僕も湊が声を掛けてくれなければ同じようになっていたかもしれない。
何とか手助けしたいとは思うが僕に出来ることはあまりないように思える。
「そういえば二人は部活はどうするの?」
僕は話題を変えようと部活の話を振る。
「部活か、確かにそろそろ決めないとだよな。俺はバスケ部に決めてるけど。小学生の頃から続けてるから習慣っていうか、バスケしてない自分を想像できないてきな?」
特定のことを長く続けたことのない僕には全く共感できない話ではあるけれどなんとなく湊がバスケをしている姿は想像できる。
「私は弓道部ね。中学から続けてるってこともあるけど、弓道部になら元からの友達もいるし」
「二人とも決まってるのか。僕はまだ悩み中かな」
せっかく訪れた二度目の高校生活。
以前は帰宅部であったことを後悔した時もあったから部活に入りたいとは考えているがこれと言って気になる部活が見つからない。
「バスケ部とかどうだ?強制はしないけど一緒に入部できたら楽しいと思うな」
「弓道部もいいと思うわ。あなた以外になんでも卒なくこなすタイプだから弓道も上達早そうだし」
以外は余計だが確かに自分でも卒なくこなせるタイプであるとは思うが、だからこそ何か一つ熱中できるものと出会えない。
「誘ってもらえたのは嬉しいんだけど運動部はちょっとな・・・」
運動が苦手という訳ではない、どちらかというと運動部のコミュニティーが自分には合わないのだ。
必然的に文化部の中から選択することになるだろう。
「そっか、まぁ残念ではあるけど燈の決めることだ。決まったらちゃんと報告しろよ」
「もちろん。とりあえず体験入部から初めるよ」
元の次元に戻る方法も到底見つかりそうにない今、どうせ戻れないのならこの世界を少しでも満喫しようではないか。
そんな前向きな思考に移行しつつある。
これも二人のお陰だとそう思う。