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04 一人っ子の僕にできた実姉

 結果から言おう。

 やはり自宅マンションは存在していた。

  数時間前マンションを出たときに見た光景と寸分たがわず同じだ。

 六階建てマンションの四階、402号室が僕が住んでいる場所であった。

 エントランスを抜けエレベーターに乗り自宅の前にたどり着く。

 自転車をこいでる時から握り続けていた自宅の鍵が緊張や不安からくる手汗でベタベタになっていた。

 ドアノブについている鍵穴に鍵をさし、ゆっくりと捻ると扉にかかっていたロックが解除される音がした。

 ドアを開くとそこには見慣れた僕の部屋の光景が並んでいる。


 こうなってくると学校での出来事は僕が寝ぼけていただけだったように思えてくる。

 パラレルワールドという僕自身でたどり着いた答えだったわけだけれど普通に考えてそんなことが起こるはずないし、ましてやアニメの世界から出てきたような外見の人物たちが存在するなんて別次元だったとしても考えにくい。


 きっと。

 僕は夢を見ていたのだろう。

 そうに違いない。

 手洗いついでに顔も洗って目を覚まそう。

 眠気からくるあくびに襲われながら洗面所の扉を開く。


「あれ?もう帰ってきたの?お帰り~。早かったね」


 扉を開いた先に広がっていた光景に思わずフリーズしてしまう。

 僕と同い年、いや少し年上と思われる女性が風呂上りと思われる濡れた体をバスタオルでふいていた。

 そのあまりに刺激の強い光景にとっさに両手で目を覆った。


「決して覗いたわけでなくただ純粋に顔を洗いたかっただけと言いますか。というかそもそも僕の家なわけでどちらかと言えばお姉さんのほうに非があると思うんですよね・・・」


 両手で目をふさいだまま言い訳、というか事実を簡潔に述べることしかできなかった。

 驚きながら逃げるように後にするのがお約束なのかもしれないが僕はこの場から逃げたりはしない。

 ここで焦って逃げると僕が全面的に悪いと言っているようなものだから。

 いや、どちらにせよこの状況に遭遇してしまった時点で僕が悪いと決まっているのかもしれないが。

 その前に不法侵入ではないだろうか。


「ぷっぷぷっっ何おかしなこと言ってんの?別に弟に裸見られてもなんとも思わないよー」


 急に笑い出したかと思ったらこれまた妙なことを言い出した。

 弟?誰が?僕が?

 学校での件に引き続き僕の身に降りかかる不可解な現実に頭を悩ませることしかできなかった。


「おーい、どうした?急にぼーっとして。寝不足?」

「ま、まぁそんなところかな。進級・・・じゃなくて入学式だったから緊張して眠れなくて」


 とっさについた嘘のせいでボロが出そうになったけれど何とかごまかすことが出来たと思う。

 僕はとっさに姉は居ないと言ってしまいそうになったけれど口には出さずに飲み込んだ。

 彼女が違和感を抱くのはもちろんのこと、彼女にとって僕が本当に弟であったのなら僕が姉なんていないと発言したら傷つけることになるだろう。

 それに彼女が僕の姉であるということに納得していた。

 そこに関して何一つ疑うことはなかった。

 冷静に考えてみれば数時間前まで一人っ子だったはずの人間にいきなり姉と言われて登場したその人物を自分の姉であるなんて到底納得出来ることじゃないだろう。

 僕が彼女の言葉を信じる理由それは・・・女性の裸体を見たはずなのに全くもって反応が無かったからだ。


 ◇ ◇ ◇


 洗面所での遭遇の後、亡き母の兄、僕の叔父にあたる人が住んでいる家に向かった。

 両親を亡くしてから僕を引き取ってくれたのが叔父であり感謝してもしきれない恩人だ。

 高校進学と同時にこのマンションで一人暮らしすることになったときも金銭面で支えてくれた。

 電車で十二駅とそこまで距離があるわけではないから日が落ちる前にたどり着くことが出来た。

 見慣れた木造建築の一軒家に変わりはないが表札に書かれた苗字は叔父のものとは異なり、意を決して押したインターホンから姿を現したのは叔父ではなかった。

 この確認を経ることで僕以外の人間が入れ替わったパラレルワールドという仮説がより有力になった。

 加えて、洗面所で姉が僕を見て即座に弟であると認識したということは僕と外見が全く同じ人物がこのパラレルワールドに元から存在したということでもある。

 中身の魂だけが入れ替わったというのが分かりやすいかもしれない。


 ◇ ◇ ◇

 

 姉との会話である程度の情報を入手した。

 名前は渡世(わたらせ) (のぞみ)で二十歳、大学に通いながらモデルの活動をしているようだ。

 この世界の僕は叔父ではなく姉のおかげで生活を遅れているようだ。

 まるで僕が生活できるように辻褄合わせをしているようだ。


 今まで朝食はほとんど食べてなかったけれど姉が準備してくれていたためありがたく頂くことにした。

 家で誰かと一緒に食卓を囲むことに懐かしさを覚えたりもした。


「って、ヤバいもう出る時間だ!行ってきます」

「いってらっしゃーい」


 自然に出てきた言葉、いつもだったら発した言葉が返ってくることはなくそのまま虚空へと消えていくはずだけど今日は僕の元へ戻ってきた。

 慣れていたはずだけどエレベータに向かう足取りはなんだか軽快で膝が勝手に上がっているような気がした。


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