02話 シグマ・ベルトルトの独白
嫌だああああああ!死にたくないいいいぃいいいいいいぃぃぃぃぃぃ!
俺の名前は「シグマ・ベルトルト」。前世の名前は「赤松佳樹」。日本生まれの日本人!やっと自分のやりたいようにやれると思ったのにぃぃぃぃぃ!!
前世の俺は散々だったんだよぉ。生まれつき体が弱くてさぁ、遊べなかったわけよ。歩くこともままならなくてよぉ、学校にも全然行けず、友達も誰一人としていなかった。ずっっっっっっと家で寝てばっか。外に出ても体が動かず、その場にうつ伏せで倒れるだけ。そんな環境なもんで、ずっとアニメや漫画を見続けていたわけよ。
そんな中で俺はバトルものの作品にハマってね。それも剣を使って戦うキャラクターが好きでさぁ。いつか剣士になりたいなぁって思っていたんだよ。剣士になんてなれっこないのは分かっているさ。でも、夢の中で、いつも剣士になる夢を見れるように好きな剣士キャラの人形や漫画の単行本を枕元に置いて寝ていたよ。まあその夢を見られたかなんて全く覚えてないけど。
そんな俺も17歳になったときに体がどんどん悪化してってさ。病院での療養生活になって点滴を何個もつけるようになって、しまいにぁ人工呼吸器もつけたもんでアニメも漫画も見るどころじゃなくなってさ。そんな姿を親はとても悲しんでいたけど、口論が激しくなってさ、すごい悲しかったのよ。
そんで入院して2か月くらいでポックリ逝っちゃったのよ。まあもうずっと意識を失ってたのかも分からないからもしかしたらもっと後かもしれないけど。
ただ死んだってことは確信できたんだよね。意識があるまま、上も下も分からない真っ暗な空間で、ずっと彷徨ってたんだから。
何年くらい彷徨ったかなー?自分でもホントに長く感じるほどにいてさ。生きてた時よりもだいぶ真っ暗だったんじゃないかな。
ただどうしても死にたくなくてさ。生涯友達も作れず、外で遊べず、親孝行の1つもできない自分に心が折れそうになっても、自分の夢を思い出してさ。
まだ死にたくない。まだ意識があるんだから、もしかしたらこれも夢かもしれないって。今思い返してみればヤバい執念だなって思うけど。
その思いが届いたのか急に目の前が輝いてさ、目を開けたらなんか「冥界」ってとこに飛ばされちゃってさ。魂だけの存在?になっちまって。
そしたら目の前に、青白い肌をしたデカい姉ちゃんが表れてさ。死神だって言ってたのよ。たしか名前はなんだったけなーー?「ベネトナ・ナイト・アルカイド」って名前の姉ちゃんだった気がするんだけど。
で、その姉ちゃんが「死神の中でも自分は偉いんだぞー」みたいなこと言って、俺のことが可哀そうだからって記憶を継いだままこことは別の世界に転生させてくれるんだと。
こういうのってアニメでよくある自分にしかない特殊能力や最強の肉体、多くのヒロインに囲われてウハウハな異世界ライフがキター!って思ったのに、まさか何の特典もなしに転生させられると思ってなかったのよ。
まあ今まで一般的な普通の生活もできなかったわけで、あの姉ちゃんには感謝しているよ。ホントに。
鍛冶師の父と商人の母との間に産まれてさ、地方生まれだけど、貧しくもない平穏な生活が続いていたわけ。だけどさ、やっぱり憧れるわけじゃん?チートな能力、地位、名誉、能力を。
この魔法が使える世界で、地上最大の国家である大勇帝国の歴史について学んでいたときに、かっこいい人物が見つかってさ。「グレン・ドレッド」っていう人物なんだけど。平民生まれで20 歳で聖騎士界の大将になるほどの実力を持つ人物。
まず、その見た目に痺れたのよ。眼帯をしていて、何かしら特殊能力があるわけでもなく、帝国最強と謳われたその人に。
その人に天与の才能があったからだと思うけど、俺も非能力者だからもしかしたら自分もなれるんじゃないかって思ってた。
親にすごい無理を言って14歳になったらいいと言われたんで、口だけじゃないぞ!って思われたいから修行を欠かさなかったし、地方に在籍している騎士と稽古試合をしてもらったりしたから並のもんじゃないぞ!って思ってた。入隊式までは。
怪物並に強そうな新兵がたくさんいてさ。身長を2 m以上平気で超えてるやつもいるし。ガタイだけじゃないけど、明らかに強いやつも数人見かけてさ。そいつら闘気にギンギンに満ちているんだよね。
異世界転生だからって自分だけが特別だって思うのは間違ってたんだなって感じたよ。
ただあの演説はすごい痺れたなあ。たとえ自分が在籍する部隊がド底辺のとこであってもしょうがない、現実を受け入れようっていうのと、それでも俺は絶対に帝国最強になってやるんだぞって思ったわ。
それでまさかの配属先が「地獄の灰」。
……うん。まあ、確かにたとえ底辺でも頑張って這い上がるぞって決意したけどさ、まさか詳細不明の場所に送りこまれると思ってないじゃん。悪い噂が多いんだよねあそこは。「地獄の灰」に配属された奴は早死にする奴が多いとか、人体実験にさせられるとか。せっかく入隊したのに何でこんな危険な場所なんだよ!せめて前世よりは長く生き永らえたいんだよ!
嫌だああああああ!死にたくないいいいぃいいいいいいぃぃぃぃぃぃ!
そんな絶望的な思いを寄せながら、俺は「地獄の灰」所属の見習い騎士として、指定された場所に移動する。初めて訓練場に赴いたが、他の騎士たちはもうトレーニングをしている者もいる。
それに比べて俺は…と思いながらも、移動していく。しかし俺は、とても薄気味悪い場所に向かっている。訓練場よりもかなり離れていることは明白だった。訓練場から30分ほど歩いたところに、ようやくたどり着いた。
まるで廃墟のような場所だった。一体俺は何をさせられるのだろうかと思いながら、恐る恐るそこの扉を開けた。
「遅いじゃないか。相応の覚悟ができているんだろうなぁ?」
「やっと来たのか。コイツも含めて俺の同期は不安だな。」
「儂はお前らの方が不安じゃ。お前ら2人は非能力者だろう?」
建物の中には、3人の男がいた。2人は入隊式で見かけた怪物みたいなポテンシャルを秘めているであろうと男たちだ。そしてあと一人は―――
「まあいいさ。この後の訓練で死ぬ気でついてこれたら、今回の遅刻は無しにしてやろう。」
「さて、気を取り直して………ようこそ、才能ある若者たちよ。今日からお前たちは、私の特別な指導のもと、3年で立派な将校にしてやろうじゃないか。」
聖騎士界現大将「グラディ・アトーレ」。現役の大将の中で、唯一の剣士。
その男が今、俺の目の前に立っている。