EP39 玉の輿プリンセス
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「なっ、嘘だと!!」
「当たり前でしょ。なんであのタイミングでアンタに告白しなきゃなんないのよ。普通あれで演技だって気づくでしょ。あ、もしかしてアンタどうt」
「なわけあるか!!そんなわけないだろ!!…よくも我のピュアな恋心を弄んでくれたな」
メイク室から聞こえてくるのは魔王の虚し過ぎる必死な叫び声だった。
「別にいいでしょ。このくらい減るもんじゃないんだし」
「いいわけあるか!お前のせいで楽しみにしていたパフェを食べ損ねたんだぞ。どうしてくれるのだ!」
「そんなの知らないわよ」
あの後慌てて戻ってみたら満面の笑みで勇者は最後の一口を幸せそうに頬張っていた。
アイツはアイスが溶けるから仕方なく食べてやったと言っていたが、あの顔は仕方なく食べた奴がする顔じゃない。
「それなら訳くらい聞かせてもらおうか。当然、食べ損ねたパフェに見合うよっぽどの理由があったのだろうな?」
「……一緒にいたあの男の人いるでしょ。彼、私の婚約者なの」
「へぇー。って婚約者!!それはつまり2人は付き合ってるってことか」
この女。そういう男がいるのにも関わらず我を彼氏だなんて誑かしたのか。
「付き合ってなんかないわよ。私の親が勝手に決めただけでこっちはそんなつもりないわ」
「なんだそういうことか。驚かせるな。要するにお前はあの男の事をなんとも思ってないってわけだ」
「だからそう言ってるでしょ。…彼氏がいるって言ったらあっちの方から離れざるを得ない。そう思ってたのに」
「上手く行かなかった。あの男の様子を見るにお前に惚れてたからな。無理もない」
「あの人、私に怒るどころか必ず俺に振り向かせてやるってめちゃくちゃ意気込んでたわ。アンタのせいで逆効果よ!どうしてくれんのよーー」
今度は逆ギレか。この女は我に何か恨みでもあるのか。
「…嫌いな奴を好きになれとは言わないが、そんなに想ってくれる人がいるのなら少しは意識してみたらどうなんだ」
「嫌よ。絶対に嫌!!」
首が取れるんじゃないかと思うくらい首を横に振り抜き、頑なに拒否する槇乃。
「そんなにあの男は嫌な奴なのか?……」
「別に嫌な奴じゃない。むしろ良い人すぎるくらいよ。礼儀は正しいし話もそこそこ面白いそれにめちゃくちゃ優しい。それにお金も持ってる」
「ほぉ。所謂ハイスペック男子って奴じゃないか。なのにどうして嫌がる必要がある」
「あの人日本屈指の警備会社ILSOK社長の御曹司なのよ」
ILSOK。テレビCMでもよく見るし、街中の店にもロゴのシールが当たり前のように貼られているな。
「じゃあそのまま上手くいけば玉の輿ではないか。この世界の女は皆玉の輿を狙っているのだろう?何故嫌がる」
「どこで聞いたのよそんな情報。私を一緒にしないで。少なくても私はそんなものに興味はないわ」
「なら他に好きな男でいるのか?」
「っ!!な、なわけないでしょ。だからなんでそうなんのよ!?」
嘘をついてるようには見えないが、かと言って全くの大外れってわけでもなさそうだ。
「なら他に理由があるのか」
「……私辞めたくないのよ、この仕事」
は?
「辞めたくないのなら辞めなければいいだけだ。結婚してからも仕事は続けられるだろ」
「フッ……あっちもそのくらい理解があったら良かったんだけどね」
「どういう事だ」
「あっちは結婚したら仕事を辞めてすぐ家庭に入って欲しいって言ってんのよ。それ以外は考えてないみたい」
「意味が分からん」
人間とは不思議な考えをする。何故結婚したからってそんな事を赤の他人に指図されなきゃならんのだ。
自分の人生は自分のものだろう。それは何があっても変わらない。その筈なのに、
「…私の親もこの仕事を続けることを望んじゃいない。今でも電話してきたら、一言目には「良い相手がいないのか?」二言目には「結婚はまだか?」最後は「子供とかどうするの?」よ。こっちの意思なんか無視なんだから」
「大変だな人間ってやつは……」
我のいた世界じゃとても考えられん。正直この世界の文明に嫉妬して、この世界に生まれていればって思ったことが無いわけじゃない。
この世界には元の世界には無い素晴らしい所が沢山あるからな。
でも、この世界に順応しようと生きてみてつくづく分かったのことがある。
面倒くさいっ!!!ただその一言に尽きる。
「は、アンタ何言ってんの?アンタも私と同じ人間でしょうが」
「我は魔王だ。一緒にするな」
「はいはい」
いい加減にして聞き流す槇乃。
「ま、親の心配する気持ちも分からないわけじゃないんだけどね。私も今年で29だしさ、」
だったら20500歳で結婚どころか経験もしていない我はどうなるのだ。
「でも諦めるつもりもない。だから今よりもっと売れなきゃなんないのよ!売れて売れまくって周りの奴ら全員に仕事を辞めさせるのは勿体無いって思わせてやるのよ」
「それで神道の嫌がらせにも黙ってたってわけか。売れるために」
「そうよ。どんな手を使っても売れなきゃいけないの」
「……」
「だけど悪あがきももう終わりかな」
落ち込んだ顔を見せる槇乃。
「諦めないって言ったばかりだろ」
「そんなの言ってみただけ。どうせ今更これ以上私が売れるなんて無理なのよ。それできっと好きでもない男に初めてを捧げてそこそこ幸せになるのよ。そっちの方が両親も喜ぶだろうし。分かりきってるわ」
「待て、初めてって…」
「そんな質問待ってまで答える必要ないでしょ。私行くわ。…癪だけど一応謝っとくわ。昨日は悪かったわね」
すると槇野は一万円札だけを置くとスタジオにそそくさと向かった。
「何メイク室で騒いでんだ。廊下まで筒抜けだぞー。って槇乃、どうしたんだ?」
すれ違いざまに入ってくる間宮達。
「さっきの槇乃さんちょっと変でしたよね」
「もしかして魔王、あの人に手でも出そうとした?」
打ち合わせついでに来た青柳と優菜も一緒だった。
「バカ言え!!そんなわけなかろうが!!」
「本当に?」
「本当だ!お前には我がそんな軽い男に見えてるのか?」
「出来っこないのが分かってるから言ってるのよ。冗談も通じないの?」
「ぬぅ……」
思わずムキになってしまい言葉が詰まる。
「あ、そういえばちょっと前から気になってたんだけど優菜ちゃん、いつの間にかまおおにいさんの事ポンコツじゃなくて魔王って呼んでるんだね」
「言われてみれば確かに。あんな頑なにポンコツ、ポンコツ言ってたのにな〜。どういう心境の変化だよ」
「別に大した事じゃないですよ。ただ、魔王のお陰で今後悔せずにいれるから、それだけです…」
少し照れながら優菜は答えた。
「つまり認めたってことか」
「まぁ、そんなところですね……」
優菜は顔を赤く染め上げる。
「別に恥ずかしいことじゃない。一々照れるでない」
「うっさい!…」
「ゴフッ……」
照れ隠しか優菜の拳は魔王の脇腹に直撃した。
「喧嘩するほど仲がいいってやつか」
「というよりはツンデレ?」
2人の様子を微笑ましく見守る間宮達。
「で、槇乃とお前はなに話してたんだ?結構盛り上がってたみたいだが」
「ああ、それがだな……」
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