EP36 バカと勇者は使いよう
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「急げ!」
「分かってる、分かってるけどやっぱり無理だよ」
「さっき諦めないと決めたばっかりだろ」
優菜の手を引きとにかく走る魔王。
「だけどここから空港までなんてさすがに間に合わないって撮影まで10分もないんだよ」
「方法ならある。とにかく我を信じろ!」
優菜の言う通りテレビ局から空港までは車を使っても30分はかかるだろう。
しかし我にかかれば30分も必要ない。
問題は別れを惜しむ時間が10分もないってことだ。
だがそれも我の記憶が確かならなんとか出来るかもしれん。
「くそ!アイツはどこだ……」
「ねぇ。どこに向かってるの!?出口あっちだよ」
「分かってる。だがその前に会わなきゃいけない奴がいるのだ!」
我は勘を頼りにテレビ局を駆け回る。
するとようやくお目当ての人物を目撃した。
「見つけたぞ勇者よ!」
「なっ!……」
突然鬼の形相で駆け寄ってくる魔王を見てすぐに剣を取り出し戦闘態勢を取る勇者。
「ちょっと待て!今そのつもりはない」
「なに…」
我だって出来れば我を殺す力を持ってる勇者となんて頻繁に会いたくはない。
だが、今日は例外だ。
「まずは落ち着け」
「これが落ち着いてられるか!か弱い少女を人質に取るとはお前も落ちるところまで落ちたようだな。流石は魔王と言ったところか?」
「そうじゃない。だから話を聞け!」
「聞くか!優菜ちゃん待ってろ。今すぐ俺が助けてやるからな」
「え?……」
見た事もない勇者の様子に戸惑う優菜。
しかしこれは想定内。やはり我の記憶は間違ってなかったようだ。
予定通り2人は顔見知り。
「最近撮影に身が入ってない様子だったからずっと心配していたんだ。しかし、魔王がそれに関わっていたとなら納得だ」
「え、いやあの、光之さん。違うんです」
「大丈夫。言わなくても全部分かってる。どうせ魔王の奴に脅されでもしたんだろ?…今の今までそれに気づけなかったなんて勇者として恥ずかしいよ」
「あの、だから違うんです」
一方的に話を理解しこちらの話を聞こうともしない勇者。
2人は今例のドラマで共演している。あの時見たポスターに優菜が隣に写っているのを思い出したのだ。
そして思った。これは使える。
「さぁ、魔王。その子を離して貰おうか。彼女にはまだ仕事が残っているんだ」
「分かっている。だがその望みをすぐに叶えることはできない。まだ彼女にはやるべき事があるんでな」
「なんだと!……。貴様、彼女になにをさせるつもりだ」
「なんでもよかろう。だがその為ににまずはお前にやるべき事をやってもらおう」
「なっ!」
一瞬動揺を見せた勇者であったが剣は構えたまま。
このままこんな所でも見られたら今度こそ騒ぎになって取り返しつかないことになる。
色々と急がなければ。
「我らはこれから行くべき場所がある。お前にはそこから彼女が戻ってくるまで現場で時間を稼いで貰いたい。彼女が安心して撮影に臨めるようにな」
「は!?魔王のお前がなんのつもりだ」
「なんでもいいだろ。勇者なら小さなことでつべこべ言うでないわ。それにお前は我に借りがある事を忘れるなよ?」
「借りだと…」
全く心当たりがありませんって顔をしてるな。勇者のくせに白々しい奴め。
「この前の焼き鳥屋での一件。忘れたとは言わせんぞ。奢ると言っときながら結局我に半分以上払わせおって」
「ッ」
コイツ、舌打ちしやがった。バレてないとでも思ってたのか。
「その時の借りを今日返して貰うぞ」
「断る。それとこれとなんの関係がある。今は全く違う問題だろ!」
「だから小さな事を気にするではないわ。とにかく!彼女の為を思うのなら黙って我に従うのが得策の筈だぞ」
「ん……」
勇者は渋々剣を下ろす。
「よし。流石は勇者だな」
「お前の為じゃない……。いいか!戻って来なかったり彼女に何かあれば俺はお前を」
「聞くまでもない。そんな事には絶対ならんからな。じゃ頼むぞ!」
魔王は再び優菜を引き連れ走り出す。優菜は去り際に勇者に頭を下げたようだった。
「……」
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