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EP33 恋するプロフェッショナル

閲覧感謝です!

貴重なお時間にお邪魔します……

「そういうわけなのだが。…お前はなにを黄昏れている。子供ならもっとそこら辺で騒いでたらどうだ?」

「!!別にいいでしょ、なにしてても。っていつの間に……」


背後から突如聞こえた魔王の声に驚く優菜。


「聞いてなかったのか。霧島さんに頼まれてな、仕方なくお前がおかしくなったわけを聞きにきた」

「別におかしくなんかなってないわよ…」


「少なくても周りはそう考えてないらしいぞ」

「知らないわよそんなの……」


耳こそ傾けているが優菜は全くこちらを見ようとはしない。


「それにしてもテレビ局の屋上からこんな綺麗な景色が見えるとはな。子供のくせに中々良いところを知ってるではないか」


目の前に見えるのは都会ならではのビル群。

だが少し上を見上げると雲ひとつない真っ青に染まった明るい空と太陽が我らを照らしている。


「どこの世界でも空は美しいものだな」

「……ねぇ、空ってどこから見ても一緒なのかな?」


優菜は空を見上げながら一言呟いた。


「ほぉ。小娘のくせに随分深い質問するではないか」

「小娘じゃない。何度言わせんのよ…」


「そうだったな」

「で、どう思うの?魔王ならそのくらい知ってって当然でしょ」


彼女の言葉からは冗談のような雰囲気も感じたが、それ以上に彼女は何かを求めている気がした。


「…さあな。魔王であっても全知全能ってわけじゃない。そのようなこと我に聞かれても望む答えは返ってこないと思うぞ」

「そっか……」


溜め息を吐き落胆した様子を見せる優菜。


「因みにこれは我の持論だが」

「え?」


「見る場所やその者の価値観によって見ている景色の意味は違う。よって、物理的にも心理的にも同じモノを見ていることはない」

「そうだよね……分かってる」


「しかし、この広い青空に決して終わりはない。例え見ている場所や想いが違えどそれは何処かで繋がっているのかもしれないぞ」


少しカッコつけすぎたか……?


「ポンコツのくせに、結構ロマンチックなこと言うのね……」

「ポンコツは余計だ。…別にいいだろ。理想や綺麗事が信じられなくなったらその命に生きる価値はないんだからな」


すると優菜の頬に一滴の涙がつたう。


「!……」

思わず涙を流す優菜の姿に一瞬動じる魔王。20500年生きてきた魔王だが今まで一度も女性と関係を持ったこともなければ、涙を流させた事もない。

故に魔王が驚くのも無理はなかった。


「……すまない。我としたことが」


自分の行動を改め頭を下げる魔王。


「!別に泣いてなんかないわよ……それに謝らないで。アナタのお陰でちょっと楽になったわ」


優菜は涙を拭うと魔王の頭を上げさせる。


「ありがと。覚悟は決まったから。もう私は振り返らない」

「覚悟?なんの話だ」

「私がおかしくなった理由聞かせてあげる」


優菜は自らのスマホを取り出し操作すると、一枚の写真を見せる。


「これは…」

「昔の私」


写真には今よりもう少し幼い頃に撮られたであろう優菜の姿が写っていた。そして隣には一緒に笑う男の子の姿が。


「で、隣にいるのが家が近所で幼馴染の中条優衣兎」

「2人とも楽しそうだな」

「親に内緒で夏祭りに行った時撮ったやつだから。正直、あの頃が今までで1番楽しかった」


写真と話す優菜の様子を見て何かを察した魔王は分かりきった口調で話しだした。


「なるほどな。それで今は彼氏か…好きなのだろ?」

「彼氏!?っなわけないでしょ!!…なんで私が優衣兎を彼氏にしなきゃいけないのよ!そもそも好きでもないんだから……!」


必死に否定する優菜の顔はとても赤く染まっていた。


「(図星か。分かりやすいな)」

「ってなんでいきなりそんな話になるのよ。そんなこと私一言も言ってないじゃない!」


「そうだな。じゃあなんでそんなに照れてるのだ?」

「それは……」


困った顔をする優菜。その顔はとても……凄かった。

これは幼馴染が惚れるのも無理はないな。


「もういい。我が悪かった。そんな顔はしないでくれ。我が保たない……」

「は?」

「気にするな。で、それがどうしたのだ。何かあったのだろう?」


逸れてしまった話題を慌てて元に戻す。


「優衣兎とは昔から本当に仲が良かった」

「良かったか。過去形なんだな」


「あ、いや、別に今でも仲が悪いってわけじゃない。だけどなんか、一緒に居づらくて」

「それはそれは」


慎ましい青春の話に思わず笑みが溢れる魔王。

この世界には様々な色恋を題材にした物語が存在するようだが、やっぱり生は違うな。なにせ我には刺激が強すぎる…。


「それに、私学校でもなんとなく居場所が無くて。周りからも距離を取られてる気がして退屈だった。だけど優衣兎だけはいつも私の事を気にかけてくれてた…」


小娘と我は少し似ている気がする。

元の世界で我は明らかに同族からも距離を取られ嫌われていた。

自分で言うのは癪だが我は人望も人気も無かった。

だからといって別に気にすることはなかったが、そういれたのは案外アイツがしつこく我の所に押しかけて来てくれたからかもしれない。

今ならそう思える。


「だけどそんな優衣兎とはもうすぐ会えなくなっちゃう」

「なに!!まさか、死ぬのか?……」


その男もアイツのように。


「ちょ、バカ言わないでよ。縁起でもない。そんなわけないでしょ!」

「じゃあなんでなのだ!」


「大袈裟。ただ引っ越すだけよ。家族の都合で海外行くんですって」

「なんだ、そうなのか」


「でももう会えないのは変わらない。いつこっちに戻ってくるかなんて分からないし、私も仕事の都合であっちに行くこともできない。だからこれがきっと最後」

「それを最後とは言わん」


「いや最後よ。もう会わない。さっきそう決めたから」


優菜の瞳は真剣そのものだった。


「さっきアナタが言ってくれたでしょ。どんなに離れててもこの青空がある限り繋がっている。それならきっとまたいつか会える日が必ず来るはず」

「いや待て。だからってもう会わないと決めるのは些か早いんじゃないか?せめて見送り位行ってやったらどうなんだ」

「行かない。それが私なりのけじめだから」


子供のくせにそういうところは肝が据わっている。そういうところが生意気で可愛くない。もっと正直になったって罰は当たらないだろうに。


「次会う時は今よりもっといい女になっててやる。優衣兎が無視できないくらい最高の女に」


嘘は女のアクセサリー。そんな言葉がこの世界にあるらしいが、今の彼女には似合わない。そう思えてならなかった。


「ポンコツ。さっきは色々と八つ当たりして悪かったわね」

「別に構わん」


「霧島さんにも伝えといてもう大丈夫だから心配しないでくださいって。分かった?」

「だったら自分で伝えろ」


「私の様子を見てこいって頼まれたのはそっちでしょ。それに私はこれからドラマの撮影行かなきゃだしね」


そう言うと優菜はもう一度空を見上げる。大きく深呼吸をして一息吐くと屋上を後にしようとする。


「じゃあね。また今度」

「待て…」


魔王は優菜の方を振り向かないまま声をかける。

優菜も魔王の方には振り返らなかった。


「いつなんだ。その幼馴染とやらが引っ越すのは」

「明日よ…」


「本当に行かなくていいのか。我は後悔しても知らんぞ」

「したくてもできっこないわ。そもそも私に選択肢なんか無かったのよ。明日も仕事で行く暇なんかありはしないんだから。私はプロよ」

「おい、」


遂に魔王が振り返った時にはもう既に優菜の姿はなかった。

他人のことだというのになんだかモヤモヤする。自分の事じゃこんな気持ちなったこともないというのにな……。

ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


よろしければブックマーク、評価を頂けると、とても励みになります!



次回もお付き合い頂ければ嬉しい限りです。

勝手に祈ってお待ちしております。

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