EP31 スタジオの中心で愚痴を叫ぶ
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「ちょっと何やってんのよポンコツ!!しっかりしなさい」
「いやいや、我は何も間違ってないだろ」
「…とにかく間違ってんのよ!!もう一回やり直しよ」
「なんなのだあれは……」
この日の撮影はいつもよりはるかに荒れていた。
小娘が必要以上に我に突っ掛かり一向に撮影が終わらないからだ。
挙げ句の果てには
「ポンコツ!!いや、ドポンコツ!!大人なんだから子供の足引っ張らないでよね」
魔王の我にこの言い草だ。人をこってりラーメンのスープみたいに言いおって。
今日は演者だけでなく関わるスタッフ全員が11歳の少女に振り回される始末。
「優菜の奴。あんな感じだったけ…」
「らしくないですよね。まおおにいさんとも結構上手くやってると思ってたんですけどねーー。もしかしてあの2人何かあったんですかね?」
各々の仕事をしながら影で愚痴り出す間宮と青柳。
「何かってなんだよ…まさか魔央の奴と何かあったっていうんじゃないんだろうな」
「分からないじゃないですか!あの子だって年頃の女の子なんですから」
「それはそうかもだがそっちじゃない。問題なのは魔央の奴だ。未成年との関係だなんて噂にでもなったらマズイだろ。番組的にも大人的にもよ」
「そうですか?」
「そうだよ!ったく、ようやくアイツも番組に慣れてきて俺もちょっとは楽ができると思ったんだけどな。あーあなんでウチはいつもこう問題ばっか起きるかね」
愚痴りながらも淡々と仕事をこなす間宮に対し青柳は手を止め優菜の姿をじっと見ていた。
「…でもあの子の目。やっぱり誰かに恋してるんですよ」
「なんで言い切れるんだよ」
「私も恋してるからです」
「へぇー、お前がね。因みに誰だよソイツ」
「え、」
間宮の発言に驚く青柳。
「な、なんだよ。聞いたらまずかったか?」
「いや、そうじゃないですけど…」
「そうじゃないならなんだよ」
「私ももっと頑張らなきゃなーって。色々と」
「そ。じゃ頑張れ」
間宮は次の撮影に使う道具一式を青柳に渡す。
「リョウカイデース…」
気の抜けた返事を済ますとぶつぶつ独り言を呟きながらその場を後にした。
「ダメよダメ!!全然ダメ!!やり直し」
「またか……」
ようやく撮影が再開したと思ったらすぐにこれだ。これじゃいつまで経っても終われないじゃないか。今日は早めに仕事を終わらせて昨日事で勇者に文句を言ってやろうと思っていたのに。
「何よ。その顔。アンタがポンコツだからダメなんでしょう。私が悪いみたいな顔でこっちを見ないでよ」
「じゃあ、聞かせてもらうが何がダメなのだ。さっきから一々止めてばっかりで全く進まないではないか。ダメだと言うのならせめてその理由を言ってくれ」
「それはさ…」
妙に口籠る優菜。
「あの、あ!フリよ。フリ!フリがずっと間違ってるの」
「いや、フリは合ってるだろ」
「…そんなことない。屁理屈言わないでよ!それはあなたが勘違いしてるだけでしょ!…とにかくっ、私がダメだって言ったらダメで間違いないのよ!!」
「……(以前も誰かに似たようなことを言われて振り回されたっけ)」
「いいからもう一回最初からよ。私も付き合ってあげるから感謝しなさい!」
「その必要はないわ」
プロデューサーの霧島がこの様子に見かねてやって来た。
「間違ってるのはアンタの方よ。優菜。あそこのフリはあれで合ってる。これが証拠よ」
霧島は持っていたタブレットでダンスのお手本映像を見せる。
「それは……」
急に口籠る優菜。
「優菜もこれで納得したわよね?分かったなら急いで次のシーン撮るわよ」
「……」
「アンタこの後ドラマの撮影だってあるんだから。それに遅れたらアイツにまた文句を言われるのは私なんだからね」
「 (アイツ?それにまただと……)」
魔王は霧島の言葉に引っかかる。
「いいわね?」
「…イヤだ」
「え、」
「私は納得できないから」
頑なに拒否し続ける優菜。その様子はまるで撮影を終わらせたくないようにも見える。
「優菜」
「そうだ!それならこうしようよ。私が考えたフリでもう一回撮り直すの。それだったら納得してあげる」
「ダメよ。そんな時間今更あるわけないでしょ!」
「でも、そうじゃなきゃ私は絶対納得しないから。早く終わらせたいなら急いで新しいフリを覚えなきゃね。ポンコツ!みっちり叩き込んであげるから覚悟しなさい」
「おいおい…」
強引に優菜が魔王の手を引こうとした瞬間。
「いい加減にしなさい!!」
「!…」
霧島怒りに満ち溢れた大声が優菜に飛ぶ。
「さっきから聞いてたら子供みたいにわがままばっか言って、アナタはプロでしょ!プロならプロらしく相応しい行動を取りなさい」
「でも!……」
「でもじゃない。アナタのワガママ一つが多くの人達に迷惑かけるのよ。そのくらいアナタなら分かってる筈よね?」
「…………」
「今日のアナタは優菜らしくない。アナタにもプロとしての誇りはあった筈。一体どうしちゃったのよ?」
「……うるさい」
「え?」
一瞬周囲が静まり返る。今まで聞いたこともない少女の声が周囲を支配したのだ。
「プロになんかなりたくてなったわけじゃない!」
優菜は逃げるようにスタジオを去っていった。
「優菜!……」
「……未成年の主張ってやつだな」
「呑気に上手いこと言ってる場合か」
間宮は魔王の頭を叩く。
「いたっ!…」
結局、それから優菜が戻ってくることはなく撮影は中止になった。
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