EP23 小さき相棒に導かれて
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「ったく、間宮もあんなに怒らなくてもいいではないか……」
我はスタジオから出て直ぐそばの通路を道順に歩き回っていた。
「それにしても、この広いテレビ局のどこを探せというのだ」
何十階と連なるこの建物の中で小さな子供を探すのは魔王の我でも骨が折れるというもの。
「仕方ない。そこら辺歩き回っていれば、先に誰かがきっと見つけてくれるだろう」
局内に貼ってある展示物や仕事をする人々を見ながら時間を潰そうとする魔王。
そんな魔王と目が合ったのは。
「あー」
「あ」
出たな、我をポンコツ呼ばわりする忌々しい小娘め。
「ポンコツのくせに何一丁前に仕事サボってんのよ」
「なんとでも言うがいい。これでも一応仕事中。それにこれさえ終われば我がもう此処に来ることもないだろうからな」
「何それ、辞めるってこと?」
「そうだ」
小娘よ。何故そんな顔をする。ポンコツ呼ばわりの我がいなくなるのだぞ。もっと喜んでもよいではないか。
「あ、もしかして寂しいのか?」
「は!?なわけないでしょ!…勝手に変な勘違いしないでよねポンコツ!!」
「そうか」
「そうよ…」
なんだ、違うのか。
「ところでそんなお前こそ、さっきスタジオにいなかったではないか。それで人の事をとやかく言える立場か?」
「何言ってんの。この時間そもそも私の出番ないんだからいないのは当たり前でしょ!?」
「あーー、そうか。そういえば台本にお前の名前はなかったな」
言ってやったつもりが恥ずかしい。
「そういうアンタは仕事だって言ってたけどこんな所で何してんのよ?」
「ちょっとした探しものだ」
「探しもの?」
「ああ。スポンサーの孫が行方不明なんだ。このままだと、番組は大変な事になるらしい」
「何それ!めっちゃヤバいじゃん!!」
口を押さえ驚く優菜。
「そうらしいな。まぁ、辞める我には関係ない話だ」
「…ねぇ、そのいなくなった子ってどんな子なの?」
「どんな子と言われてもな…権力者の孫だ」
「それは聞いたわよ。そうじゃなくてもっと特徴とか教えろって言ってんの」
「そうだなぁ、確か男だったな」
「男の子か」
自身の記憶を辿る優菜。
「もしかして心当たりでもあるのか?」
「バカ?」
遂には優菜までが我の頭を叩く。
「おま、」
「今このテレビ局にどれだけ子供がいると思ってんのよ!!それなのに男の子ってヒントだけで心当たりなんてあるわけないじゃん」
「…」
どいつもこいつ我の頭を叩き折って、我の頭は楽器か何か!?
「もっと分かりやすい特徴とかないわけ?例えばさどんな服着てたかとか、なんか持ってたとか。他に覚えてることないの」
「あ、そういえば」
「なに?」
「確かその子供は何か人形を大事に持っていたような…」
「人形!?ねぇ、それってどんなのだった?」
ち、近い……。体が当たってる。
「…我も詳しくは分からないが、何か恐竜とかいう生物をモチーフにしたものらしいぞ。霧島がそんな事を言っていたのを聞いた」
「恐竜!?。もしかして、それってさこんなんだった?」
優菜持っていたバックから人形を取り出し我に見せる。
「それだ!!そうだ間違いないぞ!!」
「やっぱり」
「だが、なんで小娘がそれを持ってる?」
「小娘って呼び方変えてくれたら教えてあげる。…特別に優菜って呼んでいいわよ」
「っ……」
なんて面倒くさい小娘だ。忌々しい…。年頃の女子を名前で呼ぶなんて我にはハードルが高すぎる。
が、言わなきゃ理由も知れぬまま。それはそれでむず痒い。
「……ゆ、ゆ、…ゆうしゃ、じゃなくて優菜」
言った。言ったぞ!!言ってやった……。我なりに良くやったほうだろう。勇者の名前を挟んだらなんとかなったぞ。
「勇者?まぁいいや。よく出来ました」
優菜は勢いよくジャンプすると我の頭を撫でる。
「!…小娘に褒められても嬉しくないわ。言われた通り名前で呼んだのだ。約束を果たして貰おうか?」
「約束だもんね。…拾ったのよ」
「拾った?」
「うん。実はちょっと前に男の子とぶつかって、その時男の子がこれを落としてったのよ。なんか凄く大事そうにしてた感じがしてたから直ぐに返そうと思ったんだけど、その時にはもういなくなってて」
「なるほどな…」
これならなんとかなるかもしれん。
「何頷いてんのよ。気持ち悪い…」
「我に向かって気持ち悪いとはなんだ!!気持ち悪いとは。…だがでかしたぞ小娘、いや、優菜よ」
少しにやける優菜。
「何を笑っておるのだ、気持ち悪い」
「私は気持ち悪くないわよ!」
「そうだな」
少し顔を背けるとすぐに我の方へ向き直す。
「…それでどうするつもりなの?」
「奴を効率よく見つける方法を思いついた」
「なにそれ」
「見てれば分かる。あ、因みにだが今から起こることは2人だけの秘密だぞ」
「秘密って…アンタ一体何するつもりなの」
「こうするのだ!」
魔法を唱えると人形が命を得たかのように動き出した。
「え、えーーー!!!なにこれどうなってんの!?」
思わず開いた口が塞がらない優菜。
「我の力で一時的にこの人形に魂を宿した」
「は、力?魂を宿した?意味分かんないんだけど!」
「落ち着け。この位のことで一々動じるのではない。この程度の魔法、魔族なら誰でもできる事だ」
「いや、今は設定とかどうでもいいから、仕掛けを教えてよ。仕掛けをさ!」
その驚きよう。まるで玩具を与えられた子供のようだな。
いや、大人っぽく見えるだけでまだ子供。これが普通の反応か。
「とにかく細かい事は気にするのではない」
「全然細かくないから〜!」
「やっと笑ったな。いい顔をしおって」
「は!?、何よそんな人の顔をジロジロ見ないでよね!!」
分かりやすく照れる優菜。それとも、
「…そんなに我が気持ち悪いか?」
「別に。そんなこと今は言ってないでしょ。勘違いしないで」
年頃の女子の考えてる事はイマイチ分からない。そもそも我が女性の気持ちなど分かるわけがないのだが……。
「そうか」
「そんな事より、これになんの意味があるわけ!?」
「この人形の持ち主はこれをとても大事にしていたらしい。そういう物には想いが宿り絆が繋がる。だから人形自身にその絆を辿らせご主人様のもとまで案内させる」
「なにそれ…めっちゃ面白そう!!」
意外と乗り気な優菜。どうやらこの作戦を気に入ってくれたらしい。
「だろ?そうとなれば此奴に名前を与えなければな」
「名前?」
「ああ。物に魂を定着させるためには名前を名付ける必要があるのだよ。そうだなー、よし。今からお前の名前はバビルニウス・ヴェスパルバだ!!」
「ダッサ!!それになっが!!センス無い、却下!!」
「ダサいとはなんだ!!いいか?ヴェスパルバという名もバビルニウスという名もどちらも魔族として誇り高い由緒正しき名前なのだぞ!!」
「そんな設定知らないわよ!!」
「なっ……」
魔王のつけた呼び名に納得しない優菜は咄嗟に頭を捻らせる。
「もういい私がつける。そうだな〜、ポチにしよう!!」
「ポチ!?」
我は思わず飲み込んだ唾を気管に煮詰まらせ咽こむ。
「ちょっと、大丈夫!?」
「なんなのだその名前は!?」
「いいじゃない、ポチ」
「犬や猫じゃないんだぞ。大体、可愛いのか可愛くないのかもはっきりしないそんな名前のどこがいいのだ!!」
「何言ってんの、ポチは可愛いわよ。とにかくこの子の名前はポチだから!!例外は認めない」
頬を膨らませ我に威圧する優菜。
「……仕方ない。分かった。ならばこれからお前の名前はポチだ!!」
すると恐竜の人形改めポチは呼びかけに答え頷いて見せる。
「ほら、この子も気にいったみたいよ」
「ふっ、そうだな。よしポチよ。お前と持ち主の絆を我らに見せてみよ!!」
再び頷くとポチはご主人様の元へ惹きつけられるように走り出した。
「あ、走り出した」
「よし、我らも追いかけるぞ」
「私も!?」
「行かないのか?」
「いや、そうじゃないけど、来て欲しいっていうならついてってあげないこともないけど…」
「ならば我について来い。どうせ暇だろ?」
「うん」
魔王は優菜の手を引っ張りポチを共に追いかける。
「…って暇じゃないし!」
「いいから行くぞー!!」
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